辯 - 漢字私註
説文解字
治也。治者理也。俗多與辨不別。辨者判也。
从言在辡之閒。謂治獄也。會意。符蹇切。十二部。
康煕字典
- 部・劃數
- 辛部・十四劃
同辨。〔音7補注〕『說文』判也。『廣韻』別也。『易・履卦』君子以辯上下、定民志。
又詳審也。『周禮・天官』惟王建國、辯方正位。
又明悉也。『易・大有』明辯晳也。
又『集韻』巧言也。『禮・王制』言僞而辯。『史記・荀卿傳』鄒衍之術、迂大而閎辯。
又爭辯也。『禮・鄕飮酒義』不慢不爭、則遠于鬭辯矣。
又『說文』治也。『書・酒誥』勿辯乃司。『左傳・昭元年』主盟者誰能辯焉。《註》辯、治也。
又微辯、諷諭也。『禮・儒行』其過失可微辯而不可面數也。
又與徧通。〔音2補注〕『禮・樂記』其治辯者其禮具。《註》辯、徧也。『史記・五帝紀』辯于羣神。『書・舜典』作徧。
又與平通。〔音3補注〕『字彙補』平均也。『史記・五帝紀』辯秩東作、辯秩西成。『書・堯典』作平。
又『五音集韻』下辯、地名。在武鄕。
又『集韻』『韻會』筆列切『正韻』必列切、𠀤音䇷。〔音4〕與貶同。『周禮・秋官・士師』若邦凶荒、則以荒辯之法治之。《註》辯、當爲貶。遭饑荒、則𠛬罰、國事有所貶損。
異體字
簡体字。
音訓義
- 音
- ベン(呉) ヘン(漢)⦅一⦆
- ヘン⦅二⦆
- ヘイ⦅三⦆
- ヘツ(推)⦅四⦆
- ヘン(推)⦅五⦆
- ヘン(推)⦅六⦆
- ハン(推)⦅七⦆
- 官話
- biàn⦅一⦆
- 粤語
- bin6⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・上聲・獮・辯』符蹇切
- 『集韻・上聲下・𤣗第二十八・辨』平免切
- 『五音集韻・上聲卷第八・獮第十一・並三辯』符蹇切
- 聲母
- 並(重唇音・全濁)
- 等呼
- 重紐三
- 推定中古音
- bɪɛn
- 官話
- biàn
- 粤語
- bin6
- 日本語音
- ベン(呉)
- ヘン(漢)
- 義
- 治める。正す。辯治。
- 言ひ爭ふ。議論する。辯論。
- 審らかにする。明らかにする。辯明。辯疏。
- 巧みに言ふ。説く。述べる。辯舌。辯才。
- 辨に通じ、分ける、辨へる。
- 釋
- 『廣韻』
辯: 別也、理也、慧也。『說文』治也。符蹇切。五。
- 『集韻』
辯: 『說文』治也。从言在辡之間。
⦅二⦆
- 反切
- 『集韻・去下・霰・徧』卑見切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・線第十一・幫四徧』方見切
- 聲母
- 幫(重唇音・全清)
- 等呼
- 四
- 日本語音
- ヘン
- 義
- 徧に通じ、あまねし。
- 釋
- 『集韻』
徧遍辯辨: 卑見切。『說文』帀也。或从辵。亦作辯辨。文五。
- 補注
- 音義はKO字源に據る。
- 『康煕字典』(上揭)にも
與通徧
とするが音徧は示さず。
⦅三⦆
- 日本語音
- ヘイ
- 義
- 平に通じ、均しい。
- 補注
- 音義はKO字源に據る。KO字源は庚韻とする。
- 『康煕字典』(上揭)にも
與通平
とするが音平(乃至近似音)は示さず。
⦅四⦆
- 反切
- 『集韻・入上・𧀼・䇷』筆別切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・薛第十・幫三䇷』方別切
- 聲母
- 幫(重唇音・全清)
- 等呼
- 重紐三
- 日本語音
- ヘツ(推)
- 義
- 𧧸に同じ。
- 貶に同じ。
- 釋
- 『集韻』
𧧸辯: 言析理也。或作辯。
- 『康煕字典』上揭。
⦅五⦆
- 反切
- 『集韻・上聲下・𤣗第二十八・辡』邦免切
- 『五音集韻・上聲卷第八・獮第十一・幫三辡』方免切
- 聲母
- 幫(重唇音・全清)
- 等呼
- 重紐三
- 日本語音
- ヘン(推)
- 義
