無 - 漢字私註
説文解字
林部𣞤字條
説文解字注
豐也。『〔爾雅〕釋詁』曰、蕪茂豐也。『釋文』云、蕪、古本作𣞤。
從林𡘲。會意。𡘲、(逗、此字今補、)或說規模字。或說𡘲是規模之模字也。或之者、疑之也。故《木部》模下不錄。從大𠦜。謂𡘲從大𠦜會意也。𠦜、逗、此字今補、數之積也。𠦜篆不見於本書。故釋其義。《耒部》𦓯下曰𠦜㕚。用𠦜字。漢石經『論語』年卌見惡焉。是卌爲四十幷。猶廿爲二十幷、卅爲三十幷也。其音則『廣韵』先立切。四十之合聲。猶卄讀如入、卅讀如趿也。『廣韵』引『說文』云數名、卽此。巳上十四字說從𡘲之意。林者、木之多也。說從林之意。𣞤與庶同意。「𣞤」各本作「𠦜」。誤。𣞤從林大𠦜。𢉙從广炗。其製字之意略同。皆貌其衆盛也。文甫切。五部。按此蕃𣞤字也。𣜩變爲無。遂借爲有𣠮字。而蕃無乃借廡、或借蕪爲之矣。
- 註1
- 『洪範』は『尚書』の篇名であるが、『商書』ではなく『周書』に屬す。
亡部𣠮字條
説文解字注
亡也。凡所失者、所未有者皆如逃亡然也。此有無字之正體。而俗作無。無乃𣞤之隷變。𣞤之訓豐也。與無義正相反。然則隷變之時。昧於亡爲其義。𣞤爲其聲。有聲無義。殊爲乖繆。古有叚𣞤爲𣠮者。要不得云本無二字。漢隷多作𣠮可證也。或叚亡爲無者、其義同。其音則雙聲也。
从亾𣞤聲。按不用莫聲而用𣞤聲者、形聲中有會意。凡物必自多而少而無。『老子』所謂多藏必厚亡也。武夫切。五部。古音武夫與莫胡二切不別。故無、模同音。其轉語則『水經注』云燕人謂無爲毛、楊子以曼爲無、今人謂無有爲𣳚有皆是也。
奇字無也。謂古文奇字如此作也。今六經惟易用此字。
通於元者。元俗刻作无。今依宋本正。『〔禮記〕禮運』曰、是謂合莫。《注》引『孝經』說曰、上通元莫。《正義》云、上通元莫者、孝經緯文。言人之精靈所感。上通元氣寂寞。引之者證莫爲虛無也。正本元字作无。謂虛無寂寞。義或然也。按此注疏今本譌誤不可讀。而北宋本可據正。疏正本字當是定本之誤。謂鄭引上通元莫、顏師古定本作无莫也。依許云通於元者、虛无道也。則孝經緯必作元莫矣。葢其義謂上通元始。故其字形亦用元篆。上毌於一。
虛无道也。謂「虛无之道」上通元氣寂寞也。『玉篇』曰、无、虛无也。奇字之无與篆文之𣠮義乃微別。許說其義。非僅說其形也。
王育說「天屈西北爲无」。此稱王育說又无之別一義也。亦說其義。非說其形。屈猶傾也。「天傾西北」「地不滿東南」見『列子〔湯問〕』及『〔黃帝內經〕素問』。天傾西北者、謂天體不能正圜也。
康煕字典
- 部・劃數
- 火部八劃
- 古文
- 𣟒
- 𣚨
- 𠘩
『唐韻』武扶切『廣韻』武夫切『集韻』『韻會』『正韻』微夫切、𠀤音巫。『說文』亡也。『玉篇』不有也。『書・舜典』剛而無虐、𥳑而無傲。又『益稷』懋遷有無化居。
又『爾雅・釋詁』虛無之閒也。《註》虛無皆有閒隙。『老子・道德經』萬物生于有、有生于無。『周子・太極圖說』無極而太極。
又『禮・三年問』無易之道也。《註》無、猶不也。
又縣名。『前漢・地理志』越巂郡會無縣。
又姓。『正字通』漢無且明、無能。
又『廣韻』漢複姓無庸無鉤、俱出自楚。
又文無、藥名。『古今注』相別贈之以文無。文無、一名當歸。
又『說文奇字』作无。『玉篇』虛无也。周易無字俱作无。
又『集韻』或作亡。『詩・衞風』何有何亡。
又通作毋。書、無逸。『史記・魯世家』作毋逸。
