獻 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
宗廟犬名羹獻。犬肥者以獻。此說从犬之意也。『〔禮記〕曲禮』曰「凡祭宗廟之禮、犬曰羹獻。」按羹之言良也。獻本祭祀奉犬牲之偁。引伸之爲凡薦進之偁。按『論語』鄭注曰、獻猶賢也。獻得訓賢者、『周禮・注』獻讀爲儀。是以『伏生尙書』民儀有十夫、『古文尙書』作民獻。『咎繇』〔註1〕誤古文「萬邦黎獻」、漢《孔宙碑》《費鳳碑》《斥彰長田君碑》皆用「黎儀」字。皆用『伏生尙書』也。班固『北征頌』亦用「民儀」字。
从犬鬳聲。許建切。十四部。
- 註1: 咎繇は皋陶。
萬邦黎獻
は『僞古文尙書・益稷』に見える。『僞古文尚書』は『今文尙書(伏生尙書)・皋陶謨』を『皋陶謨』『益稷』に分かつ。
康煕字典
- 部・劃數
- 犬部・十六劃
『唐韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤許建切、音憲。〔音1〕『說文』宗廟犬名羹獻、犬肥者以獻之。从犬鬳聲。『禮・曲禮』犬曰羹獻。
又『廣韻』進也。『爾雅・釋詁』享獻也。《疏》致物於尊者曰獻。『周禮・天官・小宰』膳獻。《註》膳獻、禽羞俶獻也。又『膳夫』王燕飮酒、則爲獻主。
又『書・益稷』萬邦黎獻。《傳》獻、賢也。『論語』文獻不足故也。
又『爾雅・釋言』獻、聖也。『諡法』聰明叡哲曰獻。知質有聖曰獻。
又『爾雅・釋天』太歲在亥曰大淵獻。
又姓。『風俗通』秦大夫獻則。
又『集韻』桑何切、音娑。〔音2〕酒尊名、飾以翡翠、鄭司農說。本作犧、或作戲。詳牛部犧字註。
又『禮・明堂位』周獻豆。《註》獻、疏刻之。《疏》正義曰、獻、音娑。娑是希疏之義、故爲疏刻之。『釋文』素何反。
又『集韻』魚羈切、音宜。〔音3〕儀也。『周禮・春官・司尊彝』鬱齊獻酌。《註》鄭司農云、獻、讀爲儀。儀酌有威儀多也。
又『正韻』虛宜切、音羲。〔音4〕『前漢・王莽傳』建華蓋、立斗獻。《註》師古曰、獻音犧、謂斗魁及杓末如勺之形也。
又叶虛言切、音軒。『詩・小雅』有兔斯首、炮之燔之。君子有酒、酌言獻之。
- 部・劃數
- 犬部・九劃
『篇海』同獻。『字彙』俗獻字。
音訓義
- 音
- ケン(漢) コン(呉)⦅一⦆
- サ⦅二⦆
- ギ(推)⦅三⦆
- キ(推)⦅四⦆
- 訓
- たてまつる⦅一⦆
- 官話
- xiàn⦅一⦆
- 粤語
- hin3⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・去聲・願・獻』許建切
- 『集韻・去聲上・願第二十五・獻』許建切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・願第七・曉三獻』許建切
- 聲母
- 曉(喉音・全清)
- 開合
- 開
- 等呼
- 三
- 推定中古音
- hɪʌn
- 官話
- xiàn
- 粤語
- hin3
- 日本語音
- ケン(漢)
- コン(呉)
- 訓
- たてまつる
- 義
- 奉る、捧げる、進める。獻上。獻呈。
- 客に酒を勸める。獻酬。
- 獻歲は歲首。獻春は春の始め。
- 賢い人。文獻はもと文書と賢者のこと。『論語・八佾』
文獻不足故也。
- 本邦では杯を勸める回數の助數詞とする。一獻。
- 本邦では字を獻立に用ゐる。
- 釋
- 『廣韻』
獻: 進也。『禮〔曲禮下〕』云「大〔犬の譌誤〕曰羹獻」。又姓。『風俗通』有秦大夫獻則。許建切。四。
- 『集韻』
獻: 許建切。『說文』宗廟犬名羮獻、犬肥者以獻之。文六。
- 『康煕字典』上揭。
⦅二⦆
- 反切
- 『廣韻・下平聲・歌・娑』
- 『集韻・平二・戈・娑』桑何切
- 『五音集韻・中平聲卷第四・歌第十五・心一娑』素何切
- 聲母
- 心(齒頭音・全清)
- 等呼
- 一
- 日本語音
- サ
- 義
- 酒尊の名に用ゐる。あるいは犧や戲に作る。
