莽 - 漢字私註
説文解字
南昌謂犬善逐菟艸中爲莽。从犬从茻、茻亦聲。
- 一・茻部
説文解字注
南昌謂犬善逐兔艸中爲莽。从犬茻。此字犬在茻中、故偁南昌方言、說其㑹意之恉也。引伸爲鹵莽。茻亦聲。謀朗切。十部。古音讀如模上聲。在五部。取諸雙聲也。
康煕字典
- 部・劃數
- 艸部・八劃
『玉篇』『唐韻』『廣韻』莫朗切『集韻』『類篇』模朗切、𠀤音蟒。『說文』南昌謂犬善逐兔草中爲莽。
又『揚子・方言』草、南楚之閒謂之莽。『孟子』在野曰草莽之臣。《趙岐註》莽亦草也。『屈原・離騷』夕攬洲之宿莽。《註》草冬生不死者。
又『周禮・秋官・剪氏』掌除蠹物、以莽草薰之。『山海經』朝歌之山有草、名曰莽草、可以毒魚。
又『拾遺記』有草名莽煌、炙人衣則焦、刈之爲席、方冬彌溫、以枝相摩則火出。
又『爾雅・釋草』莽、數節。《疏》凡竹節閒促數者名莽。
又『小爾雅』大也。
又草深貌。『楚辭・天問』草木莽莽。
又『莊子・則陽篇』君爲政焉勿鹵莽。《註》猶粗率也。
又莽蒼、見蒼字註。
又國名。『列子・周穆王篇』西極之南隅、名古莽之國。
又姓。『前漢・武帝紀・莽何羅・註』孟康曰、本姓馬、明德皇后惡其先人有反者、易姓莽。
又『廣韻』莫厚切、音某。義同。
又『唐韻古音』莫補切、音媽。『楚辭・九章』陶陶孟夏兮、草木莽莽。傷懷永哀兮、汨徂南土。
又『集韻』謨郞切、音茫。莽蒼、亦讀平聲。
俗作莾莽。
- 部・劃數
- 艸部・八劃
『干祿字書』俗莽字。
別條に揭出。
音訓
- 音
- マウ(呉) バウ(漢) 〈『廣韻・上聲・蕩・莽』模朗切〉[mǎng]{mong5}
- 訓
- くさ。くさむら。ひろい(莽蒼)。あらい(鹵莽)。
解字
白川
犬と茻の會意。犬は犬牲。茻に墓の意があり、そこに犬牲を以て葬る意の字であらう。
『説文解字』に南昌にて、犬の善く菟を艸中に逐ふものを謂ひて莽と爲す
とするが、それは南楚の方言。
金文の圖象に、玄室の形である亞字形の中に、莫と犬とを添へる形のものがあり、もと墓葬をいふ。墓地に草の生い茂ることから、莽蒼、草莽の意となる。
『莊子・逍遙遊』適莽蒼者三湌而反
(莽蒼に適く者は、三湌にして反る)の《支遁注》に蒼者は冢閒なり
と見える。
西周の聖都を莽京といひ、その神廟を辟雍といふ。
𬝧は莽と同じく、もと墓地を意味した字であらう。
茻、莽は同聲。『説文解字』に字を茻の亦聲とする。
藤堂
艸(草)と犬と艸の會意で、獵犬が草叢に姿を沒するさまを表す。
落合
會意。犬と複數の屮や木に從ひ、草叢や林の中に犬がゐる樣を表してゐる。
甲骨文では、祭祀名に用ゐるか。《合集》21437丙午卜扶、翌日戊申、祖莽、入不…女。
後代には草叢の意味で用ゐられたが、それが原義かどうかは不明。
屮を四つ重ねた茻を聲符とする説もあるが、茻は甲骨文や金文には單獨では見えず、寧ろ莽から分化した字であらう。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、茻と犬に從ひ、茻亦聲。犬が草の中にゐるさまに象り、以て野外の草地を顯示する。本義は野外の草叢、草莽。『玄應音義』卷十二「榛莽」注引『說文』木叢生曰榛、眾草曰莽也。
莽の本義は草叢。古く野外の草叢は見渡す限り果てがなく、深遠遼闊(遼闊は果てなく廣い意)であつた。『左傳・哀公元年』暴骨如莽
杜預注草之生於廣野、莽莽然、故曰草莽。
故に引伸して大、廣闊、深遠の義。大雨をまた「莽雨」と稱し、大風をまた「莽風」と稱す。
- 曹寅『滿江紅・烏喇江看雨』
好一場莽雨、洗開沙磧。
- 冒襄『影梅庵憶語』卷二
莽風飄瓦鹽官城中、日殺數十百人。
野外の草叢は手入れされてゐない。引伸して、人の生まれつきの修養を經てゐない性格、禮儀を學んでゐない行ひを鹵莽となし、故に、莽は引伸して粗野、粗鹵(粗野、粗暴、無禮)の義を有す。
鹵莽の本義は荒地の野草。性格の粗率(輕率、好い加減)は引伸義。
- 『漢書・揚雄傳』
夷阬谷、拔鹵莽、刊山石。
- 『莊子・則陽』
長梧封人問子牢曰、「君為政焉勿鹵莽、治民焉勿滅裂。昔予為禾、耕而鹵莽之、則其實亦鹵莽而報予。……」
粗率で潦草(ぞんざい、好い加減)な耕作は、ただ雜草が生ひ茂るだけの結果であると説き、君主にぞんざいな政治をしないやう勸めてゐる。
甲骨文では人名あるいは國名に用ゐる。金文では人名に用ゐる。
屬性
- 莽
- U+83BD
- JIS: 1-72-47
- 莽󠄁
- U+83BD U+E0101
- CID+14204
- 莽󠄃
- U+83BD U+E0103
- MJ022052
- 莾
- U+83BE
- JIS X 0212: 56-20
- 𦷶
- U+26DF6