又通作毛。『後漢・馮衍傳』飢者毛食。《註》衍集、毛作無。今俗語猶然。或古亦通乎。『佩觿集』河朔謂無曰毛。『通雅』江楚廣東呼無曰毛。
又『集韻』或作武。○按【禮器】詔侑武方。【註】武當爲無、聲之誤也。【鄭註】明言其誤。集韻合無、武爲一。非。
『集韻』無或作橆。韻會、𣞣本古文蕃𣞣字。篆借爲有無字。李斯變隷變林爲四點。〇按【說文】𣠮、从亡無聲、在亡部。至蕃橆之橆、在林部。音義各別、不云相通。且有無與蕃橆義尤相反、不應借用。玉篇集韻韻會俱非。韻會蕃橆作蕃𣞣、尤非。又按讀書通云、通作勿莫末沒蔑微不曼瞀等字、或止義通、或止音近、實非一字也。讀書通誤。
又梵言、南無呼那謨。那如拏之上聲、謨音如摩、猶云歸依也。
- 部・劃數
- 木部・十二劃
『玉篇』古文無字。註詳火部八畫。
- 部・劃數
- 木部十六劃
- 部・劃數
- 几部二劃
『字彙補』古文無字。註見火部八畫。
- 部・劃數
- 木部十二劃
『唐韻』文甫切『集韻』『韻會』罔甫切『正韻』罔古切、𠀤音武。『說文』豐也。从𡘲从林。大、𠦜、數之積也。林者、木之多也。𠦜與庶同意。『書・洪範』庶草蕃橆。『唐韻』隷省作無、今借爲有無字。『字彙』橆、古文蕃橆字。有無之無、則用无字。秦以橆作无、李斯又改作無、後因之。
『正韻』繁橆、『今文尚書』作廡。橆、廡義同。
- 部・劃數
- 部首
- 古文
- 𠑶
『唐韻』武夫切、音巫。『說文』𣞣、亡也。奇字、无通𣞣。王育說、天屈西北爲无。『易・乾卦』无咎。『釋文』无音無。易內皆作此字。『藝苑雄黃』无亦作亡。古皆用亡无、秦時始以蕃橆之橆爲有無之無。詩、書、春秋、禮記、論語本用无字、變篆者變爲無、惟易、周禮盡用无。然論語亡而爲有、我獨亡、諸無字、蓋變隸時誤讀爲存亡之亡、故不改也。
又『廣韻』莫胡切、音模。南无、出『釋典』。
異體字
或體。
或體。
或體。
音訓・用義
- 音
- ム(呉) ブ(漢) 〈『廣韻・上平聲・虞・無』武夫切〉[wú]{mou4}
- 訓
- ない。ず。あらず。なかれ。むなしい(虛無)。
南無は梵語namo(namas, namaḥ)の音寫。現代官話ではnāmó、粤語ではnaa1mou4あるいはnaa1mo4と讀む。
解字
無は、舞と同源の字で、人が飾りを著けて舞ふ姿に象る。のち假借して有無の無を表す。
白川
無
もと象形。人の舞ふ形で、舞の初文。卜文に無を舞雩(雨乞ひの祭)の字に用ゐ、ときに雨に從ふ形につくる。
有無の無の意に用ゐるのは假借。のち專らその假借義に用ゐる。
『説文解字』に豐かなり
と訓じ、字を林に從ふ字とするが、『説文解字』が林とするその部分は、舞袖の飾りとして加へたもので、金文に見えるその字形を、誤り傳へたもの。また「豐かなり」の訓も、『爾雅・釋詁』蕪、豐也。
(蕪は豐かなり)と見える蕪字の訓。
『説文解字』は字を林に從ふものとして林部に屬し、そこから繁蕪の意を求めるが、林は袖の飾り、字は人が兩袖を擴げて舞ふ形。のち兩足を開く形である舛を加へて、舞となる。
いま舞には舞を用ゐ、無は有無の無に專用して區別する。
无
象形。亡の異體字。亡は屍骨の象。
『説文解字』は《亡部》に無に從ふ𣠮字を擧げ、その重文として无を擧げるが、无はもと屈屍の象で、亡と同字。金文の《越王鐘》に萬葉まで亡疆ならんことを