- 辡に同じ。
- 釋
- 『集韻』
辡辯: 方免切。罪人相訟。又符蹇切。九。
⦅六⦆
- 反切
- 『集韻・平三・㒨・便』毗連切
- 『五音集韻・中平聲卷第四・仙第十一・並四便』房連切
- 聲母
- 並(重唇音・全濁)
- 等呼
- 重紐四
- 日本語音
- ヘン(推)
- 義
- 𠷊に同じ。
- 釋
- 『集韻』
𠷊辯: 巧言也。亦作辯。通作便。
⦅七⦆
- 反切
- 『集韻・去上・襉・瓣』皮莧切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・諫第十・並二瓣』蒲莧切
- 聲母
- 並(重唇音・全濁)
- 等呼
- 二
- 日本語音
- ハン(推)
- 釋
- 『集韻』
辯: 下辯、縣名、在武都。
- 補注
- 『康煕字典』(上揭)は辨字條の書き方からするに本音を採ると思しい。
解字
白川
形聲。辡聲。辡は二辛。辛は入墨に用ゐる針の形。獄訟のときには當事者がそれぞれ自己詛盟をし、もし盟誓にたがふことがあれば墨刑を受ける旨を誓約して行はれた。言はその自己詛盟をいふ。
『說文』治むるなり
とは、獄訟を治める意。のち辯爭、辯護の意となる。
『周禮・秋官・鄉士』辯其獄訟
(其の獄訟を辯ず)、『禮記・曲禮上』分爭辯訟
のやうな用字例からいふと、辯はもと獄訟に關して用ゐる字。その是非を裁定することを辯といつた。
藤堂
言と音符辡(二つに分ける)の會意兼形聲。言葉で善し惡しを分けてはつきりさせるさまを示す。
落合
言が意符、辡が聲符の形聲。亦聲の可能性が高い。原義は「言葉で治める」。「説明する」や「言ひ爭ふ」などは引伸義。初出の東周代には卞を聲符とする構造だつたやうだが、秦代に辡を聲符とする形になつてゐる。
漢字多功能字庫
- 『孟子・滕文公下』
予豈好辯哉。予不得已也。
趙岐注好辯、好辯爭。
- 『淮南子・覽冥』
得失之度、深微窈冥、難以知論、不可以辯說也。
辯は言辭を善くすることを表す。
- 『荀子.非相』
故君子之於善也、志好之、行安之、樂言之、故君子必辯。」楊倞注「「辯謂能談說也。
- 『史記・孔子世家』
其於宗廟朝廷、辯辯言、唯謹爾。
また巧言、言辭が洗練されてゐることを表す。
- 『老子・第八十一章』
善者不辯、辯者不善
河上公注辯、謂巧言也。
- 『呂氏春秋・論人』
人同類而智殊、賢不肖異、皆巧言辯辭、以自防禦、此不肖主之所以亂也。
治理を表す。
- 『左傳・昭公元年』
主齊盟者、誰能辯焉。
杜預注辯、治也。
- 『管子・五輔』
君擇臣而任官、大夫任官辯事、官長任事守職、士修身功材、庶人耕農樹蓺。
辯正、糾正を表す。『玉篇・辡部』辯、正也。
- 『儀禮・士相見禮』
凡燕見于君、必辯君之南面。
- 『禮記・曾子問』
康子拜稽顙於位、有司弗辯也。
孔穎達疏畏季子之威、不敢辯正。
明確、明瞭なること、條理の有ることを表す。『墨子・脩身』慧者心辯而不繁說、多力而不伐功、此以名譽揚天下。
『新書・道術』論物明辯謂之辯、反辯為訥。
聰明を表す。『廣雅・釋詁一』辯、慧也。
- 『墨子・尚同中』
是故選擇天下贊閱賢良、聖知辯慧之人、置以為三公、與從事乎一同天下之義。
- 『史記・李斯列傳』
慈仁篤厚、輕財重士、辯於心而詘於口。
辨と通じ、分辨(區別、辨別)を表す。『周易・繫辭下』若夫雜物撰德、辯是與非、則非其中爻不備。
『韓非子・揚權』故審名以定位、明分以辯類。
また變と通じ、變化を表す。
- 『莊子・逍遙遊』
若夫乘天地之正、而御六氣之辯、以遊無窮者、彼且惡乎待哉。
郭象注御六氣之辯者、即是遊變化之塗也。
屬性
- 辯
- U+8FAF
- JIS: 1-77-71
- 辩
- U+8FA9
- 弁
- 別字衝突
- U+5F01
- JIS: 1-42-59
- 當用漢字・常用漢字
關聯字
- 弁
- 別字。弁を辯の新字体に用ゐる。