忘 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
不識也。識者、意也。今所謂知識、所謂記憶也。
从心亡聲。依『韵會』本。武方切。十部。
康煕字典
- 部・劃數
- 心部三劃
『集韻』『韻會』武方切『正韻』無方切、𠀤音亡。『說文』不識也。『增韻』忽也。又遺也。『書・微子之命』予嘉乃德、曰篤不忘。謂不遺也。又『儀禮・士冠禮』壽考不忘。《註》長有令名、不忽然而遽盡也。
又善忘、病也。『莊子・達生篇』氣下而不上、則使人善忘。
又坐忘、無思慮也。『莊子・大宗師』回坐忘。
又『廣韻』『正韻』巫放切『集韻』『韻會』無放切、𠀤音妄。『韻會』棄忘也。『增韻』遺忘也。『周禮・地官・司刺』三宥、一曰遺忘。
又志不在也。『左傳・隱七年』鄭伯盟、歃如忘。《註》志不在于歃血也。又『韓愈・別竇司直詩』中盤進橙栗、投擲傾脯醬。歡窮悲心生、婉戀不能忘。
『說文』从心从亡。會意。
廣韻
- 卷・韻・小韻
- 去聲・漾・妄
- 反切
- 巫放切〔音1〕
遺忘。又音亡。
音訓義
- 音
- バウ(漢) マウ(呉)⦅一⦆
- バウ(漢) マウ(呉)⦅二⦆
- 訓
- わすれる⦅一⦆⦅二⦆
- 官話
- wàng⦅一⦆
- wáng⦅二⦆
- 粤語
- mong4⦅二⦆
- mong6⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・去聲・漾・妄』巫放切〔廣韻1〕
- 『集韻・去聲下・漾第四十一・妄』無放切
- 『五音集韻・去聲卷第十二・漾第一・微・三妄』巫放切
- 聲母
- 微(輕脣音・次濁)
- 等呼
- 三
- 官話
- wàng
- 粤語
- mong6: 當音を又讀とする資料はある。
- 日本語音
- バウ(漢)
- マウ(呉)
- 訓
- わすれる
- 義
- わすれる。記憶が失せる。
- 忘れ物をする。物事をし忘れる。
- 棄てる。取り落とす。
- 『廣韻』
遺忘。
『集韻』棄忘也。
『康煕字典』志不在也。
- 補註
- 現代漢語での⦅二⦆との音義の使ひ分けは未確認。
⦅二⦆
- 反切
- 『集韻・平聲三・陽第十・亡』武方切
- 『五音集韻・下平聲卷第五・陽第一・微・三亡』武方切
- 聲母
- 微(輕脣音・次濁)
- 等呼
- 三
- 官話
- wáng: 音義の使ひ分けは未確認。
- 粤語
- mong4
- 日本語音
- バウ(漢)
- マウ(呉)
- 訓
- わすれる
- 義
- わすれる。
- ゆるがせにする。心に掛けず。
- 失せる。
- 『說文解字』
不識也。
『五音集韻』不記也。
- 補註
- 現代漢語での⦅一⦆との音義の使ひ分けは未確認。
解字
白川
形聲。聲符は亡。
『説文解字』に識らざるなり。心に從ひ、亡に從ふ。亡は亦聲なり。
とあり、識とは記憶にあることをいふ。
忘は周初の金文に字を⿰言𦣠に作り、望に從ふ。(補註: 『説文解字』に𧭅を錄し、《段注》にその古文を⿰言𦣠に作るとある。)
のち列國期の金文には概ね忘の字を用ゐる。
『儀禮・士冠禮』壽考不忘
(壽考忘まず)とあるものは、『詩・小雅・蓼蕭』に其德不爽、壽考不忘。
(其の德爽はず、壽考忘まず)と見え、古い言ひ方なのであらう。
⿰言𦣠の字形から考へると、望氣をして、災ひをやめるやうに祈ることが、この語の原義であつたやうである。
藤堂
心と音符亡の會意兼形聲。亡は、人が乚印の圍ひに隱れて姿を見せなくなることを示す會意字。忘は、心中から姿を消してなくなる、つまり忘れる意。
漢字多功能字庫
忘は形聲會意字。亡は同時に聲と意を表し、亡は無なり。亡と心に從ひ、記憶を失ひ、覺えてゐないことを表す。本義は忘れること。
金文では、人名に用ゐるほか、忘れるの意を有す。
- 早期には忘字はまだなく、金文では朢を借りて忘れるの意を表した。
- 西周早期・獻簋
十世不朢獻身才畢公家
。 - 西周中期・師朢鼎
王用弗朢聖人之後
。
- 西周早期・獻簋
- 亡と心に從ふ忘字が見えるのは春秋晩期以後。
- [妾子]𧊒壺
日夜不忘
。 - 十四年陳侯午敦
保又(有)齊邦、永世毋忘
。 - 『詩・谷風之什・鼓鍾』
淑人君子、懷允不忘
。 - 『詩・鴻鴈之什・沔水』
心之憂矣、不可弭忘
。
- [妾子]𧊒壺
出土文獻では忘を妄の通假字となす。
屬性
- 忘
- U+5FD8
- JIS: 1-43-26
- 當用漢字・常用漢字
關聯字
忘聲の字
- 莣