陰 - 漢字私註
説文解字
雲部𩃬字條
- 𩃬あるいは霒に作る。
雲覆日也。从雲今聲。
- 十一・雲部
古文或省。
亦古文𩃬。
説文解字注
雲覆日也。今人陰陽字小篆作𩃬昜。𩃬者、雲覆日。昜者、旗開見日。引申爲㒳儀字之用。今人作陰陽、乃其中之一耑而已。𩃬字今僅見『大戴禮記・文王官人篇』、『素問・五帝政大論』。从雲今聲。於今切。七部。
古文𩃬省。古文雲本無雨耳。非省也。陰字从此。
亦古文𩃬。此冣初古文也。侌則以小篆法整𠫼之。云亦同。
𨸏部陰字條
闇也。水之南、山之北也。从𨸏侌聲。
- 十四・𨸏部
説文解字注
闇也。闇者、閉門也。閉門則爲幽暗。故以爲高明之反。水之南、山之北也。从𨸏。『榖梁傳〔僖二十八年〕』曰、水北爲陽。山南爲陽。《注》云、日之所照曰陽。然則水之南、山之北爲陰可知矣。『水經注〔洧水〕』引伏虔曰、水南曰陰。『公羊・桓十六年・傳注』曰、山北曰陰。按山北爲陰、故陰字从𨸏。自漢以後通用此爲霒字。霒古文作侌。夫造化侌昜之气本不可象。故霒與陰、昜與陽皆叚雲日山𨸏以見其意而已。侌聲。於今切。七部。
康煕字典
- 部・劃數
- 阜部八劃
- 古文
- 霒
- 侌
- 𤽎
- 𨽙
- 𠊺
- 瘖
『唐韻』『集韻』『韻會』於今切『正韻』於禽切、𠀤音音。『說文』闇也。『釋名』陰、蔭也、氣在內奧蔭也。『玉篇』幽無形、深難測謂之陰。『易・坤卦』陰雖有美含之、以從王事、弗敢成也。地道也、妻道也、臣道也。『禮・月令』百官靜事毋𠛬、以定晏陰之所成。又『周禮・天官・內宰』以陰禮敎六宮。《註》陰禮、婦人之禮。又『內小臣』掌王之陰事陰令。又『地官・大司徒』以陰禮敎親、則民不怨。《註》陰禮、謂男女之禮。
又陰晴。『詩・邶風』曀曀其陰。『又』以陰以雨。
又『說文』山之北也。『書・禹貢』南至于華陰。
又『說文』水之南也。『前漢・地理志』河東郡汾陰縣。《註》介山在南。
又『玉篇』影也。『晉書・陶侃傳』大禹惜寸陰、吾輩當惜分陰。
又『正字通』𥓓背曰陰。楊修解曹娥𥓓陰八字。
又『前漢・郊祀歌』靈之至、慶陰陰。《註》師古曰、言垂陰覆徧於下。
又『玉篇』默也。『戰國策』齊秦之交陰合。
又『詩・秦風』陰靷鋈續。《傳》陰、揜軓也。『釋名』陰、蔭也。橫側車前、以陰笒也。
又地名。『左傳・襄九年』濟于陰阪侵鄭。又『昭十九年』楚工尹赤遷陰于下陰。又『二十二年』帥師軍于陰。『前漢・地理志』南陽郡陰縣。《註》卽左傳下陰也。又漢有兩陰山縣。『地理志』西河郡陰山、又桂陽郡陰山。
又山名。『史記・秦始皇紀』自楡中𠀤河以東、屬之陰山。《註》徐廣曰、在五原之北。
又姓。『廣韻』管修自齊適楚、爲陰大夫、其後氏焉。○按【史記・褚少孫龜筴傳】陰兢活之、與之俱亡。索隱曰、陰、姓。兢、名也。是商時卽有陰姓矣。又【左傳・僖十五年】晉陰飴甥會秦伯、盟于王城。【註】飴甥、食邑于陰。戰國策有陰𥳑、陰姬、疑卽出於此。又【昭二十四年】陰不佞、以溫人南侵。疑陰亦姓也。
又『正字通』男子勢曰陰。『史記・呂不韋傳』私求大陰人嫪毐爲舍人。
又『逸周書』墠上張赤帟陰羽。《註》陰、鶴也。
『玉篇』今作隂。『五音集韻』俗作𨹉。『字彙』俗作阥。『字彙補』亦作𨼖阴𣱙。
又『集韻』烏含切、音菴。本作闇、治喪廬也。『論語』高宗諒陰、三年不言。
又『集韻』『韻會』𠀤於禁切、音蔭。『集韻』瘞藏也。『禮・祭義』骨肉斃于下、陰爲野土。《註》陰、讀爲依廕之廕。
又『詩・大雅』旣之陰女、反予來赫。《箋》覆陰也。『韻會小補』蔭、通作陰。
又『正字通』音飮。古醫方有淡陰之疾、俗作淡飮。
又叶於容切、音雍。『詩・豳風』二之日鑿冰沖沖、三之日納于凌陰。《箋》凌陰、冰室。『揚子・太玄經』日飛懸陰、萬物融融。
又叶於虔切、音煙。『黃庭經』上有䰟靈下關元、左爲少陽右太陰。
又『韻會小補』本作殷。淺黑色也。亦作陰。『詩・小雅・我馬維駰傳』陰白雜毛曰駰。陰、淺黑色也。
- 部・劃數
- 阜部四劃
簡体字として用ゐる。
- 部・劃數
- 阜部四劃
『字彙』俗隂字。
- 部・劃數
- 阜部九劃
『玉篇』同陰。
- 部・劃數
- 阜部十二劃
『篇海』同陰。
- 部・劃數
- 阜部十六劃
『字彙補』古文陰字。見『乾坤鑿度』。互詳前𨼘字註。
- 部・劃數
