保 - 漢字私註
説文解字
- 保あるいは𠈃に作る。
養也。从人、从𤓽省。𤓽、古文孚。
- 八・人部
- 𡥀あるいは呆に作る。孟の古文との關聯は不詳。
古文𠈃。
古文𠈃不省。
康煕字典
- 部・劃數
- 人部七劃
- 古文
- 𤔍
- 𡥀
- 𠊻
『廣韻』『集韻』『韻會』補抱切『正韻』補道切、𠀤音寶。安也。『周禮・天官』以八統詔王馭萬民、五曰保庸。《註》保庸、安有功者。
又恃也、守也。
又『禮・月令』四鄙入保。《註》小城曰保。又都邑之城曰保。
又任也。『周禮・地官・大司徒』令五家爲比、使之相保。《註》保猶任也。
又全之也、佑也。『書・召誥』天迪格保。《註》格正夏命而保佑之。又『詩・小雅』天保定爾、亦孔之固。
又『說文』養也。『增韻』抱也。『書・周官』立太師、太傅、太保。『禮・文王世子』入則有保、出則有師。『前漢・宣帝紀』嘗有阿保之功。《註》阿、倚也。保、養也。『賈誼傳』保者、保其身體。
又『史記・欒布傳』窮困賃傭於齊、爲酒家保。《註》酒家作保傭也。
又姓。『呂氏春秋』楚保申、爲文王傅。
又與褓緥𠀤通。『禮・月令』保介之御閒。《註》猶衣也。保卽𣚦褓。
又叶博古切、音補。『易林』東南其戶、風雨不處。燕婉仁人、父子相保。
又叶博效切、音報。『詩・大雅』無射亦保。叶上廟。
- 部・劃數
- 子部二劃
『玉篇』古保字。註詳人部七畫。『六書故』𡥀爲保之正文。嬰兒衣也。象子在裙襦中。『總要』从子、旁指左右扶持狀。今作保。別作褓緥。
- 部・劃數
- 人部九劃
『說文』古文保字。註詳七畫。
- 部・劃數
- 人部六劃
『集韻』同保。
音訓
- 音
- ホ ホウ(呉) ホウ(漢)〈『廣韻・上聲・晧・寶』博抱切〉
- 訓
- たもつ。たすける。まもる。やすんずる。
解字
白川
人と子と褓をかけた形の會意。金文の字はときに𠍙の形に作り、上になほ玉を加へる。玉は魂振り、褓も靈を包むものとして加へたもので、受靈、魂振りの呪具。生まれた子の儀禮を示す字。
説文解字に養ふなり
と保養の意とするが、保は聖職者をいひ、最高位の人を大保といふ。王の即位繼體の禮を掌る人であつた。
周初の功臣とされる召公奭は、金文に「皇天尹大保」、『書』には「君奭」と呼ばれ、保、君はいづれも聖職者の號。『書・顧命』では大保召公が康王の繼體受靈の儀禮の司会者であつた。
保の字形に含まれる褓は、本邦の眞床襲衾に當たる。保の諸義は、新生の受靈とその保持の意から演繹されたもの。
藤堂
保の古文は呆で、子供をおむつで取り卷いて大切に守るさま。
甲骨文は子供を守る人を表す。
保は人と音符呆の會意兼形聲で、保護する、保護する人の意を示す。
落合
會意。甲骨文は人が子を背負つて保育する形で、轉じてまもることを意味する。人が手を後ろに回した允に從ふ字形もある。
甲骨文での用義は次のとほり。
- まもる。軍隊で守備する。神が人を守護する。《合補》95
乙亥卜王貞、我取唐、[⿱隹示]大甲、不[⿱𫝀它]、保我。
- 職名。人名を附して「保某」とも言ふ。祭祀對象にも見える。
- 《合集》17634
丙子、保僧示三屯。
- 《合集》25038
癸未卜出貞、侑于保、叀辛卯、酒。
- 《合集》17634
職名の用法について、甲骨文には具體的な職務内容は倂記されてゐないが、原義から考へて治安維持を擔當する者であらう。金文でも殷の支配下から周に服屬した軍事擔當者が「保」あるいは「大保」に任命されてゐる。
保字の子の部分は金文以降に短線(襁褓の形とされる)を加へて呆の形になつた。
呆字は保の略體であり、聲符ではない。
漢字多功能字庫
甲骨文は人と子に從ふ。金文は人と子と爪に從ふ。爪は手の形に象り、人が子供を背負ひ、手を後ろに回して支へると解き、本義は子供を背負ふこと。子供を背負ふ保姆、保養、保護などの義を派生する。
金文の爪形は後に一撇(丿)に省略された。唐蘭說抱者懷於前、保者負於背……襁褓者古亦以負於背
。『尚書・康誥』若保赤子
。按ずるに今日もなほ婦女は布帶を用ゐて子供を背負ふ。粵語「生保人」の原意は、子供を背負ふ他人は甚だ少ないことを指し、後に赤の他人を指す。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 派生義に用ゐ、保佑、佑護を表す。「貞乙保黍年」、「貞黃尹保我事」。
- 神靈名を表す。「侑報于保」。
- 地名に用ゐる。
金文と甲骨文の形は同じ。後ろに回した手は後に人と分離し、子の右下の一撇となり、均整を保つため、左邊にも一撇を加へ、保の字形となつた。甲骨文、金文はあるいは玉を加へ、玉は貴重なものであり、人の珍重し保存するところとなす。
金文に用法が五つある。
- 保佑。
- 毛公鼎
臨保我有周
。 - 十年陳侯午敦
保有齊邦
。
- 毛公鼎
- 守衛、保護。
- 克鼎
肆克龏保氒辟龏王
。
- 克鼎
- 珍重し收藏すること。寶に同じ。
- 蔡侯盤
子孫蕃昌、永保用之
。
- 蔡侯盤
- 音近く、寶の通假字となす。
- 格伯簋
鑄保(寶)𣪕
。
- 格伯簋
- 官職名。金文に多く「太保」と稱し、周王を輔弼する重臣のこと。『史記・周本紀』
召公為保、周公為師。
戰國簡帛ではまた、音近く、袌、褒、報などと通ずる。
屬性
- 保
- U+4FDD
- JIS: 1-42-61
- 當用漢字・常用漢字
- 𡥀
- U+21940
- 𠊻
- U+202BB
- 𠈃
- U+20203
關聯字
𡥀に從ふ字
- 𤓽
保聲の字
- 葆
- 𡧖
- 襃
- 㨐
- 緥
- 褓