倝 - 漢字私註
説文解字
倝部倝字條
日始出、光倝倝也。从旦㫃聲。凡倝之屬皆从倝。古案切。
- 七・倝部
説文解字注
日始出。始、式吏切。光倝倝也。从旦㫃聲。古案切。十四部。凡倝之屬皆从倝。
倝部𠐱字條
闕。
- 七・倝部
説文解字注
闕且从三日在㫃中。按此葢倝籒文也。汗𥳑朝作⿸𠐱月、翰作⿸𠐱毛、亦可證矣。闕且二字當作籒文二字。从三日在㫃中、則篆體⿱昍日下不當有一也。
康煕字典
- 部・劃數
- 人部・八劃
『集韻』居案切、音幹。日始出、光倝倝也。本作⿰𠦝一、俗作𣉙、別作𧹳。○按【說文】倝獨爲部。【集韻】从𠦝从入。今【字彙】附入人部、非。
異體字
或體。《段注》は籒文と按ずる。
音訓
- 反切
- 『廣韻・去聲・翰・旰』古案切
- 官話
- gàn
- 日本語音
- カン(漢、呉)
- 義
- 日の出の光がかがやくさま(藤堂)。
解字
白川
象形。旗竿に吹き流しをつけた形。
『説文解字』に日始めて出で、光倝倝たるなり
とし、旦に從ひ、㫃聲
とする。次にその籀文かと思はれる字(補註: 𠐱)を揭げるが、その形義に不明のところがあるとして説解を加へず、闕
とする。
金文の圖象に、旗竿の上部に杠飾りを加へる形があり、日はその杠飾りの形で、日光とは關係がない。㫃は旗に偃游(吹き流し)を加へた形。
藤堂
㫃(高く揚がる旗)と日と丂(下から上に上がる符號)の會意。太陽が段々高く上がるさまを示す。
漢字多功能字庫
金文、小篆は、旦と㫃に從ひ、㫃亦聲。旦は朝日が昇り始めるさまに象り、㫃は旗に象る。旗は多くが紅色である。全字で、太陽が出るときの、東方一面の赤い光芒を表す。本義は、太陽が出たばかりで、赤い日が昇り始めること。『説文解字』倝、日始出、光倝倝也。(後略)
㫃は旗幟の飜り舞ひ上がるやうな陽光の閃爍(閃き輝くこと)を表すとする人もゐる。饒炯『說文部首訂』倝倝、日光皃。謂其熌灼。如旌旗游之㫃蹇、因以㫃名之、而後注旦為專字、其意蓋取旦明日出、光常倝倝也。
これは正確ではない。
張舜徽は、倝字中に在する㫃は聲を表すほか、紅色を表すと指摘する。『說文解字約注』倝倝、乃狀日始出時大赤之色、不必以熌灼如旌旗游之㫃蹇為解也。本書《羽部》「翰、天雞也。赤羽、从羽、倝聲。」然則赤日為倝、亦猶赤羽之為翰、語原同耳。
いま河南省南陽方言に依然として「太陽出來紅倝倝」の語があり、朝日の光芒が四方を射る樣子を形容する。胡曜汀、賈文『南陽方言詞語考證』南陽諺語「太陽出來紅倝倝」即本『說文』。但是「倝」音轉若「剛」、韻母由an變為ang、聲調由去聲變為平聲。
按ずるにいま粤語に依然として「紅噹噹」の語があり(最初の噹は平聲に讀み、次の噹は去聲に讀む)、とても赤い色(聖誕花(ポインセチア)や新年の春聯、紅包の色)を形容する。官話では「紅彤彤」あるいは「紅通通」に作る。
金文では讀んで韓となし、韓國を指す。𠫑羌鐘賞于倝(韓)宗、令于晉公、卲(昭)于天子。
銘文は韓が齊を攻擊したことを記す。「𠫑羌」は韓の將軍。馬承源は「韓宗」が韓の宗族の子、韓景子虔(補註: 韓の景公(名は虔)のことか)を指すとする。全句で、𠫑羌は韓景子虔の賞賜と晉公の賜命を受け、天子の知るところとなつた、の意。韓國は戰國七雄の一つで、韓、趙、魏は曾て晉室を三分して諸侯となつた。
このほか、いま支那東北にある韓國は、南北が分裂して二つの國家となり、北を「朝鮮」あるいは「北韓」と稱し、南を「韓國」あるいは「南韓」と稱する。1392年〜1910年の間、朝鮮半島全體が「李氏王朝」で、また「朝鮮王朝」と稱する。「朝鮮」は朝日が鮮明であるの意、故に「朝鮮」はまた「晨曦(曙光、朝日の光)の國」とも呼ばれ、日本が「日の出づる國」と呼ばれることとうまい具合に比べられる(韓國、日本のいづれも東方にあり、そこから名を得た)。金文で太陽の出たばかりを本義とする「倝」を用ゐて「韓」を表すことは、韓字が日の出と關はりあることを反映する。支那東北の「韓國」はまた「朝鮮」と稱し、二つの名はいづれも朝日、朝日の昇り始めるの意を有し、古義を保留する。
金文ではまた讀んで翰となし、高く飛ぶことを表す。
- 王孫誥鐘
中(終)倝(翰)且揚
は鐘の聲が大きく朗々とし、高く揚がることを形容する。
金文ではまた讀んで榦となし、匡正、糾正を表す。
- 戎生鐘
用倝不廷方
は、朝廷に朝覲しない方國を匡正するの意。『詩・大雅・韓奕』榦不廷方、以佐戎辟。
鄭玄注作楨榦而正之。
戰國竹簡では讀んで乾燥の乾となす。
- 《九店楚簡》621號墓簡14
乾、[火句](𤋗)、𪧧(煎)
の「乾」、「𤋗」、「煎」は、三種類の料理法。 - 《上博竹書六・平王與王子木》簡1+5
成公倝(乾)蓏(遇)、跪於薵(疇)中。
成公乾に遇つたとき、彼は田に跪いた、の意。「成公乾」は人名。「成公」は複姓で、衛成公の後裔で、謚を姓とした。乾は下の名前。『說苑・辨物』王子建出守于城父、與成公乾遇於疇中。
楚平王の太子の建は城父の地の主管に就き、麻畑の中で成公乾と遇つた、の意(參: 王鍈、王天海)。
戰國竹簡ではまた讀んで皯となし、黑ずんで乾燥してゐること、粗糙(ざらざらしてゐる、粗雜である)を表す。
- 《上博竹書二・容成氏》簡24
面倝(皯)䱜(皵)、脛不生之毛。
禹の顏の皮は黑ずんでざらざらとし、罅が入り、脛の毛がない、の意。
戰國古璽では姓氏に用ゐる。《古璽彙編》2340「「倝(韓)慶」。
戰國金文、竹簡でもまた人名に用ゐる。
- 六年庰令趙倝戈
庰命(令)勺(趙)倝
は、庰の地の令(長官)で、姓は趙、名は倝、の意。 - 《包山楚簡》簡85
黃倝
。
屬性
- 倝
- U+501D
- JIS X 0212: 17-54
- 𠐱
- U+20431
關聯字
倝に從ふ字を漢字私註部別一覽・㫃部・倝枝に蒐める。