若 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
擇菜也。『晉語』秦穆公曰「夫晉國之亂、吾誰使先若夫二公子而立之。以爲朝夕之急。」此謂「使誰先擇二公子而立之。」若正訓擇。擇菜引伸之義也。
从艸右。右、手也。此㑹意。《毛傳》曰、若、順也。於雙聲叚借也。又假借爲如也、然也、乃也、汝也。又兼及之詞。五部。
一曰、杜若、香艸。此別一義。此六字依『韵㑹』。恐是鉉用鍇語增。今人又用鉉本改鍇本耳。
康煕字典
- 部・劃數
- 艸部五劃
- 古文
- 𦱡
- 𦱶
- 𧁇
『唐韻』而灼切『集韻』『韻會』『正韻』日灼切、𠀤音弱。『說文』若、擇菜也。
又『玉篇』杜若、香草。『楚辭・九歌』采芳洲兮杜若。『夢溪筆談』杜若、卽今之高良薑。
又順也。『書・堯典』欽若昊天。《傳》敬順也。『詩・小雅』曾孫是若。
又汝也。『儀禮・士昏禮』勗帥以敬先妣之嗣、若則有常。『晉語』晉文公謂勃鞮曰、爾爲惠公從余于渭濵、命曰三日、若宿而至。
又如也。『書・盤庚』若網在綱。
又乃也。『周語』必有忍也、若能有濟也。
又語辭。『儀禮・士相見禮』君若降送之、則不敢顧。《疏》若者、不定之辭也。
又『前漢・武帝紀』民年九十以上、爲復子若孫。《註》若者、豫及之辭也。
又若若、垂貌。『前漢・石顯傳』印何纍纍綬若若耶。
又『莊子・秋水篇』向若而歎。《註》若、海神。
又歲名。『爾雅・釋天』太歲在丑曰赤奮若。
又若木。『淮南子・地形訓』若木在建木西。『楚辭・天問』若華何光。《註》若木何能有明赤之光華乎。
又水名。『水經注』若水東南流、鮮水注之。
又姓。『正字通』漢下邳相若章。
又『廣韻』人者切、音惹。乾草也。
又般若、梵語謂智慧也。『晉書・曇霍傳』霍持一錫杖、令人跪、曰、此是波若眼。
又『韻會』浮屠所居、西域謂之蘭若。『柳宗元文』蘭若眞公。《註》官賜額者爲寺、私造者爲招提、蘭若。
又人賒切、音婼。蜀地名。『前漢・地理志』若屬南郡、【春秋傳】作鄀。
『唐韻古音』讀汝三略、尊𤰞相若、强弱相虜。古人讀若字爲汝、故傳記之文、多有以若爲汝者。【史記・項羽本紀】云、吾翁卽若翁、【漢書】云吾翁卽汝翁、此可據也。
- 部・劃數
- 艸部・八劃
『玉篇』古文若字。註見五畫。
- 部・劃數
- 艸部八劃
『字彙補』同若。『古周易』出涕沱𦱶。陸德明云、𦱶、古文若字。註詳五畫。
- 部・劃數
- 艸部十五劃
『字彙補』古文若字。註見五畫。
音訓義
- 音
- ジャク(漢) ニャク(呉)⦅一⦆
- ジャ(漢) ニャ(呉)⦅二⦆
- ジャ(推)⦅三⦆
- 訓
- したがふ。もし。ごとし。なんぢ。しく。しかり。⦅一⦆
- 國訓
- わかい⦅四⦆
- 官話
- ruò⦅一⦆
- rě⦅二⦆
- 粤語
- joek6⦅一⦆
- je5⦅二⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・入聲・藥・若』而灼切
- 『集韻・入聲下・藥第十八・𢐅』日灼切
- 『五音集韻・入聲卷第十五・藥第一・日・三若』而灼切
- 聲母
- 日(半齒音・次濁)
- 等呼
- 三
- 官話
- ruò
- 粤語
- joek6
- 日本語音
- ジャク(漢)
- ニャク(呉)
- 訓
- したがふ
- もし
- ごとし
- なんぢ
- しく
- しかり
⦅二⦆
- 反切
- 『廣韻・上聲・馬・若』而灼切
- 『集韻・上聲下・馬第三十五・惹』爾者切
- 『五音集韻・上聲卷第八・馬第十七・日・三若』人者切
- 聲母
- 日(半齒音・次濁)
- 等呼
- 三
- 官話
- rě
- 粤語
- je5
- 日本語音
- ジャ(漢)
- ニャ(呉)
- 義
- 乾草。(『廣韻』)
- 般若など梵語の音譯に用ゐる。
⦅三⦆
- 反切
- 『廣韻・下平聲・麻・若』人賖切
- 『集韻・平聲三・麻第九・若』人奢切
- 『五音集韻・中平聲卷第四・麻第十七・日・三若』人賖切
- 聲母
