子 - 漢字私註
説文解字
十一月、陽气動、萬物滋、人以爲偁。象形。凡子之屬皆从子。卽里切。
- 十四・子部
古文子。从巛、象髪也。
籒文子囟有髪、臂脛在几上也。
説文解字注
十一月、昜气動、萬物滋。『〔史記〕律書』「子者、滋也。言萬物滋於下也。」『〔漢書〕律曆志』曰、孶萌於子。人㠯爲偁。人各本譌入。今正。此與以朋爲朋攩、以韋爲皮韋、以烏爲烏呼、以來爲行來、以西爲東西一例。凡言以爲者、皆許君發明六書叚借之法。子本陽气動萬物滋之偁。萬物莫靈於人。故因叚借以爲人之偁。象形。象物滋生之形。亦象人首與手足之形也。卽里切。一部。凡子之屬皆从子。
古文子。从巛、象髮也。象髮與𩠐同意。
籒文子。𦥓有髮。巛也。臂、北也、脛、人也、在几上也。《木部》曰、牀者、安身之几坐也。
康煕字典
- 部・劃數
- 部首
- 古文
- 㜽
- 𢀈
- 𢀉
- 𡐫
- 𣕓
『唐韻』卽里切『集韻』『韻會』『正韻』祖似切、𠀤音梓。『說文』十一月陽氣動、萬物滋入、以爲稱。『徐鍇曰』十一月夜半、陽氣所起。人承陽、故以爲稱。
又『廣韻』息也。『增韻』嗣也。『易・序卦傳』有男女、然後有夫婦。有夫婦、然後有父子。『白虎通』王者父天母地曰天子。天子之子曰元子。『書・顧命』用敬保元子釗。又『儀禮・喪服』諸侯之子稱公子。又凡適長子曰冢子、卽宗子也。其適夫人之次子、或衆妾之子、曰別子、亦曰支子。『禮・曲禮』支子不祭、祭必告於宗子。
又男子之通稱。『顏師古曰』子者、人之嘉稱、故凡成德、謂之君子。『王肅曰』子者、有德有爵之通稱。又自世婦以下自稱曰婢子、見『禮記・曲禮』。又卿之妻曰內子。『儀禮・有司徹註』內子不薦籩。
又『禮・檀弓』兄弟之子猶子也。
又『前漢・嚴助傳註』令子出就婦家爲贅壻、曰贅子。
又人君愛養百姓曰子。
又辰名。『爾雅・釋天』太歲在子曰困敦。『前漢・律歷志』孳萌於子。
又『禮・王制』公侯伯子男、凡五等。《疏》子者、奉恩宣德。
又左庶子、中庶子、官名。
又國名。『括地志』子城、在渭州莘城縣。
又長子、縣名。周史辛甲所封、後爲趙邑、屬上黨。
又姓。『史記・殷本紀』契、母吞鳦子而生、故曰子氏。又複姓。『左傳』鄭大夫子人氏、魯大夫子服氏、子家氏。
又子細、猶分別。『北史・源思禮傳』爲政當舉大綱、何必太子細也。『正字通』子讀若薺、方語別也。俗作仔細。
又去聲、才四切。『中庸』子庶民也。徐邈讀。
又與慈通。『禮・樂記』易直子諒之心、油然生矣。『韓詩外傳』子諒作慈良。
又叶濟口切、音走。『前漢・班固敘傳』侯王之祉、祚及孫子。公族蕃衍、枝葉暢茂。茂音某。
又叶子德切、音則。『詩・豳風』旣取我子、無毀我室。『楊愼・古音叢目』與朱傳同。
- 部・劃數
- 土部十二劃
『字彙補』古文子字。見扶風縣夫子廟𥓓、唐程浩撰。
- 部・劃數
- 子部三劃
『集韻』子古作㜽。註詳部首。
- 部・劃數
- 巛部・六劃
- 部・劃數
- 巛部・十五劃
『集韻』子古作𢀈。註詳部首。
- 部・劃數
- 巛部・十六劃
『五音集韻』古文子字。註詳部首。
- 部・劃數
- 木部九劃
『字彙補』古子字。註見部首。
異體字
或體。
音訓
- 音
- シ(漢)(呉) ス(唐) 〈『廣韻・上聲・止・子』即里切〉[zǐ]{zi2}
- 訓
- こ。きみ。ね。
解字
幼兒に象る。
古くは十二支の子に當たる字には籀文(𢀇、𢀈)の系統の字を用ゐ、子は今の巳に當てて用ゐる字であつた。後に子を一番目、巳を六番目に用ゐるやうになつた。
白川
象形。幼子に象る。
卜文の「ね」に當たる字は、別の字で示されてゐる。卜文では子は「み」に當たる字として用ゐる。十二支の字の用法は字の初義と關係なく、勿論十二支獸とも關係はない。
卜文、金文において、左右の手を一上一下する形のものがあり、それは王子の身分を示す。卜辭に見える「子鄭」「子雀」は、恐らく鄭、雀の地に封ぜられた王子の稱であらう。のち字にこの形式を用ゐるのはその遺法であるが、所領の關係が失はれたのは、名と字義の對待による。仲由、字は子路、路は人の由る所。顔回、字は子淵、淵は回水の意。
