來 - 漢字私註
説文解字
周所受瑞麥來麰。一來二縫、象芒朿之形。天所來也、故爲行來之來。『詩』曰、詒我來麰。凡來之屬皆从來。洛哀切。
- 五・來部
説文解字注
周所受瑞麥來麰也。「也」字今補。『詩・正義』此句作「周受來牟也」五字。『〔詩〕周頌〔思文〕』「詒我來麰」、《箋》云、武王渡孟津、白魚躍入王舟。出涘以燎。後五日、火流爲烏。五至。以榖俱來。此謂遺我來牟。書說以榖俱來。云榖紀后稷之德。按鄭箋見『尙書・大誓』、『尙書旋機鈐』合符后。『詩』云來牟、『書』云榖。其實一也。下文〔麰字條〕云「來麰、麥也」。此云「瑞麥來麰」。然則來麰者、以二字爲名。『毛詩傳』曰「牟、麥也」。當是本作「來牟、麥也」。爲許麰下所本。後人刪來字耳。古無謂來小麥、麰大麥者。至『廣雅』乃云麳小麥、𪍓大麥。非許說也。劉向傳作釐麰。文𨕖典引注引『韓詩內傳』貽我嘉𪍓。薛君曰、𪍓、大麥也。與趙岐孟子注同。然韓傳未嘗云來小麥。
二麥一夆。象其芒朿之形。「二麥一夆」、各本作「一來二縫」。不可通。惟『思文・正義』作「一麥二夆」、今定爲「二麥一夆」。夆卽鏠字之省。許書無峯、則山耑字可作夆。凡物之標末皆可偁夆。夆者、朿也。二麥一夆爲瑞麥。如二米一稃爲瑞黍。葢同夆則亦同稃矣。『廣韵・十六咍』引『埤蒼』曰「䅘麰之麥。一麥二稃。周受此瑞麥。」此一二㒳字亦是互譌。二麥一稃。亦猶異畮同穎、雙觡共柢之類。其字以象二麥、以象一芒。故云象其芒朿之形。洛哀切。古音在一部。
天所來也、故爲行來之來。自天而降之麥。謂之來麰。亦單謂之來。因而凡物之至者皆謂之來。許意如是。猶之相背韋之爲皮韋、朋鳥之爲朋攩、鳥西之爲東西之西、子月之爲人偁、烏之爲烏呼之烏。皆引伸之義行而本義廢矣。如許說、是至周初始有來字。未詳其恉。
『詩』曰「詒我來麰」。今『毛詩』詒作貽。俗字也。麰作牟。古文假借字也。
凡來之屬皆从來。
康煕字典
- 部・劃數
- 人部・六劃
- 古文
- 徠
『廣韻』落哀切『集韻』『韻會』『正韻』郞才切、𠀤賴平聲。〔音1〕至也、還也、及也。『禮・曲禮』禮尚往來。往而不來、非禮也。來而不往、亦非禮也。
又『公羊傳・隱五年』公觀魚於棠、登來之也。《註》登讀爲得、齊人謂求得爲登來。
又玄孫之子曰來孫。
又麥名。『詩・周頌』貽我來牟。『前漢・劉向傳』作飴我釐麰。亦作䅘。
又呼也。『周禮・春官』大祝來瞽令臯舞。
又姓。
又『集韻』洛代切、音賚。〔音2〕撫其至日來。『孟子』放勳曰、勞之來之。
又叶鄰奚切、音離。『詩・邶風』莫往莫來、悠悠我思。『素問』恬澹虛無、眞氣從之。精神守內、病安從來。
又叶郞狄切、音力。『詩・小雅』東人之子、職勞不來。叶下服。『大雅』經始勿亟、庶民子來。
又叶落蓋切、音賴。『屈原・離騷』因氣變而遂會舉兮、忽神奔而鬼怪。時髣髴以遙見兮、精皎皎以往來。
又叶良置切、音利。『荀子・賦篇』一往一來、結尾以爲事。
- 部・劃數
- 人部・八劃
『集韻』同徠。
- 部・劃數
- 彳部八劃
『玉篇』古文來字。『楚辭・九章』后皇嘉樹、橘徠服兮。『前漢・郊祀歌』天馬徠從西極。
又『韻會』徂徠、山名。『詩・魯頌』徂來之松、作徂來。
- 部・劃數
- 走部・八劃
『集韻』來或从走作𧼛。詳人部來字註。
- 部・劃數
- 辵部八劃
『廣韻』落哀切『集韻』郞才切、𠀤音來。『玉篇』來也、至也、就也。
又『廣韻』『集韻』𠀤洛代切、音賚。勞也。
異體字
簡体字。
いはゆる新字體。
簡体字。
簡体字。
音訓義
- 音
- ライ(漢)(呉)⦅一⦆
- ライ(漢)(呉)⦅二⦆
- リ(推)⦅三⦆
- ロ(推)⦅四⦆
- リョク(推)⦅五⦆
- 訓
- くる⦅一⦆
- きたる⦅一⦆
- きたす⦅一⦆
