翟 - 漢字私註

説文解字

翟
山雉尾長者。从徒歴切。
羽部

説文解字注

翟
山雉也。〔爾雅〕釋鳥』翟、山雉。郭曰、長尾者。按郭翟二注葢取諸『說文』。『〔詩〕邶風〔簡兮〕』右手秉翟。毛曰、翟、翟羽也。『〔同〕庸風〔君子偕老〕』其之翟也。毛曰、翟、褕翟、闕翟。翟羽飾衣也。『周禮〔春官〕』王后五路、重翟、厭翟。鄭曰、重翟、重翟雉之羽。厭翟、次其羽使相迫。按翟羽、經傳多假狄爲之。狄人字、傳多假翟爲之。尾長。故从羽。不入《隹部》者、隹爲短尾鳥緫名、又此鳥以尾長爲異也。从羽从隹。徒歷切。古音在二部。『庸風』韵於十六部合韵也。

康煕字典

部・劃數
羽部・八劃

『廣韻』徒歷切『集韻』『韻會』亭歷切『正韻』杜歷切、𠀤音狄。『說文』山雉尾長者。『書・禹貢』羽畎夏翟。

又『詩・鄘風』其之翟也。《傳》翟、羽飾衣。

又『詩・衞風』翟茀以朝。《傳》翟、翟車也。夫人以翟羽飾車。『周禮・春官・巾車』王后之五路、重翟鍚面朱總、厭翟勒面繢總。《註》重翟、厭翟、謂蔽也。

又『詩・邶風』右手秉翟。《傳》翟、羽也。《疏》謂雉之羽也。

『禮・祭義』夫祭有畀煇胞翟閽者。《註》翟謂敎羽舞者也。《疏》四者皆是踐官。

又國名。『周語』將以翟伐鄭。《註》翟、隗姓之國也。

又戎翟。『周語』自竄于戎翟之閒。《註》翟、或作狄。

又姓。『急就篇・註』翟氏、本齊翟僂新之後也。魏有翟璜、翟翦、漢有翟公、翟方進。

又『廣韻』場伯切『集韻』『韻會』『正韻』直格切、𠀤音宅。陽翟、縣名。『史記・項羽紀』韓王成因故都、都陽翟。《註》陽翟、河陽翟縣也。

又『廣韻』亦姓。唐有陝州刺史翟璋。『姓纂』姓苑、本音翟、後改音宅。

又『集韻』直角切、音濁。鸐或作翟。

音訓

(1) テキ(漢) 〈『廣韻・入聲・錫・荻』徒歷切〉[dí]{dik6}
(2) タク(漢) 〈『廣韻・入聲・陌・宅』場伯切〉[zhái]{zaak6}
(1) きじ。きじばね。

音(2)は姓に用ゐる。

解字

白川

の會意。

『説文解字』に山雉なり。尾の長き者なり。とあり、羽の美しい鳥。

『爾雅・釋鳥』に雉の種類十四種を擧げ、そのうち四方に配する雉の名があり、卜辭に見える四方風神のやうに、雉はもと鳳と同じく、神鳥とされてゐたことが知られる。

詩・邶風・簡兮』に公庭萬舞(公庭に萬舞す)、左手執籥、右手秉翟(左手に籥を執り、右手に翟を秉る)とあつて、萬舞といふ神樂舞に用ゐた。

周禮・春官・巾車』『周禮・天官・內司服』に、王后の車服に翟羽を飾ることが見える。厭勝(まじなひ)として、辟邪の力があるとされたのであらう。

藤堂

(鳥)の會意で、高く拔きん出た尾羽。

落合

鳥の象形であるの頭部にあるを強調した形。

甲骨文では地名またはその長を表す。《合集》667癸卯卜㱿貞、呼𫸧往翟、從𨖹。

後代には雉の尾羽の意味となり、さらに戎翟を指して用ゐられたが、いづれも引伸義。

漢字多功能字庫

甲骨文、金文は、に從ふ。隹は鳥類に象る。羽はその羽毛、羽翼の細長さを強調する。本義は尾の長い雉、またその羽毛を指す。羽は茂盛で細長い羽毛を表す(『説文解字』羽、鳥長毛也)ので、羽に從ふ翟は尾の長い雉を表す。『説文解字』翟、山雉尾長者。(後略)《段注》隹爲短尾鳥緫名。又此鳥以尾長爲異也。

