冒 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
冡而前也。冡者、覆也。引伸之有所干犯而不顧亦曰冒。如假冒、如冒白刃、如貪冒、是也。『〔詩〕邶風〔日月〕』下土是冒。《傳》曰、冒、覆也。此假冒爲冃也。
从冃目。會意。冃目者、若無所見也。冃亦聲。目報切。古音在三部。
古文冒。汗𥳑同。
康煕字典
- 部・劃數
- 冂部・七劃
- 古文
- 𡈘
- 𡇾
『唐韻』莫到切『集韻』『韻會』『正韻』莫報切、𠀤音耄。〔音1〕『說文』蒙而前也。从冃目、以物自蒙而前也。謂貪冒若目無所見也。『前漢・翟方進傳』冒濁苟容。《註》師古曰、貪蔽也。『食貨志』舉陵夷廉恥相冒。《註》冒、蔽也。
又假稱曰冒。『前漢・衞靑傳』冒姓衞氏。《註》冒爲假稱、若人首之有覆冒也。
又所以覆其首。『前漢・雋不疑傳』著黃冒。
又『玉篇』覆也、食巾也。
又與媢通。『正韻』忌也。『書・秦誓』冒嫉以惡之。
又通作瑁。『周禮・春官』天子執冒四寸、以朝諸侯。《註》名玉。曰冒者、言德能覆天下也。
又『集韻』『韻會』『正韻』𠀤密北切、音黙。〔音2〕『增韻』貪也。『左傳・昭三十一年』貪冒之民。
又犯也。『前漢・衞靑傳』直冒漢圍。
又單于名。『史記・匈奴傳』及冒頓立、攻破月氏。
又『集韻』『正韻』𠀤莫佩切、音妹。〔音3〕『前漢・司馬相如傳』毒冒鼈黿。《註》毒音代、冒音妹。『韻會』龜屬。身似龜、首尾如鸚鵡、甲有文。
- 部・劃數
- 冂部・六劃
『篇海』俗冒字。
- 部・劃數
- 囗部・九劃
『字彙補』古文冒字。註詳冂部七畫。
- 部・劃數
- 囗部・十一劃
『集韻』冒古作𡈘。註詳冂部七畫。
異體字
或體。
音訓義
- 音
- ボウ(漢) モウ(呉)⦅一⦆
- ボク(漢) モク(呉)⦅二⦆
- バイ マイ⦅三⦆
- 訓
- おほふ⦅一⦆
- をかす⦅一⦆
- 官話
- mào⦅一⦆
- mò⦅二⦆
- 粤語
- mou6⦅一⦆
- mak6⦅二⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・去聲・号・冃』莫報切
- 『集韻・去聲下・号第三十七・冃』莫報切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・号第十四・明一冃』莫報切
- 聲母
- 明(重脣音・次濁)
- 等呼
- 一
- 官話
- mào
- 粤語
- mou6
- 日本語音
- ボウ(漢)
- モウ(呉)
- 訓
- おほふ
- をかす
- 義
- 覆ふ。被る。
- 危險ををかす。困難に立ち向かふ。冒險。冒涉。冒行。
- 僞る、騙る。假冒。冒名。冒稱。
- 立ち上る。吹き出す。冒烟。冒汗。
- 釋
- 『廣韻』
冒: 覆也、涉也。又莫北切。
- 『集韻』
冒𡈘: 『說文』蒙而前也。古作𡈘。
- 『康煕字典』上揭。
⦅二⦆
- 反切
- 『廣韻・入聲・德・墨』莫北切
- 『集韻・入聲下・德第二十五・墨』密北切
- 『五音集韻・入聲卷第十五・德第七・明一墨』莫北切
- 聲母
- 明(重脣音・次濁)
- 等呼
- 一
- 官話
- mò
- 粤語
- mak6
- 日本語音
- ボク(漢)
- モク(呉)
- 義
- をかす。貪る。
- 冒頓は匈奴の單于の名(jawp)。
- 釋
- 『廣韻』
冒: 干也。又莫報切。
- 『集韻』
冒: 干也。
- 『康煕字典』上揭。
⦅三⦆
- 反切
- 『集韻・去聲上・隊第十八・妹』莫佩切
- 『五音集韻・去聲卷第十・隊第十四・明一妹』莫佩切
- 聲母
- 明(重脣音・次濁)
- 等呼
- 一
- 日本語音
- バイ: KO字源に據る。
- マイ: KO字源に據る。
- 義
- 瑇瑁の瑁に同じ。
- 釋
- 『集韻』
瑁𤲰蝐冒: 瑇瑁、龜屬。或从甲、从蟲、亦省。
- 『康煕字典』上揭。
解字
白川
『説文解字』に蒙りて前むなり
と冒進の意を加へて説く。上に甲を戴いて、險を冒す意とするのであらう。
藤堂
目と音符冃の會意兼形聲。冃は、二印(物)の上に冂型の覆ひを被せたことを示す。冒は、目を覆ひ隱すことを示す。
漢字多功能字庫
