矢 - 漢字私註
説文解字
弓弩矢也。从入、象鏑栝羽之形。古者夷牟初作矢。凡矢之屬皆从矢。式視切。
- 五・矢部
説文解字注
弓弩矢也。弓弩所用䠶之矢也。从入。矢欲其中。象鏑栝羽之形。鏑謂丨也。《金部》曰、鏑、矢鏠也。栝作括者、誤。栝謂八也。《木部》曰、桰、矢桰檃弦処。岐其耑以居弦也。羽謂一也。《羽部》曰、翦、矢羽是也。矢羽從、而橫之何也。以識其物耳。矢之制詳於『〔周禮〕考工記・矢人』。式視切。十五部。古者夷牟初作矢。『山海經』曰、少暤生般。般是始爲弓矢。郭曰、世本云牟夷作矢。揮作弓。弓矢一器。作之㒳人。於義有疑。此言般之作是。按弦木爲弧。掞木爲矢。𣪠傳系諸黃帝堯舜之下。葢不妨有同時合成之者。夷牟、郭作牟夷。孫卿作浮游。凡矢之屬皆从矢。
文中の栝や括は𠯑聲であることを反映すべく、旁を舌とは異なる形に作る。
康煕字典
- 部・劃數
- 部首
- 古文
- 𠂕
- 𠓡
『唐韻』『廣韻』式視切『集韻』『類篇』『韻會』矧視切、𠀤尸上聲。『說文』弓弩矢也。从入、象鏑括羽之形。古者夷牟初作矢。『宋衷云』黃帝臣也。『荀子・解蔽篇』浮游作矢。『山海經』少皡生般、始爲弓矢。『爾雅・釋詁』矢、弛也。《疏》以弓釋弦曰弛。『釋名』指也、言其有所指向、迅疾也。『揚子・方言』箭、自關而東謂之矢。『易・繫辭』剡木爲矢。『書・顧命』垂之竹矢。『周禮・夏官』司弓矢、掌八矢之灋。枉矢、絜矢、利火射、用諸守城車戰。殺矢、鍭矢、用諸近射田獵。矰矢、茀矢、用諸弋射。恆矢、𤷒矢、用諸散射。『史記・孔子世家』肅愼貢楛矢石砮、長尺有咫。
又嚆矢、響箭也。『莊子・在宥篇』焉知曾史之不爲桀紂嚆史也。一作嗃矢。黃庭堅曰、安能爲人作嗃矢。《註》射者必先以嗃矢定其遠近也。
又『爾雅・釋詁』𨻰也。『虞書序』臯陶矢闕謨。『春秋・隱五年』公矢魚于棠。『詩・大雅』無矢我陵。《傳》矢、𨻰也。《箋》猶當也。『正義』矢實𨻰義、欲言威武之盛、敵不敢當、以其當侵而𨻰、故言矢猶當也。
又『爾雅・釋言』誓也。『書・盤庚』出矢言。『詩・衞風』永矢勿諼。
又『博雅』正也。直也。『易・解卦』得黃矢貞吉。『詩・小雅』其直如矢。
又施也。『詩・大雅』矢其文德。
又投壷之籌曰矢。『禮・投壷』主人奉矢。
又星名。『史記・天官書』枉矢、類大流星、虵行而蒼黑、望之如有毛羽然。
又『釋名』齊魯謂光景爲枉矢、言其光行若射矢之所至也。
又鉗矢、蓬矢、諸羌州名。見『唐書・地理志』。
又『廣韻』屎本作矢。『左傳・文十八年』埋之馬矢之中。『史記・廉頗傳』一飯三遺矢。
又複姓。『前漢・馬宮傳』本姓馬矢、宮仕學、稱馬氏云。
『集韻』或作𥬘。
- 部・劃數
- 丿部四劃
『集韻』矢、古作𠂕。註詳部首。
- 部・劃數
- 入部四劃
『集韻』矢古作𠓡。注詳部首。
- 部・劃數
- 竹部五劃
『字彙補』同笶。○按笶旣俗書、此復因笶而誤。
- 部・劃數
- 竹部五劃
『玉篇』式氏切『類篇』審視切、弓弩矢也。俗矢字。
音訓
- 音
- シ(漢、呉) 〈『廣韻・上聲・旨・矢』式視切〉[shǐ]{ci2/si2}
- 訓
- や。つらねる(矢魚)。ちかふ(矢言)。
粤語のsi2は屎と通用するときの音。
解字
白川
象形。矢の鏃のある形に象る。
『説文解字』に弓弩の矢なり。入に從ひ、鏑、栝羽の形に象る。
とするが、入の形は鏃。字の全體が象形。
「矢ふ」と讀むのは、古く誓約のときに矢を用ゐることがあつたのであらう。誓は矢を折る形に從ひ、知、智も矢に從ふ。
また「矢ぬ」と讀むのは、施、肆と同音で、その義に通用するのであらう。
藤堂
象形。眞つ直ぐな矢を描いたもの。
落合
矢の象形。上部は鏃、下部は矢羽を表してゐる。同形は十二支の寅としても用ゐられる。鏃と矢羽を區分する橫線を加へた形もあり、その一つが後代に繼承された。
甲骨文での用義は次のとほり。
- や。弓で放つ武器。《合集》36481・驗辭
…小臣牆從伐、禽危美人二十人四…人五百七十[⿰阝奚]百…車二丙[⿰月虎]八十三函五十矢…。
- 動詞。軍事行動の意であらう。同じく武器である朿と合はせて矢朿とも言ふ。《合集》5699
貞、亞不矢。
- 祭祀名。《合集》23053
丁巳卜行貞、小丁歲眔矢、歲酒。
漢字多功能字庫
古文字は矢の形に象り、矢の鏃、栝(矢筈)、羽がみなはつきり見える。甲骨文、金文、戰國竹簡はあるいは字體を倒置する。本義は矢。寅はかつて矢字を假借してその義を表し、ゆゑに二字は本來は同じ形。後に寅の字形の中間に口を加へ、二字に分化した。『説文解字』では入に從ふとするが、按ずるに矢は入に從はず、また『説文解字』の言及する「夷牟」は黃帝の家臣で、矢作りの責を負つた。『世本・作篇』揮作弓、夷牟作矢。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、矢を指す。《合集》36481正
圅五十、矢……
卜辭辭殘では、前の文は、圅が矢を入れる袋であるやうに、ただ武器甲冑などの軍用の物品とその數量に言及する。 - 陳列を指す。《合集》10899反
矢隻(獲)
は、捕獲したものを陳列することを指す。『爾雅・釋詁上』矢、陳也。
金文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、矢を指す。[冬戈]𣪕
孚(俘)戎兵。盾、矛、戈、弓、備(箙)、矢
は、外族の武器つまり盾、矛、戈、弓、箙、矢を俘獲することを指す。 - 國名に用ゐる。矢白隻乍父癸卣
矢白(伯)隻(獲)乍(作)父癸彝。
近世に出土した《睡虎地秦簡》では矢をあるいは通じて屎となす。司法鑑定(評定)に關する文獻〈封診式〉では、「遺矢」や「下遺矢弱(溺)」などの語がある。傳世文獻では矢を屎の通假字となす。『史記・廉頗藺相如列傳』の、趙王の使者が廉頗を讒言したときの「一飯三遺矢」が最も有名な例。
屬性
- 矢
- U+77E2
- JIS: 1-44-80
- 當用漢字・常用漢字
- 𠂕
- U+20095
- 𠓡
- U+204E1
- 𥬘
- U+25B18
- 笶
- U+7B36
關聯字
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