雩 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
夏祭、樂於赤帝、以祈甘雨也。『公羊傳〔桓五年〕』曰「大雩者何。旱祭也。」『〔禮記〕月令・仲夏之月』「大雩帝、用盛樂。乃命百縣、雩祀百辟卿士有益於民者。以祈穀實。」《注》曰、雩、吁嗟求雨之祭也。雩帝、謂爲壇南郊之旁。雩五精之帝。配以先帝也。自鞀鞞至柷敔皆作曰盛樂。凡他雩用歌舞而已。『春秋傳〔桓五年〕』曰「龍見而雩」。雩之正當以四月。按鄭言五精之帝。高誘注時則訓曰、帝、上帝也。許獨云、赤帝者、以其爲夏祭而言也。以祈甘雨、故字从雨。以于𧪰而求、故从亏。服䖍曰、雩、遠也。亦於从于得義也。
从雨亏聲。羽俱切。五部。
雩或从羽。或字如此作。
雩、舞羽也。說从羽之意。『周禮〔春官〕樂師』「有羽舞、有皇舞。」鄭司農云、羽舞者、析羽。皇舞者、以羽覆冒頭上衣飾翡翠之羽。鼓師云、敎皇舞。帥而舞旱暵之事。按皇舞亦羽舞也。故字或作䍿。而雩或作𦏴〔註1〕。
- 註1
- 𦏴は嚴密には⿱羽亐に作る。
康煕字典
- 部・劃數
- 雨部三劃
『唐韻』羽俱切『集韻』『韻會』雲俱切、𠀤音于。『說文』夏祭、樂於赤帝、以祈甘雨也。从雨于聲。『玉篇』請雨祭也。『爾雅・釋訓』舞號雩也。《註》雩之祭、舞者吁嗟而求雨。『禮・月令』仲夏大雩。《註》。雩、吁嗟求雨之祭也。『左傳・桓五年』龍見而雩。《註》遠爲百穀祈膏雨也。《疏》雩之言遠也。遠者豫爲秋收、言意深遠也。
又雩婁。地名。『左傳・襄二十六年』楚子秦人侵吳及雩婁。『釋文』雩、音于。又『前漢・地理志』豫章郡雩都、琅邪郡雩叚。
又『廣韻』况于切『集韻』匈于切、𠀤音訏。『廣韻』雩婁、古縣名。在廬江。『左傳・雩婁釋文』徐邈讀。
又『集韻』休居切、音虛。『左傳・雩婁釋文』韋昭讀。
又『集韻』汪胡切、音烏。『左傳・雩婁釋文』或讀一呼反。
又『集韻』『類篇』𠀤王遇切、音芋。『爾雅・釋天』螮蝀謂之雩。螮蝀、虹也。《註》俗名美人虹。江東呼雩。『釋文』雩、于句切。
『說文』或作𦏻。
- 部・劃數
- 雨部三劃
『正韻』同雩。
- 部・劃數
- 羽部三劃
『廣韻』羽俱切『集韻』雲俱切、𠀤音於。『說文』雩、羽舞也。或从羽作𦏻。
又『集韻』王遇切、音雩。義同。
- 部・劃數
- 羽部三劃
『正字通』音義與𦏻同。詳後𦏻字註。
音訓義
- 音
- ウ(漢)(呉)⦅一⦆
- ク(漢)(呉)⦅二⦆
- キョ(推)⦅三⦆
- ヲ(推)⦅四⦆
- ウ(漢)(呉)⦅五⦆
- 訓
- あまごひ⦅一⦆
- にじ⦅五⦆
- 官話
- yú⦅一⦆
- yù⦅五⦆
- 粤語
- jyu4⦅一⦆
- jyu6⦅五⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・上平聲・虞・于』羽俱切
- 『集韻・平聲二・虞第十・亐』
- 『五音集韻・上平聲卷第二・虞第八・喻・三于』羽俱切
- 聲母
- 喻(喉音・次濁)
- 官話
- yú
- 粤語
- jyu4
- 日本語音
- あまごひ
- 義
- 雨を請ふ祭。
- 獸の名。『新唐書・南蠻傳下・室利佛逝』
又有獸類野豕、角如山羊、名曰雩、肉味美、以饋膳。
(古今文字集成引『漢語大詞典』に據る。次項も同樣。) - 春秋宋の地名。今の河南省睢縣境に在つた。『穀梁傳・僖公二十一年』
秋、宋公、 楚子、 東侯、 蔡侯、 鄭伯、 許男、 曹伯會于雩。
按ずるに『春秋』『左傳』は盂に作り、『公羊傳』は霍に作る。
⦅二⦆
- 反切
- 『廣韻・上平聲・虞・訏』況于切
- 『集韻・平聲二・虞第十・訏』匈于切
- 『五音集韻・上平聲卷第二・虞第八・曉・三訏』匈于切
- 聲母
- 曉(喉音・全清)
- 官話
- 藤堂はxūを示し、音訏と矛盾しないが、參照した漢語資料には見えず。
