夨 - 漢字私註
説文解字
傾頭也。从大、象形。凡夨之屬皆从夨。阻力切。
- 十・ 夨部
説文解字注
傾頭也。『人部』曰、傾者、夨也。夨象頭傾。因以爲凡傾之偁。从大、象形。象頭不直也。阻力切。十一部。凡夨之屬皆从夨。
康煕字典
- 部・劃數
- 大部(零劃)
『集韻』乃結切、音涅。頭傾也。
音訓
- 音
- ソク(漢) 〈『廣韻・入聲・職・稄』阻力切〉[zè]{zak1}
解字
白川
象形。人が頭を傾けてゐる形に象る。手を擧げて舞ふ形は笑、若。祝詞の器を捧げて舞ふ形は吳。これらの字はみな夭屈して舞ふ巫女を示す字。
『説文解字』に頭を傾くるなり
とあり、また夭字條に屈するなり
といふ。みな本邦でいふ「かぶく」さまをいふ字。
藤堂
象形。大の字に立つた人が頭を傾げる姿を描いた字。吳に含まれる。
落合
象形。大の上部が曲がつた形。頭を橫に傾けた人の象形とする説が多いが、甲骨文では信仰や儀禮に關聯して用ゐられてをり、頭を前に垂れた人の表現かも知れない。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 神名。王夨とも稱される。《合集》1825
貞、勿橐王夨三[⿱冖羊]。
- 動詞。對人儀禮か。《殷墟花園莊東地甲骨》420
甲辰卜、丁各、夨于我。用。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、大に從ひ、人の頭部が左あるいは右に傾く形に象る。本義は傾くこと。夨には古く二つの音があつた。昃と讀み、傾くことを表すほかに、柳詒徵は、夨を古く讀んで華となし、人の形に象り、華の初文で、本義は中國人であるとする。
甲骨文はあるいは大と圓圈に從ひ、圓圈は人の頭に象り、あるいは疑ふらくは口の象形。柳詒徵は、以下のとほり述べる。夨と吳はもと一字で、華の初文。吳と華は古音相近く、人の頭や手足を畫き出し、大字の形に近い。本義は中國人。『説文解字』夏字條中國之人也。
「虞夏」は「華夏」のこと。
按ずるに柳詒徵の見解は語の音にその根據があるが、しかし何故頭を傾ける人の形を華人を表すのに用ゐるのか、なほ疑ひがある。
吳の古文をまた㕦に作る。『廣韻』は㕦の字音を「胡化切」とし、華と同音。夨の人の形の上に口があり、㕦の形に作り、喧嘩の嘩の初文。故に吳の本義は大聲で騷ぎ話すこと。
甲骨文では殷の先王の名、殷人の祭祀の對象に用ゐる。《合集》21110尞(燎)岳、夨、山
は、岳、夨、山に對して燎祭を行ふことを表す。趙誠は「王夨」は「王亥」のことであるとする。
金文での用義は次のとほり。
- 夨王方鼎蓋
夨王乍(作)寶尊貞(鼎)
。 - 讀んで虞となす。叔夨方鼎の「叔夨(虞)」は、晉の初代君主の唐叔虞のこと。上古には夨は吳や虞と相似た音を有したに違ひない(李伯謙)。
屬性
- 夨
- U+5928
- JIS X 0212: 24-75
關聯字
夨に從ふ字
- 𠨮
- 𡔢
- 奊
- 吳