疾 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
病也。析言之則病爲疾加。渾言之則疾亦病也。按經傳多訓爲急也。速也。此引伸之義。如病之來多無期無迹也。《止部》曰、疌、疾也。
从𤕫矢聲。矢能傷人。矢之去甚速。故从矢會意。聲字疑衍。秦悉切。十二部。
籒文疾。从𠥻者、古文疾也。从𥎿者𥏼省也。
古文。各本篆體作。是仍與小篆無異。今正。攷𥩓篆下曰。、古文疾。童篆下曰、、古文以爲疾。此廿爲古文疾之明證。而『集韵』『類篇』皆曰、、古文疾、𥏴、籒文疾。此丁度所見不誤之明證也。其曰籒文作𥏴又作者、乃當其時巳有誤本同今本。而因倂入之、又譌古爲籒也。
康煕字典
- 部・劃數
- 疒部・五劃
古文
- 𤕼
- 𤖏
- 𥏂
- 𠥻
- 𤶅
『唐韻』秦悉切『集韻』『韻會』昨悉切、𠀤音嫉。〔音1〕『說文』病也。一曰急也。《徐曰》病來急、故从矢。矢、急疾也。『易・復卦』復亨出入無疾。『書・說命』若藥弗瞑眩、厥疾弗瘳。
又『玉篇』患也。『左傳・桓六年』謂其不疾瘯蠡也。《疏》不疾者、猶言不患此病也。
又『玉篇』速也。『廣韻』急也。『易・繫辭』帷神也、故不疾而速。『詩・大雅』昊天疾威。《傳》疾猶急也。『禮・月令』季冬之月、征鳥厲疾。《疏》疾、捷速也。『張衡・南都賦』總括趣欱、箭馳風疾。
又『增韻』惡也。『左傳・昭九年』辰在子卯、謂之疾日。《注》疾、惡也。
又『爾雅・釋言』疾、齊壯也。《疏》急速齊整、皆于事敏速强壯也。
又虐也。『詩・大雅』疾威上帝。《朱注》疾威、猶暴虐也。
又怨也。『管子・君臣篇』有過者不宿其罰、故民不疾其威。《注》疾、怨也。
又毒害也。『左傳・宣十五年』山藪藏疾。《註》山之有林藪、毒害者居之。
又姓。『姓譜』元魏疾陸眷。
又車轅前之下垂在地者曰前疾。『周禮・秋官』大行人立當前疾。
又劉疾、鳥名。『爾雅・釋鳥』鶛、劉疾。
又與嫉通。『書・君𨻰』爾無忿疾于頑。又『秦誓』人之有技、冒疾以惡之。《傳》見人之有技藝、蔽冒疾害以惡之。『史記・孫臏傳』龐涓恐其賢於已、疾之。
又與蒺同。『前漢・揚雄傳』及至獲夷之徒蹶、松柏掌疾黎。
又『韻補』叶才詣切、音劑。『易・無妄』无妄之疾、勿藥有喜。喜、音戲。『詩・大雅』庶人之愚、亦職維疾。叶下戾。『司馬相如・上林賦』潏潏淈淈、湁潗鼎沸。馳波跳沫、汨隱漂疾。
- 部・劃數
- 疒部・六劃
『說文』古文疾字。註詳五畫。
- 部・劃數
- 十部・二劃
『集韻』疾、古作𠥻。註詳疒部五畫。
- 部・劃數
- 爿部・七劃
『說文』古文疾字。註詳疒部五畫。本从疒。𤕫爲疒之篆文。形雖似爿、實與爿異。【廣韻】書作𤕺、註云籀文。【玉篇】【集韻】【類篇】書作𥏂、註云古文。皆遵【說文】之舊、【說文】【玉篇】【類篇】俱在疒部。【字彙】仍【篇海】之失作𤕼、改入爿部、非。
- 部・劃數
- 爿部・十劃
『字彙補』古文疾字。註詳疒部五畫。
- 部・劃數
- 矢部・六劃
『六書本義』古文疾字。註詳疒部五畫。
- 部・劃數
- 矢部・十劃
『唐韻』籀文疾字。
異體字
或體。
音訓義
- 音
- シツ(漢) ジチ(呉)⦅一⦆
- 訓
- とし⦅一⦆
- はやい⦅一⦆
- やまひ⦅一⦆
- やむ⦅一⦆
- くるしむ⦅一⦆
- にくむ⦅一⦆
- 官話
- jí⦅一⦆
- 粤語
- zat6⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・入聲・質・疾』秦悉切
- 『集韻・入聲上・質第五・疾』昨悉切
- 『五音集韻・入聲卷第十四・質第一・從四疾』秦悉切
- 聲母
- 從(齒頭音・全濁)
- 等呼
- 四
- 官話
- jí
- 粤語
- zat6
- 日本語音
- シツ(漢)
- ジチ(呉)
- 訓
- とし
- はやい
- やまひ
- やむ
- くるしむ
- にくむ
- 義
- 速い。激しい。疾雨。疾速。疾風。疾走。疾徐。
- 病氣。疾病。疾癘。
- 病氣になる。苦しむ。憂ひ惱む。疾苦。疾痛。疾癢。
