弗 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
矯也。「矯」各本作「撟」、今正。撟者、舉手也。引申爲高舉之用。矯者、揉箭箝也。引申爲矯拂之用。今人不能辯者久矣。弗之訓矯也。今人矯弗皆作拂、而用弗爲不。其誤葢亦久矣。『公羊傳』曰、弗者、不之深也。固是矯義。凡經傳言不者其文直。言弗者其文曲。如『春秋〔文八年〕』公孫敖如京師、不至而復。『〔文十四年〕』晉人納捷葘于邾、弗克納。弗與不之異也。『禮記〔學記〕』雖有嘉肴、弗食、不知其旨也。雖有至道、弗學、不知其善也。弗與不不可互易。
从丿乀。丿乀皆有矯意。从韋省。韋者、相背也。故取以會意。謂或左或右皆背而矯之也。分勿切。十五部。
康煕字典
- 部・劃數
- 弓部・二劃
『唐韻』『集韻』『韻會』𠀤分勿切、音紱。〔音1〕『說文』撟也。『玉篇』不正也。『韻會』違也。
又不也。『書・堯典』績用弗成。『春秋・僖二十六年』公追齊師至巂、弗及。『公羊傳・註』弗者、不之深者也。
又『韻會』不可也、不然也。『史記・孔子世家』弗乎弗乎。
又去也。『詩・大雅』以弗無子。《傳》弗、去也。去無子、求有子。《箋》弗之爲言祓也。
又滭弗、盛貌。『司馬相如・子虛賦』滭弗宓汨。
異體字
『集韻考正』は、『集韻』所載の古文はこの形であるとする。
『五音集韻』(欽定四書全庫本)所載。
音訓義
- 音
- フツ(漢) ホチ(呉)⦅一⦆
- フツ(推)⦅二⦆
- 訓
- ず⦅一⦆
- あらず⦅一⦆
- もとる⦅一⦆
- はらふ⦅一⦆
- 官話
- fú⦅一⦆
- 粤語
- fat1⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・入聲・物・弗』分勿切
- 『集韻・入聲上・勿第八・弗』分物切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・物第三・非三弗』分勿切
- 聲母
- 非(輕唇音・全清)
- 等呼
- 三
- 官話
- fú
- 粤語
- fat1
- 日本語音
- フツ(漢)
- ホチ(呉)
- 訓
- ず
- あらず
- もとる
- はらふ
- 義
- 否定詞。
- もとる。背く。違ふ。
- 祓ふ。祓と通用。
- 釋
- 『廣韻』
弗: 『說文』撟也。分勿切。二十。
- 『集韻』
弗: 分物切。『說文』撟也。古作。文四十七。
- 『康煕字典』上揭。
⦅二⦆
- 反切
- 『集韻・入聲上・勿第八・佛』符勿切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・物第三・奉三佛』符勿切
- 聲母
- 奉(輕唇音・全濁)
- 等呼
- 三
- 日本語音
- フツ(推)
- 義
- 怫に同じ。
- 釋
- 『集韻』
怫弗: 『說文』欝也。或作弗。
解字
白川
象形。縱の木二三本をつかね、繩で卷き附けた形に象る。曲直のあるものを強く束ねることをいふ。
『說文』に撟るなり
とし、韋の省文に從つて丿、乀する意であるとするが、字は韋とは關係がなく、枝を曲げて強く束ねるので、「拂戾」の意があり、拂の初文と見てよい。
『詩・大雅・生民』以弗無子
(以て子無きを弗ふ)は祓去の意。
金文の《叔夷鎛》に敢て憼戒し、乃の司事を虔卹せ弗んば不ず
休命に對揚せ不んば弗ず
のやうに用ゐる。
藤堂
紐または蔓の垂れた形と八印の會意。八印は左右に切り分ける意を含む。弗は、いや駄目だと拂ひ除けて強く否定する意。
落合
二つの縱棒と己に從ひ、物體を紐で縛り合はせた形。但し甲骨文には原義の用例はなく、すべて假借して否定の助辭として用ゐられてゐる。不と同じく受動的な内容に用ゐられ、能動的な内容には勿が用ゐられる。《合補》1805甲子卜㱿貞、勿呼伐𢀛方、弗其受有祐󠄁。
字形は古文以降に己が弓に近い形に變化していつた。
漢字多功能字庫
甲骨文は二木と絲を縛りつけた鏃に從ひ、鏃に縛りつけた絲の別の一端を二本の樹あるいは木杭に縛りつける形。本義は弋射のときに用ゐる矢(郭沫若)。弋射のときには矢に絲を縛りつけ、獲物を回收するときの便利とする。絲の別の一端は木に縛りつけて獲物が逃げるのを防止する。『周禮・司弓矢』矰矢、茀矢、用諸弋射
。甲骨文の弗は『周禮』にいふ「茀矢」を指す。
【補註】漢字多功能字庫の擧げる木の形を保持した字形を、落合は擧げず。
甲骨文の弗字にまた木旁の下部の樹枝を除き、頂端に二つの圓圈を加へた形がある。疑ふらくは圓環は樹上の果實の形に象る。弗字の字形は段々と簡略化され、鏃や樹枝の形を省いて二縦劃(丨)と絲に從ふ形に變はつた。後にまた縱劃の上に小さい斜劃を加へ、これは弋の字形に近い。弋は木杭の形に象り、弗字は弋の表す意に従ひ、縛りつける木や杭の作用は同じ。
甲骨文では貞人名に用ゐる。
甲骨文、金文では、多く不を表し、否定の副詞。中山王圓壺於(嗚)虖(呼)。先王之德、弗可復得。
屬性
- 弗
- U+5F17
- JIS: 1-42-6
關聯字
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