兮 - 漢字私註
説文解字
語所稽也。从丂、八象气越亏也。凡兮之屬皆从兮。胡雞切。
- 五・兮部
説文解字注
語所稽也。兮稽㬪韵。《稽部》曰、畱止也。語於此少駐也。此與哉言之閒也相似。有假猗爲兮者。如『詩〔魏風・伐檀〕』河水淸且漣猗、是也。从丂八。象气越亏也。越亏皆揚也。八象气分而揚也。胡雞切。十六部。凡兮之屬皆从兮。
康煕字典
- 部・劃數
- 八部・二劃
『唐韻』胡雞切『集韻』『韻會』『正韻』弦雞切、𠀤音奚。『說文』語有所稽也。从丂八、象氣越丂也。《徐曰》爲有稽考、未便言之。言兮則語當駐、駐則氣越丂也。『增韻』歌辭也。
又通作猗。『書・秦誓』斷斷猗、【大學】引作兮。『莊子・大宗師』我猶爲人猗。
又與侯通。『史記・樂書』高祖過沛、詩三侯之章。《註》索隱曰、沛詩有三兮、故曰三侯、卽大風歌。
音訓・用義
- 音
- ケイ(漢) 〈『廣韻・上平聲・齊・奚』胡雞切〉[xī]{hai4}
語末の助辭。感歎、強調などの語勢を示す。
また句の間に用ゐる。藤堂は楚の系統の語調を整へる助辭とし、《漢高祖・大風歌》大風起兮雲飛揚
(大風起こり雲飛揚す)を引く。
また乎と通じて形容詞を示す。『老子・四』淵兮似萬物之宗。
(淵として萬物の宗たるに似たり。)
解字
白川
象形。鳴子板の形に象る。
『説文解字』に語の稽まる所なり
とあり、兮、稽の疊韻を以て訓ずる。また字形について丂に從ひ、八は气の越亏するに象る
とあつて、气の餘聲を寫したものとするやうである。
兮の卜文、金文の形は、板の上に遊舌を結んで、振つて鳴らす鳴子板形式のもので、音曲の終止の合圖などにも用ゐたものであらう。
『老子・四』の淵兮として萬物の宗に似たり
を《河上公本》に「淵乎」に作る。乎は遊舌が三つある形、兮は遊舌が二枚で、兮、乎はまた聲義の近い字。
藤堂
上部の八印と下部の上がつてきた息が一印で止められたさまから成る會意字。その息が飛散するさまを示す。喉につかへた息が「へい!」と發散して出ることを意味する。
落合
指示。示と八に從ひ、祭祀机の上に切り分けた供物を置いた樣。八の形を變へた異體もある。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 地名。《合集》34482
于兮烄。
- 神名。詳細不明。《合集》32212
乙亥貞、來甲申酒、禾求于兮、燎。
- 兮掃
- 貢納された甲骨の狀態を表す語。詳細不明。《甲骨拼合集》191
丁巳、邑示五屯。兮掃。
- 郭兮
- 時間を表す語。午后の時間帶。
字形は金文で示が丂に替へられ、八と合はせて兮の字體になつた。
漢字多功能字庫
兮は語氣の詞。啊に相當する。
古書に多く兮を感嘆詞に用ゐる。『老子・十五章』古之善為士者、微妙玄通、深不可識。夫唯不可識、故强爲之容、與兮若冬涉川、猶兮若畏四鄰、儼兮其若客、渙兮若冰之將釋、敦兮其若樸、曠兮其若谷、混兮其若濁。
甲骨文、金文は、丂と二縱劃に從ふ。丂は木の枝に象る。上部の二縱劃は風が吹くときに枝葉が發する音に象るものかもしれない(夏淥)。兮と乎は一字の分化したもので、故に二字の構形初義は同じ筈である。一説に感嘆の時の氣(二縱劃)が悠然と出るさまに象るとする。丂は聲符。
兮は丂の上に二縱劃があり、乎は上部に三縱劃がある。兩字の形は似てをり、故に馬敍倫は二字はもと一字とし、姚孝遂、何琳儀は、兩字が一字から分化したものとする。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 地台(補註: 地名の誤りか?)に用ゐる。
- 「郭兮」の語があり、あるいは省いて兮あるいは郭に作る。時を記す名詞で、夕暮れ前に相當する。《屯》2729
中日至郭兮不雨。
金文では姓氏に用ゐる。兮甲盤王易(賜)兮甲馬四匹。
屬性
- 兮
- U+516E
- JIS: 1-49-34
關聯字
兮に從ふ字を漢字私註部別一覽・丂部・兮枝に蒐める。