朿 - 漢字私註
説文解字
木芒也。象形。凡朿之屬皆从朿。讀若刺。七賜切。
- 七・朿部
説文解字注
木芒也。芒者、艸耑也。引伸爲凡鑯銳之偁。今俗用鋒鋩字。古衹作芒。朿今字作刺。刺行而朿廢矣。『方言〔三〕』曰「凡草木刺人、北燕朝鮮之閒謂之茦、或謂之壯。自關而東或謂之梗、或謂之劌。自關而西謂之刺。江湘之閒謂之棘。」象形。不言从木者。朿附於木。故但言象形也。凡朿之屬皆从朿。讀若刺。七賜切。十六部。
康煕字典
- 部・劃數
- 木部二劃
『唐韻』『集韻』『韻會』𠀤七賜切、音刺。『說文』木芒也。徐鍇曰、草木之朿。茦、莿二文、音義𠀤同。○按『說文』朿自爲部、棗、棘字从之、今誤入。
音訓
- 音
- シ(漢、呉) 〈『廣韻・去聲・寘・刺』七賜切〉[cì]{ci3}
- 訓
- とげ。のぎ。
解字
白川
象形。標識として樹てた木の形に象る。才と同じく縱橫の木を結んで樹てた形で、袖木をつけて聖所の標識とした。才は祝詞の器を取り附けた形、朿は橫木だけの標木である。軍の基地を卜文、金文にに作る。𠂤は出征のとき祭つた肉。駐屯地にはその肉を祭り、前に朿を樹てた。
『説文解字』に木芒なり
とし、讀みて刺の若くす
といふ。
單なる木芒(とげ)ではなく、本來は聖なる標識。のち市の門にも立てたらしく、市の初形は朿に之を加へた形。
藤堂
象形。とげの出た刃物を描いたもの。刺の原字。
落合
象形。『説文解字』は篆文をもとに木の棘と解釋し、甲骨文にも木にやや近い形が見えるが、矢に近い字形が多く、また軍事や武人の象徵として用ゐられてをり、武器の一種の象形であらう。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 武人の意。殷王の臣下は朿尹や朿人とも呼ばれる。《合集》5617
呼多朿尹次于教。
- 動詞。軍事攻擊や狩獵の意で用ゐられる。矢朿ともいふ。《合集》29031
叀朿西麋、从…。
- 軍事駐屯地。地名に附して某朿と呼稱される。この場合はが繁文。《合集》14161
貞、王入于鳧朿、德。
- 地名またはその長。第一期(武丁代)には領主が子朿や亞朿とも呼ばれてゐる。また殷金文の圖象記號にも見える。《合補》6916
戊午卜、祝亞朿、用十彘。
- 祭祀名。犧牲を刺し殺す儀禮か。《殷墟花園莊東地甲骨》9
丙寅夕、宜、在新、朿牝一。
- 企朿
- 祭祀名。
- 去朿
- 行くこと。去に同じ。
棘の意に轉用されたのは、後代における字形の誤解か、あるいは武器の鋭さからの派生義と思はれる。
甲骨文の或體の上部に指示記號の八を加へたものは爾で、金文に初出。(補註: 漢字多功能字庫は、當該字形を爾の甲骨文として擧げる。)
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、樹あるいは武器に人を傷つける刺のあるさまに象り(裘錫圭)、刺の初文。後に朿字を用ゐず、刀を意符として加へた刺字を作つて本義のとげを表す。芒は草本植物の外側の細かい針狀の物を指し、刺は樹に生える芒狀の物で、いづれも人を刺し、それで常々連用される。杜甫〈除草〉芒刺在我眼、焉能待高秋。
(參: 王鳳陽)
甲骨文では刺殺を表し、牧畜を宰殺する方法の一つ。《合集》7773朿(刺)羊
。于省吾は、甲骨文では祭祀で牲を殺すときの記錄に、「朿豕」、「朿羊」、「朿魚」など朿字を用ゐる例が珍しくないと指摘する。
金文での用義は次のとほり。
- 武器を表す。四年雍令矛
戟朿(刺)
の「戟刺」は矛の一種を指し、「戟朿」とも稱し、戟が尖つてゐて刺す矛の形を有するによる。典籍では刺に作る。『周禮・考工記・冶氏』戟廣寸有半寸、內三之、胡四之、援五之、倨句中矩、與刺重三鋝。
鄭玄注刺者、著柲直前如鐏者也。
孫詒讓正義蓋戟有直鋒、故謂之刺。
(金國泰、張世超) - 氏族名に用ゐる。
戰國竹簡では靜の通假字となす。『郭店簡・老子甲』簡14智(知)[足]以朿(靜)、萬物將自定。
(補註: 『老子・第三十七章』に相當するか。)
屬性
- 朿
- U+673F
- JIS: 1-59-19
關聯字
朿に從ふ字を漢字私註部別一覽・朿部に蒐める。