亡 - 漢字私註
説文解字
逃也。从入从乚。凡亡之屬皆从亡。武方切。
- 十二・亡部
説文解字注
逃也。逃者、亡也。二篆爲轉注。亡之本義爲逃。今人但謂亡爲死。非也。引申之則謂失爲亡。亦謂死爲亡。孝子不忍死其親。但疑親之出亡耳。故喪篆从哭亡。亦叚爲有無之無。雙聲相借也。从入乚。會意。謂入於𨒅曲隱蔽之處也。武方切。十部。凡亡之屬皆从亡。
康煕字典
- 部・劃數
- 亠部(一劃)
『唐韻』『集韻』『韻會』𠀤武方切、音忘。失也。『孟子』樂酒無厭謂之亡。《註》謂廢時失事也。『家語』楚人亡弓、楚人得之。
又滅也。『莊子・田子方』楚王與凡君坐。少焉、楚左右曰、凡亡者三。凡君曰、凡之亡也、不足以喪、吾存。
又『周禮・春官・大宗伯』以喪禮哀死亡。
又逃也。『大學』舅犯曰、亡人無以爲寶。又『前漢・韓信傳』蕭何聞信亡、自追之。
又與忘同。『詩・邶風』心之憂矣、曷維其亡。
又『正韻』同無。『詩・邶風』何有何亡、黽勉求之。『毛傳』亡謂貧也。
『說文』从入从乚。《徐曰》乚音隱、隸作亡。『藝苑雌黃』古惟用兦字、秦時始以蕃橆之橆爲有兦之兦、今又變林爲四點。
- 部・劃數
- 入部(一劃)
『集韻』『韻會』𠀤武方切。亡本字。『說文』从入从乚。隷作亡。
廣韻
- 四聲・韻・小韻
- 下平聲・陽・亡
無也。滅也。進也。『說文』正作亾。
武方切。十二。
異體字
或體。
音訓
- 音
- (1) バウ(漢) マウ(呉) 〈『廣韻・下平聲・陽・亡』武方切〉[wáng]{mong4}
- (2) ム(呉) ブ(漢) 〈『廣韻・上平聲・虞・無』武夫切〉[wú]{mou4}
- 訓
- (1) ほろぶ(滅亡)。ほろぼす。しぬ(死亡)。ない。にげる(逃亡)。
- (2) ない
音義(2)は無に同じ。
解字
白川
象形。死者の屈肢の形に象る。
『説文解字』に逃るるなり
とし、入と乚の會意字で、僻處に逃げ隱れる意とするが、乏、巟などと同じく死者の象。巟はなほその頭髮を存する形。
无は亡の異體字。
死去の意より亡失の意となる。
亡命者を亡人といひ、亡命のときには死葬の禮を用ゐた。
藤堂
會意。甲骨文は三叉印を丨印(衝立)で隱すさま。金文以降の字は人を乚印で隱すさまを示すもので、あつたものが姿を隱す、見えなくなるの意を含む。
【補註】例示の金文、篆文の形は、人に從ふ形には見えない。
落合
象形。人が足を前に曲げた形に縱線を加へた字形。人が物影に隱れる形、あるいは死んだ人の象形とされる。甲骨文には原義を明らかにできる記述はないが、會意字では匃で亡と刀が組み合はされてをり、死者の形と見るのが妥當であらう。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 否定の助辭。「〜なし」と訓ず。動詞を否定する場合にも、名詞の存在を否定する場合にも使はれる。對義語は有。《合補》2207
乙巳卜㱿貞、今夕亡震。
- 地名。《合集》20444
壬寅卜、[⿷匸禾]于亡征方、[屮戈]。二月。
- 亡不
- 二重否定。下に附く語を強調する働きがある。《殷墟花園莊東地甲骨》113
己卜貞、子亡不諾。
- 亡司
- 降雨の狀態を表す語。詳細不明。《殷墟花園莊東地甲骨》103
己巳卜在𫻨、庚不雨。子占曰、其雨亡司、夕雨。用。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、刀に從ひ、短劃で鋒芒(切つ先)の所在を指し示す。鋒芒の芒の本字(林潔明)。逃亡、死亡、有無などは假借の義。
甲骨文では假借して有無の無となす。「往來亡(無)災」。
金文での用義は次のとほり。
屬性
- 亡
- U+4EA1
- JIS: 1-43-20
- 當用漢字・常用漢字
- 兦
- U+5166
- JIS X 0212: 18-78
- 亾
- U+4EBE
關聯字
亡に從ふ字を漢字私註部別一覽・亡部に蒐める。