子は本來は王子、公子など貴族身分の身分稱號的に用ゐられたもので、のち一般の兒子にもいふ。子を代名詞的に用ゐるのは、その身分的稱號からの轉用。
藤堂
象形。字に二系ある。
一つは小さい子供を描いたもの。
もう一つは、子供の頭髮がどんどん伸びるさまを示し、主に十二支の子の場合に用ゐた。(補註: 藤堂の示す甲骨文、金文は 𢀇、𢀈に該當、篆文は㜽に相當する。)
後に兩者を混同して子と書く。
落合
子供の象形。上部は子供の頭が相對的に大きなさまを表し、下部は足を一本で表して步行が覺束ない樣子を表す。
甲骨文の要素としては、主に子供や育兒に關係する字に使はれてゐる。
頭に毛の生えた狀態を表した異體もあり、『説文解字』に古文として擧げられてゐる。(補註: 㜽)
甲骨文での用義は次のとほり。
- 子。男子。大中小などで長幼が區別されることもある。
- 動詞。子として認知することか。
- 十二支の六番目。後に蛇の象形で祀の略體の巳と似てゐることから、字形が入れ替はつた。
- 王の親族男性への呼稱。「子某」と稱する。
- 殷に從ふ地方領主への稱號。「子某」または「某子」と稱する。また「多子」はこの多數形、「多子族」はその軍隊。非王卜辭では一人稱に用ゐられることもある。殷金文の圖象記號にも使用されてゐる。
十二支の子として使はれてゐる形(補註: 籀文(𢀇、𢀈)に相當するか)は子供の頭部の象形と推定されてゐる。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文には二種類ある。一つは𢀈に作り、新生兒や幼兒の、頭上に毛があり、泉門が閉ぢず、兩脚がある形に象る。もう一つは子に作り、頭が大きく、兩腕をいつも振り、脚部が發達してゐない、などの特徴を際立たせてゐる。
比較的複雜な𢀈の形は、十二支の一番目の子に用ゐる。𢀈字は甲骨文では常用され、兩腿などを省略し簡單にした字形があつた。甲骨文では早期に多く簡體が用ゐられ、最晩期には却つて複雜な正體が用ゐられた。周初以後、十二支の第一位の𢀈は多く子に改められ、𢀈の形は段々と消失した。
子字については、古文字の字形の方向は固定されず、左を向くものも右を向くものもあつた。子はすでに男の子を表すやうになり、また十二支の六番目(後世の巳)を表すやうになつた。十二支の一番目の𢀈字が段々と子に取つて代はつたので、甲骨文の十二支は二つの子を有することとなつた。周以後、混淆を避けるため、巳字を用ゐて十二支の六番目を表すやうに改められた。
子は本來、父と相對して稱するものであつた。《合集》94有子
は、懷妊を意味する。早期人類は、例へば古代ローマ人、古代マヤ人など、常に子供を指す呼び方を男の貴人に對する尊稱に用ゐたので、甲骨文での子は商代の同姓の族長を指す呼稱に用ゐられた。『尚書・洛誥』予旦以多子越御事
につき、孔傳は「多子」を眾卿大夫
とするが、この義に用ゐるものである。
金文では、子はまた慈の通假字となす。如盂鼎古(故)天異(翼)臨子(慈)
は、ゆゑに天は慈惠を以て翼で覆ひ保護するだらう、の意。また史墻盤の子は孜に通じ、「子(孜)汲」で急切の意を表す。
戰國期、楚簡に「君子」の稱があり、人物名詞の接尾辭となつた。後に子は幼少、稚嫩(しなやか、柔弱、幼稚)の意となる。「子薑」など。
屬性
- 子
- U+5B50
- JIS: 1-27-50
- 當用漢字・常用漢字
- 𡐫
- U+2142B
- 㜽
- U+373D
- 𡿹
- U+21FF9
- 𢀈
- U+22008
- 𢀉
- U+22009
- 𣕓
- U+23553
- 𢀇
- U+22007
関聯字
子に従ふ字を漢字私註部別一覽・子部に蒐める。