- 憎む。嫌ふ。怨む。疾惡。疾怨。疾視。
- 釋
- 『廣韻』
疾: 病也、急也。秦悉切。十一。 𤕺: 籀文。
- 『集韻』
疾𠥻𥏴𤕺: 昨悉切。『說文』病也。古作𠥻、籀作𥏴𤕺。文十五。
- 『康煕字典』上揭。
解字
白川
會意。卜文、金文の字形は大(人の正面形)の腋の下に矢のある形。腋の下に矢を受け、負傷する意。
『說文』に病なり
とし、矢聲の字とし、古文、籀文の二形を錄するが、卜文、金文に比べると字形は全く異なり、殊に籀文は智の初形に近い。
のち疾病の意によつて疒部に屬する。矢創の意であるから、急疾、疾速の意がある。
藤堂
會意。甲骨文、金文は、人を目掛けて進む矢を表す會意字。
篆文以降は疒と矢の會意で、矢のやうにはやく進む、また、急に進行する病氣などを意味する。
迅は疾の語尾がnに轉じた語で、疾にきはめて近い。
落合
甲骨文に二系統ある。一方は人と爿に從ひ、人が病牀にある形。疒に當たる。汗(血液かも知れない)を表す小點を加へた字形が多い。そのほか人を身に替へた形や爿を省略した形(補註: 人と小點に從ふ形)なども見られる。
もう一方は人の正面形である大と矢に從ひ、負傷を表してゐる。矢亦聲。古文で疒と折衷して疾の字體が作られた。
甲骨文での用義は次のとほり。
- やまひ。疾病。疾疫とも言ふ。《合補》4019
壬午卜賓貞、𰅵骨盤有疾。一月。
- やむ。病氣になる。《合補》7477
甲辰卜出貞、王疾首、亡延。
- やましむ。くるしめる。《甲骨拼合集》50
甲辰卜賓貞、集其疾盥。
- とし。はやい。假借の用法。《合集》12671
貞、今夕、其雨疾。
- 地名またはその長。
- 《合集》33035
庚戌、叀疾令插。
- 《合集》6649
疾⿵凡辛不惟㛸。
- 《合集》33035
漢字多功能字庫
甲骨文は大(立つて四肢を開く人の形の正面)と矢に從ふ。矢亦聲。矢は矢の形に象る。矢を射出する速度はとても速く、故に甲骨文のこの字は疾速の疾に專用する字で、本義は急速。疾病の疾に假借する。一説に、甲骨文は人の身に矢の當たるさまに象り、故に疾患の意を有すといふ(羅振玉、王國維、商承祚)。
このほか、甲骨文には別に疒字がある。人が病に臥して牀にあるさまに象り、疾病の疾の本字。要約すると、大と矢に從ふ字は疾速の本字、疒は疾病の本字。兩者の本義は別々だが、聲音が相同じく、通用する(于省吾)。甲骨文の二種の字形は、金文に至つて合倂して一緒になり、疒と矢亦聲に從ひ、疾字の『說文』古文や小篆の元となつた。
甲骨文では疾病を表す。《合集》21052肩同又(有)疾
の意義は《合集》13754的克興㞢(有)疒
に相當する。興は起を表し、疾病が好轉するの意(蔡哲茂)。
金文での用義は次のとほり。
- 急を表す。毛公鼎
敃天疾畏(威)
は、天が急に怒るの意。『詩・大雅・召旻』旻天疾威、天篤降喪。
鄭玄箋疾、猶急也。
- 疾病を表す。
- 叔尸鐘
母(毋)疾母(毋)已(殆)
は、病氣もなく危險もないの意(沈培)。 - 否叔尊
疾不已
は、病氣が重いことを表す(張光裕)。
- 叔尸鐘
簡帛文字での用義は次のとほり。
- 病氣を表す。
- 《清華簡一・金縢》簡14背
周武王又(有)疾、周公所自以代王之志
。 - 《馬王堆・老子乙本卷前古佚書》第36行
失天則几(飢)、失人則疾。
- 《清華簡一・金縢》簡14背
- 人名に用ゐる。《清華簡二・繫年》簡137「「陳疾目率車千乘、以從楚師於武陽。」「陳疾目」は齊國の將帥。陳疾目の率ゐる兵車一千輛が、武陽に在りて楚軍に追隨するの意。
屬性
- 疾
- U+75BE
- JIS: 1-28-32
- 當用漢字・常用漢字
- 𤶅
- U+24D85
- 𠥻
- U+2097B
- 𤕼
- U+2457C
- 𤖏
- U+2458F
- 𥏂
- U+253C2
- 𥏴
- U+253F4
- 𤕬
- U+2456C
關聯字
- 廿
- 別字。童の籒文(𥫍)の《段注》に、疾の古文𠥻は廿を假借したものと言ふが、不詳。