鬳 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
鬲屬。鬲、鼎屬也。
从鬲虍聲。牛建切。十四部。按戴氏侗引唐本虔省聲。〔註1〕似是。然獻尊卽犧尊。車轙亦作钀。歌元古通。魚歌古又通。虍聲卽魚歌之合也。
- 註1: 戴侗『六書故・二十八』
鬳: 文曰「鬲属」。今本「虍聲」、唐本「䖍省聲」、林罕亦曰「䖍省聲」、孫氏「牛建切」。疑即甗字。
康煕字典
- 部・劃數
- 鬲部・六劃
『集韻』俱願切、音絭。〔音2〕『說文』鬲屬。
音訓義
- 音
- ゲン(漢) ゴン(呉)⦅一⦆
- ク𛅥ン(推)⦅二⦆
- 官話
- yàn⦅一⦆
- 粤語
- jin6⦅一⦆
- gyun3⦅二⦆
- hin3⦅三⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・去聲・願・𤬝』語堰切
- 『集韻・去聲上・願第二十五・𤬝』牛堰切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・願第七・疑三𤬝』語堰切
- 聲母
- 疑(牙音・次濁)
- 開合
- 開
- 等呼
- 三
- 推定中古音
- ŋɪʌn
- 官話
- yàn
- 粤語
- jin6: 古今文字集成、漢字多功能字庫に據る。
- 日本語音
- ゲン(漢)
- ゴン(呉)
- 義
- 鬲の屬。こしき。蒸し器。甗に同じ。
- 釋
- 『廣韻』
鬳: 鬲屬。
- 『集韻』
鬳甗: 『說文』鬲屬。或作甗。
⦅二⦆
- 反切
- 『集韻・去聲上・願第二十五・㪻』俱願切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・願第七・見三卛』居願切
- 聲母
- 見(牙音・全清)
- 開合
- 合
- 等呼
- 三
- 粤語
- gyun3: 漢字多功能字庫に據る。
- 日本語音
- ク𛅥ン(推)
- 義
- ⦅一⦆に同じ。
- 釋
- 『集韻』
鬳: 鬲也。
- 『康煕字典』上揭。
⦅三⦆
- 粤語
- hin3: 粵音資料集叢に據る。
- 補註
- 獻と同音。
解字
早期は甗(zhwp)の象形字、鬲上に甑を置く形、甗の初文。後に虍を加へる。更に後には甗の象形を鬲や鼎に替へ、小篆は前者を承けるものと思しい。
白川
『說文』に鬲の屬なり
とあり、甗の初文。
金文の甗の銘には鬳の字を用ゐてゐる。
藤堂
虍(虎)と鬲(三本の袋足のついた煮炊きする器)の會意。虎などのついた立派なかなへを示す。
落合
甗の初文でその象形。甲骨文字には少數であるが旣に虍を加へた字形があり、虍は聲符とされるが、上古音の段階で旣に字音が分化してゐる。
甲骨文での用義は次のとほり。(補註: 落合は釋字に甗を用ゐるが以下では鬳に替へる。)
- 地名またはその長。《合集》20317
…卜王、余呼鬳。
- 祭祀名。假借して獻の意味とする説もある。《合集》32125
甲寅貞、來丁巳、尊鬳于父丁、宜三十牛。
- 事象が出現すること。假借の用法で字音が近い見の意味かもしれない。《合集》14315
貞、其不多𣲠鬳。
字形は金文で鬲を用ゐた鬳の形となり、篆文で更に意符として瓦が追加された(補註: 甗)。
漢語多功能字庫
甲骨文、金文は、鬲に從ひ虍聲(虎の頭に象る)。甗の形聲字。本義は古代の炊器。後に瓦を意符として加へる。
鬳は虍を以て聲を表した後、從ふ所の甗の形が多く鼎と似た形に化した。後には鬳字に瓦を加へ、以て器皿の意を表す。
甲骨文では讀みて獻となし、進獻を表す。《合集》26954獻羌
は、羌人を進獻することを表す。
金文では本義に用ゐ、炊器を表す。𢐗伯甗𢐗白(伯)自為用鬳(甗)
は𢐗伯が自ら日用の甗を製造したの意。
戰國竹簡では讀みて獻となし、進獻を表す。《睡虎地秦簡・日書甲種》簡112正1鬳(獻)馬
。
『說文』「鬳、鬲屬。(後略)
徐超
鬳は甗の古い字、後に鬲と形が近く相混じる。
屬性
- 鬳
- U+9B33
- JIS: 2-93-29
- JIS X 0212: 74-19
關聯字
鬳に從ふ字を漢字私註部別一覽・鬲部・鬳枝に蒐める。