「長尾雉」は我國の特産の鳥で、四種がある。そのなかで比較的よく觀られるものは白冠長尾(學名: Syrmaticus reevesii、和名: 尾長雉)、俗に「長尾野雞」、また「地雞」と呼ぶ。雄鳥の最も長い二本の尾羽は、京劇の武將の兜の裝飾品に常々選ばれる。その數が少ないので、國の保護動物とされてゐる(參: 華漢文化會館)。

甲骨文に羽字は見えず、學者は甲骨文の羽は實はであるとする。金文の羽字と甲骨文の彗字は同じ形。『説文解字』彗、掃竹也。甲骨文の彗は二つの立てた帚の頭に象る。帚の頭は掃除のために多く茂りて長く、羽と帚の頭の構形はごく近い。言ひ傳へによると、夏代に少康といふ人がをり、偶然に傷附いた雉が身體を引き摺つてゐるのを見ると、身體を引き摺つた場所の灰塵は隨分と減つてゐた。彼はこれが雉の羽毛の作用だと思ひ、雉を何羽か捕らへて羽毛を拔き、帚を作つた。これが雉羽のはたきの由來である。用ゐた雉羽はとても軟らかく、また摩損に耐へなかつたので、少康は竹の枝や草などの原料に換へ、はたきを耐用性のある帚に作り替へた(參: 香港百科)。

甲骨文辭殘での意義は不詳。金文では假借して禴、礿となし、夏季の祭祀。史喜鼎史喜乍(作)朕文考翟祭は、史喜が我の文德ある先父のために翟祭を行ふの意。『詩・小雅・天保』禴祠烝嘗、于公先王。毛傳春曰祠、夏曰禴、秋曰嘗、冬曰烝。禴は礿に同じ。『爾雅・釋天』夏祭曰礿唐陸德明『經典釋文』本或作禴。『周禮・大宗伯』以禴夏享先王。

戰國竹簡では本義に用ゐ、雉を指す。《望山楚簡》二2翟輪は、色をつけて雉を描いた車輪の意。古人は雉の圖案や雉羽で車輛を裝飾することを好んだ。『詩・衛風・碩人』四牡有驕、朱幩鑣鑣、翟茀以朝。毛亨傳翟、翟車也。夫人以翟羽飾車。

戰國竹簡ではまた假借して糴となし、穀物を買ひ込むことを表す。《包山楚簡》105安陵莫囂䜌狎爲鄝貣(貸)越異之黃金七益(鎰)以翟(糴)穜(種)の「安陵」、「鄝」はいづれも楚國の地名。「莫囂」は楚の官名であるいは「莫敖」に作る。「䜌狎」はその官職にある人物の名。「越異」は災害を克服する、災害から救濟することを指す。全句で、安陵の莫囂の䜌狎は鄝の地に災害救援機關から穀物の種子を買ひ込むための黃金七鎰を貸し出した、の意。

漢帛書では假借してとなし、照らすことを表し、引伸して教へ導くことを意味する。《馬王堆・老子甲本卷後古佚書》第455行聖者知(智)、聖之知(智)知天、其事化翟(燿)。聖人は明智(賢明)であり、その智慧は天道を知るところにあり、その功業は萬物を育て、萬物を照らすこと(つまり萬物を明津に導き、門徑に導くこと)にある、の意。

漢帛書ではまた假借して狄となし、北方の外族を指す。《馬王堆・戰國縱橫家書》第147行秦兵〈與〉式〈戎〉翟(狄)同俗、有虎狼之心、貪戾好利は、秦國と狄族の風俗は相同じく、虎狼のやうに野心に滿ち滿ちてをり、貪婪暴戾である、の意。

漢帛書ではまた借りて縮となし、退縮を表す。《馬王堆・老子乙本卷前古佚書・經法・四度》第45行柔弱者无罪而幾、不及而翟、是胃(謂)柔弱。柔弱とは、罪はないのに危險に身を置き、到達してゐないのに自ら引つ込む、これを柔弱と呼ぶ、の意。

屬性

U+7FDF
JIS: 1-90-32
JIS X 0212: 53-28

關聯字

翟に從ふ字を漢字私註部別一覽・隹部・翟枝に蒐める。