疒 - 漢字私註
説文解字
倚也。人有疾病、象倚箸之形。凡疒之屬皆从疒。
- 七・疒部
説文解字注
倚也。倚與𤕫音相近。人有疾痛也。也字『玉篇』有。象倚箸之形。横者直者相距。故曰象倚箸之形。或謂卽牀狀牆戕之左旁。不知其音迥不相同也。女戹切。十六部。凡𤕫之屬皆从𤕫。
康煕字典
- 部・劃數
- 部首
『唐韻』女戹切『集韻』尼厄切、𠀤音聑。疾也。『說文』倚也。人有疾病、象倚著之形。『集韻』籀作疔。
又『廣韻』士莊切『集韻』仕莊切、𠀤音牀。義同。
音訓
- 音
- ダク(漢) 〈『廣韻・入聲・麥・疒』尼戹切〉[nè]{nik6}
- 〈『廣韻・下平聲・陽・牀』士莊切〉[chuáng]{cong4}
- 訓
- やまひ
解字
白川
象形。牀上に人が臥してゐる形に象る。
『説文解字』に倚るなり。人の疾病有るとき、倚箸するの形に象る。
とする。
卜文の字形は、人が牀上にあつて藻搔き苦しむ形で、ときに小點を加へるものがあるのは、發汗を示すものであらう。牀に倚箸(補註: 寄り掛かる)する形とはし難い。
藤堂
人と爿(寢臺)の會意。人が牀(寢臺)の上に寢てゐるさまを示す。病氣を表す意符として用ゐる。
落合
疾の甲骨文に二系統あり、その一方が疒に當たる。人と爿に從ひ、人が病牀にある形。汗(血液かも知れない)を表す小點を加へた字形が多い。そのほか人を身に替へた形や爿を省略した形(補註: 人と小點に從ふ形)なども見られる。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、人と爿に從ひ、あるいは數點を加へる。爿は牀の象形初文。數點は汗に象る。全字で、人が病氣になり、牀の上に橫になり、汗をかくさまに象る。疒は疾の初文で、本義は疾病。
ほかに腹の膨れた人の形に從ふ字形があり、疑ふらくは腹部の疾を患ふ人を表す。要約すると字全體の構形はまさに人の牀に倚るさまに象り、『説文解字』の釋義と相合ふ。
人と爿に從ふ形は後に筆劃化された。人の身體と爿は縱劃の合一し、牀の形の殘りと、人の腕に象る橫劃と合はせて、小篆や楷書の疒の元となる。疒は後に漢字の重要な部首となり、疒に從ふ字は多く疾病と關係がある。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 病氣になることを表す。《英》1122
疒(疾)齒
は、齒に疾あることを指す。 - 急速を表す。《合集》12900
疒(疾)雨、亡(無)匄(害)
は、雨勢は急速で害はないことを表す。
甲骨文にはほかに大と矢亦聲に從ふ疾字がある。本義は急速。疒の本義は病氣になること。兩字の本義は同じでないが、聲音が同じであるから、互ひに借用できる。故に兩字はいづれも急速、疾病を表す。後に兩方の字形はいづれも疾字に取つて代はられた。
屬性
- 疒
- U+7592
- JIS: 1-88-44
關聯字
疒に從ふ字を漢字私註部別一覽・爿部・疒枝に蒐める。