- このかた⦅一⦆
- ねぎらふ⦅二⦆
- 官話
- lái⦅一⦆
- lài⦅二⦆
- 粤語
- loi4⦅一⦆
- lai4⦅一⦆
- loi6⦅二⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・上平聲・咍・來』落哀切
- 『集韻・平聲二・咍第十六・來』郎才切
- 『五音集韻・上平聲卷第二・咍第十三・來一來』落哀切
- 聲母
- 來(半舌音・次濁)
- 等呼
- 一
- 官話
- lái
- 粤語
- loi4
- lai4(白讀)
- 日本語音
- ライ(漢)(呉)
- 訓
- くる
- きたる
- きたす
- このかた
- 義
- 此方に近附く、至る。
- 來させる。招く。齎す。
- 過去のある時から後、今まで。爾來。從來。
- この先。將來。未來。來日。來旬。來年。
- 麥。小麥。麳に通ず。
- 釋
- 『廣韻』
來: 至也、及也、還也。又姓。後漢來歙、光武姑子。『蜀志〔來敏傳〕』云「荆楚名族」。有黃門侍郎來𢘆。俗作来。落哀切。二十五。
- 『廣韻』
逨: 至也。又力代切。
- 『廣韻』
徠: 還也。又力代切。
- 『集韻』
來徠逨𧼛: 郎才切。『說文』「周所受瑞麥來麰。一來二縫、象芒束之形。天所來也、故為行來之來。」引『詩』「詒我來麰」。亦姓。或从彳从辵从走。文四十一。
- 『康煕字典』上揭。
⦅二⦆
- 反切
- 『廣韻・去聲・代・賚』洛代切
- 『集韻・去聲上・代第十九・勑』洛代切
- 『五音集韻・去聲卷第十・代第十五・來一賚』洛代切
- 聲母
- 來(半舌音・次濁)
- 等呼
- 一
- 官話
- lài
- 粤語
- loi6
- 日本語音
- ライ(漢)(呉)
- 訓
- ねぎらふ
- 義
- 勞ふ。勞る。勑に通ず。
- たまふ。賚に通ず。
- 釋
- 『廣韻』
徠: 勞也。
- 『廣韻』
逨: 就也。又音來。
- 『集韻』
勑徠俫來逨: 洛代切。『說文』勞也。或从彳从人、亦作來逨。文十五。
- 『集韻』
𧼛: 來也。通作徠逨。
- 『康煕字典』上揭。
⦅三⦆
- 反切
- 『廣韻・上平聲・之・釐』里之切
- 『集韻・平聲一・㞢第七・釐』陵之切
- 『五音集韻・上平聲卷第一・脂第五・來三離』吕支切
- 聲母
- 來(半舌音・次濁)
- 等呼
- 一
- 日本語音
- リ(推)
- 釋
- 『廣韻』
倈: 倈來見『楚詞』。
- 『集韻』
來倈: 至也。或作倈。
⦅四⦆
- 反切
- 『集韻・平聲二・模第十一・盧』龍都切
- 『五音集韻・上平聲卷第二・模第九・來一盧』落胡切
- 聲母
- 來(半舌音・次濁)
- 等呼
- 一
- 日本語音
- ロ(推)
- 釋
- 『集韻』
來: 徠也。山東語。
⦅五⦆
- 反切
- 『集韻・入聲下・職第二十四・力』六直切
- 『五音集韻・入聲卷第十五・職第六・來三力』林直切
- 聲母
- 來(半舌音・次濁)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- リョク(推)
- 義
- 小麥。麳に同じ。
- 釋
- 『集韻』
來䅘麳𪎂: 來牟、麥也。或作䅘麳𪎂。
解字
白川
來
象形。麥の形に象る。
『説文解字』に周、受くる所の瑞麥、來麰なり。一來に二縫あり。芒朿の形に象る。天の來す所なり。
とし、『詩・周頌・思文』の我に來麰を詒る
の句を引く。
周の始祖后稷が、その瑞麥嘉禾を得て國を興したことは『書序』の『歸禾』『嘉禾』にも見える。
往來、來旬、また賚賜などの用義はすでに卜辭にも見えるが、みな假借義。
徠