金文は冃と目に從ふ。冃は帽子の形に象り、目は目の形に象る。古人は往々にして頭部を代表するのに目を用ゐた。全字で頭に帽子を被る形に象る。本義は頭衣つまり帽子。金文では人名に用ゐる。戰國竹簡では冃を訛變して尹の形に作り、目をあるいは訛變して自に作る。一説に自は首の簡略形で、頭に帽子を戴くさまに象るといふ。
戰國竹簡での用義は次のとほり。
- 動詞に用ゐ、帽子を被ることを表す。《郭店簡・唐虞之道》簡25-26
古者聖人廿(二十)而冒(帽)、卅(三十)而又(有)家
の、「冒(帽)」は加冠の意を有し、古く聖人は二十歲で加冠し、三十歲で家を成し室を立てる、の意。『禮記・曲禮』二十曰弱、冠。
- 人名に用ゐる。《清華簡一・楚居》簡7
至焚(蚡)冒酓(熊)帥(率)自箬(鄀)徙居焚。
蚡冒は楚の君主で、楚の厲王のこと。もとの名を熊率といひ、鄀、焚は地名。焚冒熊率は鄀から焚に居を遷すの意。『國語・鄭語・平王之末秦晉齊楚代興』楚蚠冒於是乎始啟濮
韋昭注冒、楚季紃之孫、若敖之子熊率。
傳世文獻で冒を本義に用ゐた例は次のごとし。
- 『漢書・雋疏于薛平彭傳』
始元五年、有一男子乘黃犢車、建黃旐、衣黃襜褕、著黃冒、詣北闕、自謂衛太子。
顏師古注冒、所以覆冒其首。
旐は旗、襜褕は古代の單衣の一種。この衞太子を自稱する人の被るもの、身に著けるもの、用ゐるものはいづれも明るい黃色と言ふ。 - 『新唐書・輿服志』
白紗冒者、視朝、聽訟、宴見賓客之服也。
後に、帽子、帽子を被る意の冒は意符の巾を加へて作つた帽で表され、冒は引伸義に用ゐられる。
古書でもまた冒を動詞となして帽子を被ることを表す例がある。
- 『戰國策・韓策一』
山東之卒被甲冒冑以會戰。
冑は頭盔(兜、ヘルメット)、冒冑は兜を被ること。 - 『後漢書・輿服志下』
上古穴居而野處、衣毛而冒皮、未有制度。
冒は、頭上に戴くことから引伸して、覆蓋(覆ひ被せること、覆ひ被せる物)、籠罩(覆ふ、包む)の意となる。『玉篇・冃部』冒、覆也。
- 『詩・邶風・日月』
日居月諸、下土是冒。
《毛傳》日乎月乎、照臨之也。
居や諸は語氣の助詞。 - 『文選・曹子建・公讌詩』
秋蘭被長坂、朱華冒綠池。
帽子を被ることは帽子が頭頂を覆ふだけでなく、頭上に帽子を突く(突き上げる)ことでもあり、故に冒はまた引伸して頂著、冒著(ともに突く、冒すの意)の意となる。
- 『史記・司馬相如列傳』
解白刃、冒流矢、義不反顧、計不旋踵。
- 一步進んで、顧みない、危險を冒すことを表す。
- 『後漢書・鄧張徐張胡列傳』
聞車駕當進幸江陵、以為不宜冒險遠、驛馬上諫。
- 『後漢書・鄧張徐張胡列傳』
- 『文選・曹子建・求自試表』
是以敢冒其醜而獻其忠、必知為朝士所笑。
冒は觸犯(法に觸れる、他の利益や尊嚴を犯す)、冒犯(法を犯す、禮に背く、機嫌を損ねる、怒らせる)を表す。
- 『戰國策・楚策一』
(蒙穀)遂自棄於磨山之中、至今無冒。
鮑彪注冒、謂犯法。
- 『史記・吳太伯世家』
遂以其部五千人襲冒楚、楚兵大敗、走。
假冒、冒充(ともに僞る、騙る、なりすます意)を表す。
- 『史記・游俠列傳』
臨晉籍少公素不知解、解冒、因求出關。
- 『漢書・衛青霍去病傳』
青有同母兄衛長君及姊子夫、子夫自平陽公主家得幸武帝、故青冒姓為衛氏。
また貪婪を表す。
- 『尚書・泰誓』
今商王受、弗敬上天、降災下民、沈湎冒色、敢行暴虐。
《孔傳》沈湎嗜酒、冒亂女色。
孔穎達疏冒訓貪也。
- 『左傳・文公十八年』
縉雲氏有不才子、貪于飲食、冒于貨賄。
また、冒煙(煙が上る)、冒汗(汗が出る)など、外に向かつて透す、上に向かつて昇ることを表すが、後起の義である。
- 北宋・蘇軾〈雨後行菜圃〉
白菘類羔豚、冒土出蹯掌。
- 『紅樓夢』第86回
大爺拿碗就砸他的腦袋、一下子就冒了血了、躺在地下。
屬性
- 冒
- U+5192
- JIS: 1-43-33
- 當用漢字・常用漢字
- 冐
- U+5190
- JIS: 1-70-78
- 𡇾
- U+211FE
- 𡈘
- U+21218
- 𠕬
- U+2056C
關聯字
冒に從ふ字を漢字私註部別一覽・冃部・冒枝に蒐める。