妄 - 漢字私註
説文解字
亂也。从女亡聲。
- 十二・女部
康煕字典
- 部・劃數
- 女部三劃
『廣韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤巫放切、音望。『說文』亂也。『增韻』誕也、罔也。『禮・儒行』今之命儒也妄。『易・卦名』上乾下震、无妄。『象』天下雷行、物與无妄。『程傳』動以天、故无妄。
又『圓覺經』認妄爲眞、雖眞亦妄。
又猶凡也。『前漢・李廣傳』諸妄校尉以下、材能不及中、以軍功侯者數十人。
又『集韻』武方切、音亡。無也。
廣韻
- 卷・韻・小韻
- 去聲・漾・妄
- 反切
- 巫放切〔音1〕
虚妄。
又亂也、誣也。
巫放切。六。
音訓義
- 音
- マウ(呉) バウ(漢)⦅一⦆
- バウ(推)⦅二⦆
- 訓
- みだり⦅一⦆
- 官話
- wàng⦅一⦆
- 粤語
- mong5⦅一⦆
- mong6⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・去聲・漾・妄』巫放切〔廣韻1〕
- 『集韻・去聲下・漾第四十一・妄』無放切
- 『五音集韻・去聲卷第十二・漾第一・微・三妄』巫放切
- 聲母
- 微(輕脣音・次濁)
- 等呼
- 三
- 官話
- wàng
- 粤語
- mong5(習讀)
- mong6(罕讀)
- 日本語音
- マウ(呉)
- バウ(漢)
- 訓
- みだり
- 義
- みだり。いつはり。うそ。出鱈目。
- みだりに。好い加減に。出鱈目に。根據無く。
⦅二⦆
- 反切
- 『集韻・平聲三・陽第十・亡』武方切
- 『五音集韻・下平聲卷第五・陽第一・微・三亡』武方切
- 聲母
- 微(輕脣音・次濁)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- バウ(推)
- 義
- 『集韻』
無也。『禮〔儒行〕』「妄常以儒相詬病。」
解字
白川
形聲。聲符は亡。
『説文解字』に亂るるなり
とあり、妄誕の意。
金文の《毛公鼎》に女敢て妄寧なること毋れ
とあり、『書』に「荒寧」といふのと同義の語であらう。亡、荒はいづれも遺棄された屍體をいふ字。妄はその呪靈への恐れを含む語と思はれる。
藤堂
女と音符亡の會意兼形聲。亡は、「ない」「暗い」などの意を含む。妄は、女性に心を惑はされ、我を忘れた振る舞ひをすることを示す。
漢字多功能字庫
金文は女と亡に從ひ、亡は亦聲符。亡は古くは多く「無の義を有し、疑ふらくは妄の本義は虛無、虛妄、失實。古代、女に從ふ字は多く貶す義を有す。
妄の本義は虛妄、事實根據のないこと。
- 『法言・問神』
無驗而言之謂妄。
- 『易・无妄』
无妄
、焦循章句妄者、虛而不實也。
虛無の義から派生して、無知をまた妄といひ、詳細な狀況を諒解せずして輕擧妄動する、勝手氣儘に行動する人を稱して妄といふ。『孟子・離婁下』此亦妄人也已矣
趙岐注妄、妄作之人、無知者。
これより轉じて、法に依らず、不正を行ひ、亂暴を働くことをまた妄と稱す。徐灝『說文解字注箋』戴氏侗曰、妄者、行不正也。
ゆゑに、妄はまた胡亂(好い加減に、みだりに、勝手氣儘に、出鱈目に)、狂亂の意を有す。
輕重を分けずに話し、勝手氣儘に出鱈目を言ふことを「妄言」と稱す。『管子・至山數』不通於輕重謂之妄言。
じつくり考へず、後の結果を顧みない行爲を稱して妄擧といふ。『管子・版法解』為而不知所成、成而不知所用、用而不知所利害、謂之妄舉。
胡思亂想(妄想を逞しくする、あれこれ下らないことを考へる)を稱して妄想といふ。
佛教の術語で、煩惱に汚染された心を妄心、妄念と稱す。
迷惘(途方に暮れる)の心に發出する事物に對する執著を妄執と稱する(白川靜)。
金文では妄を讀んで荒となし、荒廢を表す。毛公鼎女(汝)毋敢妄(荒)寧
の「荒寧」は逸樂に耽ること。『詩・唐風・蟋蟀』好樂無荒。
鄭玄箋荒、廢亂也。
妄も荒も胡亂の意を有し、音義が近い。
出土竹簡、漢帛書ではしばしば忘を借りて妄となす。
- 《馬王堆・老子甲本卷後古佚書》第367行
為官者不以忘(妄)予人、故知臣者不敢誣能。
- 武威漢代醫簡34號
勿忘(妄)傳也
。「忘傳」は「妄傳」のことで、人々に妄を流布しないやう誡めるの意。
屬性
- 妄
- U+5984
- JIS: 1-44-49
- 常用漢字