形聲。聲符は來。來は「來麥」の字で、それを假借して往來の意に用ゐ、その專字としてのち徠が作られた。
『玉篇』に就くなり、勞ふなり
と見える。
『漢書・武帝紀』に氐羌徠服
(氐、羌、徠服す)とあつて、來の繁文。
來は卜辭、金文以來、往來の字に用ゐてをり、徠は後起の字。
藤堂
來
象形。穗が垂れて實つた小麥を描いたもので、麥のこと。麥はそれに夊印(足を引き摺る姿)を添へた形聲字で、「くる」の意を表した。のち、麥を「むぎ」に、來を「くる」の意に誤用して今日に至つた。來は轉じて他所から到來する意となる。
ライ(來)とバク・マク(麥)は、上古のmlといふ複子音が、lとmに分かれたもの。
支那西北に定着した周人は、中央アジアから小麥の種が到來してから勃興したので、神の齎した結構な穀物だと信じて大切にした。
逨
落合
麥の象形。甲骨文の、橫に出た曲線が葉を表し、上部が穗に當たる。上部に穗を強調する指示記號(短橫劃など)を加へたものが多い。
來を「きたる」「もたらす」の意味に用ゐることについて、借音か借義か判斷するのは難しい。
甲骨文での用義は次のとほり。
- くる。きたる。人が來ること。《東京大學東洋文化研究所藏甲骨文字・圖版篇》353
貞、生十三月、婦好不其來。
- 歸つて來る。來歸とも言ふ。《英藏》1948
癸巳卜祝貞、竝來歸、惟有示。
- 齎す。財貨や捕虜を貢納したり神に供物を捧げたりすること。また厄災が齎される場合にも使はれる。
- 《合補》24
貞、叀足來羌、用。
- 《合補》2444
丙寅卜㱿貞、我亡來齒。
- 《合補》24
- 將來の時間を指す。來春、來秋、來歲など。日附の場合には一旬以上先に對して使用される。また來者は將來の時制を表す。《合補》2221
辛卯卜㱿貞、來辛丑、王入于商。
- 地名。《合補》6830
丙子𢅜卜、亡巡。在來。
- 來㛸
- 外敵の襲來。單に㛸ともいふ。《合補》4923
王占曰、有祟、其有來㛸。
- 往來
- 往復の意。
穗を強調する指示記號(短橫劃)を加へた字形が後代に繼承され、現用の來の橫劃は指示記號に、二人は葉の表現に由來する。
漢字多功能字庫
甲骨文は麥の象形初文。後に往來の來に假借し、久しく還さず。一説に去來の來に借用し、義符の夊(足掌の下向く形に象る)を加へて行動の義を明示する。しかし、來去の來字を常用し、刻み寫す便のため、夊を省く(參・洪家義)。麥字は本來、來往の來の義だが、却つて麥の義に用ゐる。
先に字形について來字の變遷を述べる。甲骨文は麥に象り、麥の本字で、一般に小麥を指す。字形の眞ん中にあるのは上に眞つ直ぐ伸びる麥の穗で、兩邊は下に垂れる葉、葉の下は莖や根である。字の上端にはあるいは斜劃をあるいは橫劃を加へる。麥の穗は眞つ直ぐ上に伸びるが、これは麥の莖が堅く強く、中空に竹に似た節を有するため(參・羅振玉、張哲)。
甲骨文の上端に斜劃や橫劃を加へるものが少なくない。最初は橫劃や斜劃はなかつたとする學者があり、後に斜劃や橫劃を加へて初義(麥)と假借義(往來の來)を辧別したといふ。しかし、實際の甲骨文の文例にこの區分の應用に明快に一致するものは見えない(參・季旭昇)。言ひ換へると、橫劃あるいは斜劃を加へない字に、麥を表す來があり、到來を表す來もある。あるいは橫劃は深い意味のない贅筆、(參・裘錫圭)、あるいは飾筆(參『古文字譜系疏證』)であらう。ほかに橫劃は麥の穗を代表するとする學者もある(如・李裕)。
金文は甲骨文の字形を承け、あるものは麥の株全體の象形で、あるものは字形の上端に一橫劃を加へるが、(多くは)天邊ではない。第二種の字形が比較的多く見える。
以下、來の用義について簡單に説明する。