- 日本語音
- ク(漢)(呉)
- 義
- 雩婁は地名。『廣韻』に
古縣名、在廬江。
とある。
⦅三⦆
- 反切
- 『集韻・平聲一・魚第九・虛』休居切
- 『五音集韻・上平聲卷第二・魚第七・曉・三虛』朽居切
- 聲母
- 曉(喉音・全清)
- 日本語音
- キョ(推)
- 義
- 雩婁は地名。
⦅四⦆
- 反切
- 『集韻・平聲二・模第十一・烏』汪胡切
- 『五音集韻・上平聲卷第二・模第九・影・一烏』哀都切
- 聲母
- 影(喉音・全清)
- 日本語音
- ヲ(推)
- 義
- 雩婁は地名。『集韻』に
地名。『春秋傳〔襄二十六年〕』秦人侵呉及雩婁、陸徳明讀。
とある。
⦅五⦆
- 反切
- 『集韻・去聲上・遇第十・芌』王遇切
- 『五音集韻・去聲卷第十・遇第八・喻・三芋』王遇切
- 聲母
- 喻(喉音・次濁)
- 官話
- yù
- 粤語
- jyu6
- 訓
- にじ
- 義
- 『集韻』は、
求雨祭。一曰呉人謂虹曰雩。
とし、雨乞ひの祭の義をも擧げる。
解字
白川
形聲。聲符は于。
『説文解字』に夏の祭なり。赤帝に樂して、以て甘雨を祈るなり。
とあり、雨乞ひの祭をいふ。重文として𦏻を錄するのは、羽舞の意であらう。
卜文に⿱雨無、䨒の字形がある。無は舞の初文。
【補註1】⿱雨無を、落合は舞の初文の異體字とする。
【補註2】『説文解字』に水音也。
とする䨒字があるが、白川のいふ卜文とは別字。
【補註3】落合は雨と羽に從ふ字を雪の甲骨文とする。漢字多功能字庫は同形の字を同じく雪とするが、雨に從ひ彗聲と解する。
藤堂
落合
形聲。甲骨文は雨あるいはその略體を意符、于を聲符とする。後代には雨乞ひの意で用ゐられてをり、甲骨文にも祭祀名としての用例がある。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 祭祀名。雨乞ひの儀禮か。《合集》17919
貞、雩夒、亡其望。
- 地名またはその長。牛骨の採集地、採集者として記されてゐる。《合補》184
甲申、迄自雩十屯。
漢字多功能字庫
雩はあるいは𩁹と隸定し、甲骨文、金文は雨と于に從ひ、雨、于いづれも聲符。文獻の記載では、雩の本義は雨を求める祭祀で、故に雨に從ふ。于の初文は樂器の形に象り、樂舞を代表し、雩は樂舞を以て雨を求める意。『禮記・月令』大雩帝、用盛樂
鄭玄注雩、吁嗟求雨之祭也。
甲骨文では人名に用ゐる。
金文での用義は次のとほり。
- 介詞に用ゐる。引進行為之時間。典籍では越につくり、『説文解字』では粵につくる。靜簋
𩁹八月初吉庚寅
。 - 句首の語氣詞に用ゐ、典籍では粵、越、曰につくる。史牆盤
𩁹武王既𢦏殷、𢼸(微)史剌(烈)且(祖)迺來見武王。
- 連詞に用ゐ、與、及、和を表し、典籍では越、與につくる。大盂鼎
我聞殷述(墜)令(命)、隹(唯)殷邊侯田(甸)𩁹(與)殷正百辟、率肆于酉(酒)。
は、殷の外服の諸侯と朝中の官員はともに酒に溺れる、の意。 - 人名、地名、國名に用ゐる。また讀んで越につくる。中山王鼎
昔者、吳人并𩁹(越)
は、その昔、呉が越を倂吞したことをいふ。
王國維は、粵、雩は古くもと一字で、雩が變形して粵となつたのは、霸の古文を𣍸につくるが如し、といふ。
甲骨文に雨と無(舞の初文)に從ふ字があり、徐中舒、劉興隆は樂舞を以て雨を求める專用の字であるとする。金文に羽と于に從ふ字があり(曾侯乙編鐘)、『説文解字』の或體と同形で、音階の名に用ゐ、後世には羽につくる。『周禮・春官・大師』皆文之以五聲、宮、商、角、徵、羽。
屬性
- 雩
- U+96E9
- JIS: 1-93-68
- JIS X 0212: 70-90
- 𩁹
- U+29079
- 𦏻
- U+263FB
- 𦏴
- U+263F4