- 人部・六劃
『玉篇』古文陰字。註詳阜部八畫。
- 部・劃數
- 人部九劃
『字彙補』古文陰字。註詳阜部八畫。
- 部・劃數
- 气部四劃
- 部・劃數
- 白部四劃
『玉篇』古文陰字。註詳阜部八畫。
- 部・劃數
- 雨部四劃
『集韻』與𩃬同。
- 部・劃數
- 雨部八劃
『玉篇』古文陰字。『說文』雲覆日也。从雲今聲。註詳阜部八畫。
- 部・劃數
- 雨部八劃
『集韻』同霒。
- 部・劃數
- 雨部九劃
『廣韻』於金切、音音。雲覆日。『古三墳』雲日蔽霠。『宋玉・九辯』霠曀而莫達。
又姓。『廣韻』出纂文。『急就篇』洗濯霠冷參辛臾。
○按卽𩃛字之譌。
異體字
霒の或體。小篆により則した形。
『説文解字』の𩃬の重文二。古文。
音訓
- 音
- (1) イム(漢) オム(呉) 〈『廣韻・下平聲・侵・音』於金切〉[yīn]{jam1}
- (2) イム(漢) オム(呉) 〈『集韻』於禁切、音蔭、去聲沁韻〉[yìn]{jam3}
- (3) アム(漢) オム(呉) 〈『集韻』烏含切、音菴、平聲覃韻〉[ān]{am1}
- 訓
- (1) かげ。くもる。ひそか。くらい。しめる。
- (2) おほふ。かくす。
諒陰は音(3)に讀み、諒闇に同じ。
解字
白川
陰は形聲字。聲符は侌。
『説文解字』に、地勢による陰晴の義とする。また《雲部》に霒字を錄し雲、日を覆ふなり。
とし、侌の古文二形を錄する。侌は陰の古文。
侌は云(雲氣)を今(蓋栓の形)で蓋する意で、氣を閉ぢ込める意。陰陽は𨸏(神梯)の前に氣を閉ざした呪器、または昜(玉の光)を置く呪儀。神氣を閉ざし、または神氣を發揚することをいふ。
藤堂
陰
原字は侌で、云(雲)と音符今(含。閉ぢ籠もる)の會意兼形聲。濕氣が籠もつて鬱陶しいことを表す。
陰は阜と音符侌の會意兼形聲。陽の反對、日の當たらない陰地のこと。中に閉ぢ込めて塞ぐの意を含む。
霒
落合
甲骨文は、屋根の形の今と、鳥の形の隹の會意。甲骨文では日が陰る意で用ゐられてをり、急に暗くなつた際に鳥が屋根の下に入るさまを表した字であらう。今は上古音で陰と同部であり、今亦聲と推定される。
甲骨文では、日が陰ることを表す。《合集》20988戊戌卜、其陰、印。翌日、啓、不見雲。
周代には陽(丘の陽の當たる側)の對義語としても用ゐられたため、金文で阜と聲符の酓(飲の初文)から成る形聲字となり、更に古文で酉の部分を意符の云(雲の初文)に置換した形が作られた。
現用字は、阜が意符、侌が聲符と看做されてゐるが、侌は陰の略體であり、云の部分は意符に當たる。
漢字多功能字庫
陰
阜に從ひ侌聲。本義は山の北面、水の南面を指し、いづれも陽光に背を向ける處。
阜に從ふ字は多く山と關係がある。侌は今と云に從ふ。今は聲符。云は雲の多い天氣を「陰天」と稱することと關はりがあらう。
金文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐる。
- 敬事天王鐘
江漢之陰陽
は、長江、漢水の南面と北面を表す。 - 㠱伯盨
其陰其陽，以征以行。
- 敬事天王鐘
- 地名に用ゐる。
楚簡の陰字は阜に從はず侌に作る。《郭店楚簡・太一生水》簡2是以成侌昜。
侌昜は陰陽のこと。
霒
古くは陰に作る。《段注》に山北為陰、故陰字從𨸏。自漢以後通用此為霒字。
といふ。
屬性
- 陰
- U+9670
- JIS: 1-17-2
- 當用漢字・常用漢字
- 阥
- U+9625
- JIS X 0212: 70-40
- 阴
- U+9634
- JIS: 2-91-64
- 隂
- U+9682
- JIS: 2-91-70
- JIS X 0212: 70-65
- 𨼖
- U+28F16
- 𨽙
- U+28F59
- 侌
- U+4F8C
- JIS X 0212: 17-4
- 𠊺
- U+202BA
- 𣱙
- U+23C59
- 𤽎
- U+24F4E
- 𩂇
- U+29087
- 霒
- U+9712
- 𩃛
- U+290DB
- 霠
- U+9720
- 𩃬
- U+290EC
- 𠆭
- U+201AD