- 日(半齒音・次濁)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- ジャ(推)
- 義
蜀地名、出『巴中記』。
(『廣韻』)
⦅四⦆
- 國訓
- わかい
- 義
- 弱と通用し、年齡がわかいことを表す。
解字
白川
象形。巫女が兩手を擧げて舞ひ、神託を受けようとしてエクスタシーの狀態にあることを示す。艸は振りかざしてゐる兩手の形。口は祝禱を收める器。神託を求める意。神が祈りを受け入れることを諾といひ、卜文、金文には、若を諾の意に用ゐる。
卜辭に王、邑を作るに、帝は若とせんか
帝は若を降さんか、不若を降さんか
のやうにいひ、不若とは邪神、邪惡なるものをいふ。『左傳・宣三年』民入川澤山林、不逢不若、螭魅罔兩、莫能逢之
(民、川澤山林に入るも、不若に逢はず、魑魅罔兩も能く之に逢ふ莫し」」と見える。
金文に上下の若否
といふのは、上下帝の諾否の意。
神意に從ふことより若順の意となり、神意のままに傳達することから「若のごとし」の意となる。王が神意によつて命を發することを「王、若のごとく曰く」といひ、『書』『詩』にもその形式の語が殘されてゐる。
「若し」は神託を受ける女巫が若い女であることから、「若し」はそのエクスタシーの狀態になつて神人一如の境にあることからの引伸義であらう。
「若」「若し」などは假借。如も若と同じく女巫が神託を求める象で、兩字通用の例が多い。
藤堂
象形。しなやかな髮の毛をとく、身體の柔らかい女性の姿を描いたもの。のち、草冠のやうに變形し、また口印を加へて若字となつた。
しなやか、柔らかく從ふ、遠回しに柔らかく指差す、などの意を表す。
のち、汝、如とともに「なんぢ」「それ」を指す中稱の指示詞に當てて用ゐ、助詞や接續詞にも轉用された。
落合
甲骨文は、坐つた人が髮を振り亂して祈るさまの象形。甲骨文では神が承諾する意で用ゐられてをり、諾の初文。初文は口を除いた部分で、金文で意符として口が附された。
後に助辭などとして用ゐられるやうになつたため、原義については篆文で言を意符として加へた繁文がつくられた。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、跪坐し、兩手を上に伸ばし、亂れた髮を整へ、柔順にさせるさまを象る。本義は順。派生して順從、應諾、應答の意を派生し、口を加へる。甲骨文、金文の上部は後に叒に變形した。『正字通・又部』に引く『六書精蘊』に叒、順也。
とある。艸に從ふ若字の本義は菜を擇ぶこと。假借して順從、應允(應答、許可)、同意の意に用ゐ、叒に取つて代はり、叒は用ゐられなくなつた。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 順を表す。《合集》34034
若鳳(風)
は順風のこと。 - 許諾、同意を表す。《合集》7075反
帝若(諾)
は、上帝の允諾を表す。 - 此、斯樣を表す。《合集》32156
王若曰
は、王は斯樣に述べるの意。
金文での用義は次のとほり。
- 順を表す。
- 𰪠大史申鼎
子孫是若
は、子孫は順從であるといふ。 - 中山王鼎
智(知)天若否
は、天の順逆を知るの意。
- 𰪠大史申鼎
- 此、這樣を表す。毛公鼎
王若曰
。 - 通假して赦となす。
- 中山王鼎
隹(雖)又(有)死辠(罪)及參(三)世,亡(無)不若(赦)。
- 中山王鼎
詒(辭)死辠(罪)之又(有)若(赦)
は、死罪を辭去し之を赦免するの意(朱德熙、裘錫圭)。
- 中山王鼎
戰國竹簡での用義は次のとほり。
- 同じやうであるの意。
- 諾と讀み、應允、同意を表す。《上博竹書六・競公瘧》簡13
安(晏)子許若(諾)
- 此、這樣を表す。《清華簡一・祭公》簡1
王若曰
。
屬性
- 若
- U+82E5
- JIS: 1-28-67
- 當用漢字・常用漢字
- 𦱡
- U+26C61
- 𦱶
- U+26C76
- 𧁇
- U+27047
関聯字
若に從ふ字を漢字私註部別一覽・卩部・若枝に蒐める。