の亡を无の形に作る。『易・无妄』など、『易』に多くこの字を用ゐる。『莊子』にも用事例が多く、この字は楚越など南方で行はれたものであらう。
藤堂
無
甲骨文は、人が兩手に飾りを持つて舞ふさまで、後の舞の原字。無は、亡と音符舞の略體の形聲。古典では无字で無を表すことが多い。
无
一と大(人)の會意で、人の頭の上に一印をつけ、頭を見えなくすることを示す。無字の古文異體字。
元字の變形といふ説があるが、それは採らない。
旡、兂は別字。
落合
無と舞は同源字。甲骨文は、舞踊をする人を表現してをり、人の正面形である大の腕の部分に飾りが垂れ下がつてゐる樣子。後代に繼承された形に、飾りを多くした形(補註: 以下の説明では、なるべく元の字形を示すべく、篆文の形を殘す𣞤を當てる)、踊る人の足を強調した形(補註: 同じく𦨅を當てる)の二系統がある。
甲骨文では祭祀名に用ゐる。舞踊の儀禮で、主に雨乞ひで行はれ、雨を加へた字形も作られてゐる。《合集》14207貞、舞嶽、有雨。
西周代には𣞤は假借の用法で「無い」の意味で主に使はれるやうになつた。無はその略體に當たる。
「無い」の意味を表すため、秦代には意符として亡を加へた異體があり、𣠮に當たる。
秦代には、極端な略體である无も作られてゐる。
原義の舞踊については、𦨅の系統が使はれてをり、舞字に至る。字の下部の舛は強調した足の形に由來する。
漢字多功能字庫
甲骨文は人が手に牛尾の類の飾りを持ち輕やかに舞ふさまに象る。文獻には古人は手に牛尾を執つて舞ひ踊つたと記載されてゐる。『呂氏春秋・仲夏紀・古樂』昔葛天氏之樂、三人摻牛尾投足以歌八闋。
後に無を有無の無に借りるやうになつたので、金文は牛尾の飾りを變形し某とした。金文で某はまた否定詞に用ゐるので、某は無の聲符であり、意符でもある。
甲骨文には有無の義に假借する例が見えない。金文の時代に有無の無に假借することが始まり、ゆゑに無の下に兩足の形(舛)を加へて舞を表した(季旭昇)。『説文解字』の小篆では無の下に亡を加へて無を表すが、この種の字形はいまのところ漢碑にのみ見える。
甲骨文では祭名に用ゐる。舞ひ踊つて雨を求める祭である。
- 《合集》30030
無(舞)、大雨
。 - 《合集》34295
無(舞)河眔岳。
は、河神、山神に對し、舞ひ踊つて雨を求むることをいふ。
金文では、あらざることを表す。
- 善夫克鼎
萬年無彊(疆)
。 - 王孫遺者鐘
萬年無諆(期)
は、萬年、終はり、期限がないの意で、「萬壽無疆」と意は近い。
また甲骨文、金文では、多く亡を假借して無となす。
戰國竹簡での用義は次のとほり。
- 舞ひ踊ることを表す。《睡虎地秦簡・日書甲種》簡76背
歌無(舞)
。 - 毋を借りて無となす。《睡虎地秦簡・日書甲種》簡26背3
則毋(無)央(殃)矣
は、禍殃がないことを表す。
屬性
- 無
- U+7121
- JIS: 1-44-21
- 當用漢字・常用漢字
- 𣚨
- U+236A8
- 𣟒
- U+237D2
- 𠘩
- U+20629
- 橆
- U+6A46
- JIS: 2-15-51
- 无
- U+65E0
- JIS: 1-58-59
- 𣞤
- U+237A4
- 𣠮
- U+2382E
- 𣞣
- U+237A3
関聯字
無、舞に從ふ字を漢字私註部別一覽・大部・無枝に蒐める。