甲骨文の用法に五つある。
一。卜辭中に本義に用ゐる例が僅かに見える。《合集》33260乙亥卜、受來禾。
の中の「受來禾」の來は讀んで麥となすべし。その意は、卜ひて問ふ、麥を受けるか、禾を受けるか、で、どの作物の收穫が良いか卜問してゐる(參・溫少峰、袁庭棟)。
二。假借義の例が卜辭に多く見える。某處から某處に至るとき、あるときは來去の來を表し、あるときは來往の往を表すのに用ゐる。返、還の意に用ゐ、「往來亡災」の例が常に見える。按ずるに亡は無の意で、意は「出入平安」に近い。《合集》1027正缶不其來[見]王
。《合集》12872來雨自西
。ほかに甲骨文に「王來正(征)人方」の語が常に見え、王が人(方國名)の征伐に往くことを表す。ここでは來を往來の往の意に用ゐる。
三。來貢の意に用ゐる。《合集》9177正奚來白馬
。また「來馬」「來牛」の類(參・李孝定、姚孝遂)。
四。將至、將來の義に用ゐる。卜辭中の「來歲」の語は明年、來年の意。卜辭は一旬内の干支を今と稱し、次の一旬の干支を翌と稱し、更に一旬先の干支を來と稱する(參・姚孝遂)。卜辭では翌は比較的近い將來を表し、來は比較的遠い將來を表すといふ説については、吳其昌を參照せよ。
五。地名に用ゐる。《合集》20907己未卜、今日不雨、才(在)來。
來は萊のことで、春秋期に齊靈公に滅ぼされた。今の山東省黃縣萊子城。『左傳・襄公六年』齊侯滅萊。
金文での用義は主に三つ(參《金文形義通解》)。
- 到來の來に用ゐる。史牆盤
徽史刺(烈)祖廼來見武王
。 - 名字に用ゐる。鼄來隹鬲
鼄(邾)來隹乍(作)貞(鼎)
。 - 來年の來に用ゐる。曶鼎
東宮廼曰、賞(償)曶禾十秭、遺十秭、為廿秭、[若]來歲弗賞(償)、則付卌(四十)秭。
來歲は來年、明年のこと。
以上の甲骨文や金文の用例を見るに、來は假借して彼から此に至り、遠きから近きに到り、あるいは某處から某處に至ることを表す。『爾雅・釋詁上』來、至也。
『玉篇・來部』來、歸也。
ほかに、甲骨文や金文では、來を借りて將來や將至の義を表すことがある。これは前述の遠くから近くに至るの義を應用して日時の遠近を述べたり評價したりする方法である。『荀子・解蔽』不慕往、不閔來。
ほかに、楚簡に來字の異體の𰙬があり、上は來に、下は止に從ふ(參・劉釗)。止は義符。郭店楚簡・語叢四・21其民者、若四時一遣一𰙬、而民弗害也
。この中の𰙬は明らかに來去の來に用ゐる。
『説文解字』の解に天所來也
とあり、これについて何が何だか分からないとする人があるが、李裕は一つの參考になる説明を提示した。幾つかの人類の文化歷史及び考古學の研究により、許多の神話や傳説は、往々にして眞實の歷史と密接に關聯する。支那では古く麥を「天所來也」とする説があり、麥は支那の原産ではない(中東の新月沃土(肥沃な三日月地帶)の原産で、支那の小麥は西域から傳入した)ことを反映してゐる。小麥の來を行來の來に用ゐるのは、麥種を外来より得るによる(參・張舜徽)。この説明は許慎のいふところの「天所來也」を合理的に補正しうる。
屬性
- 來
- U+4F86
- JIS: 1-48-52
- 人名用漢字
- 倈
- U+5008
- 徠
- U+5FA0
- JIS: 1-55-50
- 人名用漢字
- 𧼛
- U+27F1B
- 逨
- U+9028
- JIS X 0212: 65-49
- 来
- U+6765
- JIS: 1-45-72
- 當用漢字・常用漢字
- 俫
- U+4FEB
- 徕
- U+5F95
關聯字
來に從ふ字を漢字私註部別一覽・來部に蒐める。