- 釋
- 『廣韻』
獻: 獻罇、見『禮記』。亦作犧。
- 『集韻』
犧獻戲: 酒尊名、飾以翡翠。鄭司農說。或作獻戲。
- 『康煕字典』上揭。
⦅三⦆
- 反切
- 『集韻・平一・支・宐』魚羈切
- 『五音集韻・上平聲卷第一・脂第五・疑三狋』牛肌切
- 聲母
- 疑(牙音・次濁)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- ギ(推)
- 義
- 威儀。
- 釋
- 『集韻』
獻: 儀也。『周禮〔春官・司尊彝〕』「獻酌」、鄭司農讀。
- 『康煕字典』上揭。
⦅四⦆
- 反切
- 『集韻・平一・支・犧』虛宜切
- 『五音集韻・上平聲卷第一・脂第五・曉三犧』許羈切
- 聲母
- 曉(喉音・全清)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- キ(推)
- 義
- 桸に同じ。
- 釋
- 『集韻』
桸獻: 勺也。或作獻。
- 『康煕字典』上揭。
解字
白川
『說文』に宗廟には、犬は羹獻と名づく。犬の肥えたる者は、以て獻ず。
といふ。
『禮記・曲禮下』に、神饌とするときの薦獸の名を定めて、犬には羹獻と曰ふ
とあり、犬を供薦することもあつた。
しかし獻は甗の形に從つてをり、甗はこしきであるから、犬牲を供する器とはし難い。器、猷、就、軷などに從ふ犬はみな修祓のために用ゐるもので、その血を以て釁禮を行ふものであるから、供薦するためのものではない。獻も甗に犬牲を以て釁する意。彝器の彝が、鷄血を以て釁する意であるのと同じ。
凡そ祭器として用ゐるものは、みな獻といふ。
藤堂
犬と音符鬳の會意兼形聲。鬳は、虎と鬲(三本の袋足のついた煮炊きする器)の會意字で、虎などの飾りのついた立派な食器。獻は、犬の肉を食器に盛つて差し上げることを示す。高く捧げる、下から上へあげるの意を含む。
落合
甲骨文は、祭器である甗の初文と祭祀犧牲の犬を合はせた形。甗亦聲。異體字には鼎の略體に從ふ形のほか、祭祀の參加者として口を開けた人を表す欠を用ゐた形もある。
甲骨文では、祭祀や供物を神に獻ずることを表す。《合集》32757己亥卜、辛丑、獻婦好祀。
字形は金文で甗の初文が鬳の形になつた。
漢語多功能字庫
甲骨文、金文は、鬳と犬に從ふ。鬳も犬も聲符。鬳は甗の初文。食物を盛る器で、祭祀に用ゐる。甗を用ゐて食物を進獻する意を表す。本義は進獻。
甲骨文での用義は不詳。
金文での用義は次のとほり。
- 進獻を表す。
- 羌伯簋
獻帛
。『周禮・天官・玉府』凡王之獻金玉
鄭玄注古者致物於人、尊之則曰獻、通行曰饋。
- 多友鼎
多友迺獻俘、聝、訊于公
は、多友は捕虜を公に進獻したの意。『詩・魯頌・泮水』矯矯虎臣、在泮獻馘。
鄭玄箋馘、所格者之左耳。
強健な武將が泮水の旁らに在りて、捕虜の左耳を進獻するの意。
- 羌伯簋
- 讀みて甗となす。煮炊きする器の一種。
- 伯真甗
白(伯)真乍(作)旅獻(甗)
は、伯真が隨行用の甗を造つたことを表す。
- 伯真甗
- 人名に用ゐる。
徐超
甲骨文は犬に從ひ鬳亦聲、形聲兼會意。鬳は甗の古い字、後に鬲と形が近く相混じる。
金文はあるいは犬と鬳に從ひ、あるいは犬と鼎に從ふ。鬳、鬲、鼎はいづれも、煮燒き、盛り附けの器で、部分字としては同じ意を表す。あるいは省略して虎と犬に從ふ形や虍と犬に從ふ形に作る。犬を器の中に置いて祭品となし進獻することを表す。劉釗は犬を累加の聲符とする。
獻の本義は、進獻すること、あるいは進獻する祭品。
後世には獻は鬳を聲符とし、犬を意符とし、それが今まで踏襲されてきた。獻と甗はいづれも鬳を聲符とし、通用する。銘文にあるいは進獻の義に用ゐ、あるいは甗と讀み、あるいは人名に用ゐる。
屬性
- 獻
- U+737B
- JIS: 1-64-59
- 献
- U+732E
- JIS: 1-24-5
- 當用漢字・常用漢字