智 - 漢字私註

説文解字

𥏼

識詞也。从知義切。

𪞶部
𥏾

古文𥏼。

説文解字注

𥏼

識䛐也。此與《矢部》知音義皆同。故二字多通用。

从白亏知。 鍇曰、亏亦气也。按从知會意。知亦聲。知義切。十六部。

⿲矢𦣞亏

古文智。此依《鍇本》。𦣞卽口。⿰矢𦣞卽知也。省白。

康煕字典

部・劃數
日部・八劃
古文
𥏼

『廣韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤知義切、音置。同𣉻。或作智。『說文』識詞也。从白从亏从知。○按經典相承作智。『釋名』智、知也。無所不知也。『孟子』是非之心、智之端也。『荀子・正名篇』知而有所合謂之智。○按經典或通用

又姓。『廣韻』晉有智伯。

部・劃數
矢部・十一劃

『唐韻』古文字。註詳日部八畫。『說文』識詞也。从白从亏从知。《徐曰》知者必有言、故文白知爲𥏼。白者、詞之氣也。亏亦氣也、知不窮、氣亦不窮也。

部・劃數
日部・十一劃

『正字通』古文字。○按『說文』智作𥏼、从白、在白部。从日、非。

異體字

『説文解字』の重文。古文。

音訓

チ(漢、呉) 〈『廣韻・去聲』知義切〉[zhì]{zi3}
さとい

解字

古い字形は、に從ひ(隸定形は𥎿)、あるいはを加へる(隸定形は𣉻)。矢はの譌變、あるいは聲符と置換したもの。于はの譌變。後に于を省く。

は恐らく後起の省略形で、用法により用字を區別したものであらう。

白川

字の初形はの會意。矢と干(盾)は誓約のときに用ゐる聖器。口はその誓約を收めた器。は中にその誓約があることを示す形。その誓約を明らかにし、これに從ふことを智といふ。に對して名詞的な語。

【補註】白川が『字通』に示す卜文の形は漢字多功能字庫が擧げる《合集》38289の作例と同形。白川は干に從ふとするが、の誤り。篆文以前、兩字の形は明確に異なる。

『説文解字』に知は詞なり、『玉篇』に知は識るなりとあり、智には『説文解字』に識る詞なりとするが、詞の意が明らかでない。

『墨子』に知と通用し、「智る」のやうに用ゐてゐる例が多い。

藤堂

(いふ)と印と音符の會意兼形聲。知は、の會意字で、矢のやうにずばりと當てていふこと。智は、知と同系。ずばりと言ひ當てて、さといこと。亏印は息がつかへて出るさま。

適(眞つ直ぐ)はその入聲。(ずばりと見通す)は、その語尾が鼻音となつた言葉。

落合

殷代の嗣の異體字に、に從ふ形があり(于はの譌變形)、西周代の智の字形は、その上部(于と大に從ふ)を聲符とする。上古音では嗣は邪紐之部([ziə])、智は端紐支部([tie])と推定され、發音が近い。下部は意符の。西周代以降には甘はの代替字として使はれることがあつた。從つて、智の字源は、甘を意符とし、嗣の省聲の形聲字と考へられる。從來説はいづれもを用ゐた字形から字源を解釋するが、出現時代順に合はない。

【補註】漢字多功能字庫は落合が嗣とする字形を智としてゐる。

智について、西周〜東周代には、大をに替へたものが多い。聲符への置換の可能性もあるが、矢の上古音は書紐脂部と推定されてをり、韻尾が異なるので、類似形を用ゐた俗字と思しい。後代には上部が𥎿となつた形(𣉻に作る)が繼承された。更に于を省いたものが現用の智の字形。

は東周代の略體が起源。

漢字多功能字庫

甲骨文はに從ふ。その異體は口に替へてに從ひ、大人が簡冊に記された知識を子供に傳受するの意(參沈培)。知識があつて初めて智慧があるといへるので、引伸して智慧を表す。西周金文は多く上部が大と口とに、下部がに從ふ。甲骨文や後期金文はあるいは大に替へてに從ふ。矢は大の變形。于は子の變形。矢、はいづれも聲符。

【補註】落合は上述の大と口と子に從ふ甲骨文(漢字多功能字庫は《合集》30429の作例を揭出)、大と冊と子に従ふ甲骨文(同じく《英藏》2518)をともに、嗣として擧げる。

金文では多く通假して知となし、主に五つの用法がある。

  1. 智慧のある人を表す。中山王鼎事愚女(如)智、此易言而難行也。
  2. 知識を表す。中山王鼎寡人幼踵、未甬(通)智(知)。
  3. 知道(知つてゐる、分つてゐる)を表す。
    • 中山王方壺余智(知)其忠信也。
    • 逆鐘母(毋)又(有)不聞智(知)。
  4. 主管、掌管を表す。中山王鼎使智(知)社稷之賃(任)。『國語・越語』有能助寡人謀而退吳者、吾與之共知越國之政。

小篆は𥏼に作り、隸書は省いて智に作る(徐灝)。《段注》此與矢部知音義皆同、故二字多通用。『釋名』智、知也。無所不知也。『荀子・正名』知而有所合謂之智。

屬性

U+667A
JIS: 1-35-50
人名用漢字
𥏼
U+253FC
𣉻
U+2327B
𥏾
U+253FE

關聯字

智や知に從ふ字を漢字私註部別一覽・口部・知枝に蒐める。