乘 - 漢字私註
説文解字
覆也。从入桀。桀、黠也。軍法曰乘。食陵切。
- 五・桀部
古文乘从几。
説文解字注
覆也。加其上曰椉。人乗車、是其一耑也。从入桀。入者、覆之意也。食陵切。六部。桀、黠也。說从桀之意。『方言〔一〕』黠、慧也。自關而東趙魏之閒謂之黠。『史記〔貨殖傳〕』云、桀黠奴。凡黠者必強。故桀訓黠。入桀者、謂籠𦋇桀黠。軍法入桀曰椉。各本奪入桀二字、則不可通。今依『韵會』補。此偁軍法說字形會意。猶引易艸木麗于地說䕻、引豐其屋說寷也。云軍法者、葢出漢志兵書四穜內。入桀者、以弱勝強。『書〔西伯戡黎〕序』云、周人椉黎。『左傳〔宣十二年〕』車馳卒奔、椉晉軍。椉之證也。
古文椉、从几。凭几者亦覆其上。故从几。然則𠅞亦可以爲依憑字。
康煕字典
- 部・劃數
- 丿部・九劃
- 古文
- 𠅞
- 𠓸
『唐韻』食陵切『集韻』『韻會』神陵切、𠀤音繩。『廣韻』駕也、登也。『易・乾卦』時乘六龍以御天。
又因也。『孟子』不如乘勢。『老子・道德經』乘乘兮若無所歸。
又治也。『詩・豳風』亟其乘屋。
又勝也。『周語』乘人不義陵也。
又計也。『周禮・夏官・槀人』乘其事、試其弓弩、以下上其食而誅賞。
又姓。漢煮棗侯乘昌。
又『廣韻』『韻會』實證切『集韻』石證切、𠀤音剩。車也。『詩・小雅』元戎十乘、以先啓行。
又物雙曰乘。『左傳・僖三十三年』弦高以乘韋先牛十二犒師。『揚子・方言』雙鴈曰乘。
又物四數皆曰乘。『禮・少儀』乘壺酒。『孟子〔離婁下〕』發乘矢。
又乘丘、地名。『爾雅・釋地註』乘丘、形似車乘也。
又草名。『爾雅・釋草』望乘車。《註》可爲索、長丈餘。
又『韻會』乘者、載也。取載事爲名。『孟子〔離婁下〕』晋之乘。○按『韻瑞』引晋乘入平聲、誤。今宗譜曰家乘、義與史乘通。
又『傳燈錄』禪有淺深階級、一小乘、一大乘。頓悟自心無漏智、此心卽佛、曰最上乘。『宋沙門契嵩・原敎篇』五乘皆統之於三藏。一人乗、二天乗、三聲聞乗、四緣覺乘、五菩薩乘。後三乘導其徒出世也。前二乗以欲不可輒去、就其情而制之也。皆去聲。
又『集韻』諸應切、音證。姓也。
『說文』本作椉。
- 部・劃數
- 亠部・九劃
『集韻』乘古作𠅞。註詳丿部九畫。
- 部・劃數
- 入部・十二劃
『字彙補』古文乘字。註見丿部九畫。
- 部・劃數
- 木部・八劃
『唐韻』食陵切『集韻』『韻會』神陵切、𠀤音繩。『說文』从入从桀。桀、黠也。軍法入桀曰椉。《徐曰》椉、從上覆之也。今作乗。詳丿部乗字註〔註1〕。
- 註1:
詳丿部乗字註
とするも『康煕字典』は乗を見出し字に採らず。
廣韻
駕也、勝也、登也、守也。『說文』作椉。覆也。
又姓。漢有乗昌爲煑棗侯。
車乗也。實證切。又食陵切。七。
音訓・用義
- 音
- (1) ジョウ(呉) 〈『廣韻・下平聲・蒸・繩』食陵切〉[chéng]{sing4}
- (2) ジョウ(呉) 〈『廣韻・去聲・證・乗』實證切〉[shèng]{sing6}
- 訓
- (1) のる
機に乘ずる意には音(1)に讀む。
乘除は音(1)に讀む。
音(2)は次の意に用ゐる。
解字
白川
會意。禾の上に人が二人登つてゐる形。木に登ることをいふ。卜文、金文の字形は、禾ではなく、枝の上竦する高い木。
『説文解字』に覆ふなり
と訓じ、字形について入桀に從ふ。桀は黠なり。軍法に乘と曰ふ。
とする。黠は奸惡。それで乘を、人を凌ぐ意とするものであらう。『説文解字』は字を桀部に屬し、桀黠の意を以て説くが、桀は木の兩旁に人を桀にすることで、梟殺の字。
乘は一人が木に登つて遠く望見することをいふ。卜辭に「望乘」といふ族名があり、恐らく斥候を職とする者の氏姓であらう。
すべて他の勢ひを借りて行動することを「乘ずる」といふ。
藤堂
人と舛(左右の足の部分)と木の會意。人が兩足で木の上に登つた姿を示す。
落合
會意。甲骨文は木の上に人の正面形である大があり、人が木に乘ることを表してゐる。異體字には木を屰のやうな形にしたものもある。
甲骨文では人名の「望乘」にのみ見える。第一期(武丁代)〜一二間期(祖己代)。望の領主であらう。
字形は金文以降に人の足を強調した字形になつた。
漢字多功能字庫
甲骨文、金文は、大と木に從ひ、人が樹木に登るさまに象る。木の上の大(正面に立つ人の形に象る)は兩腕を開くばかりか、兩足を木の左右兩側に据ゑ、坐乘の意を有する。戰國竹簡では下部に車を加へ、車に乘ることを表し、引伸して一切の登乘を表す。本義は登乘、騎乘、乘坐。
王國維は、甲骨文は人が木に乘る形に象ると指摘する。徐中舒は、甲骨文の乘字の下部は木の變形で、按ずるに表意作用を有すべく、人が乘る木の股の形に象り、上部の縱劃を省いた(補註: 例示作例は木の幹の縱劃が上には突き拔けざる形)。金文はあるいは兩足の形の舛を加へる。戰國文字は、兩足に象る舛があるいは伸ばされて兩腕と相交はり、あるいは木を省く。參見《古璽彙編》5373。楚文字はあるいは木に從はずに几に從ひ(『説文解字』古文の形に近い)、あるいは車に從ひ、それぞれ几上、車上に乘るさまに象る。登るの意は同じ。古人は車に登るとき、几を踏み臺にした。『禮記・內則』乘必以几
。『儀禮・士昏禮』婦乘以几
(陳邦懷)。秦文字は下部を桀に變形し、これが入と桀に從ふ小篆の根據。
乘は馬車に乘ることで、そこから車の量詞に轉じ、古代の車は多くが四頭の馬に牽引されたことから、「乘馬」は馬四頭を表す。
甲骨文では人名に用ゐる。《合集》171令望乘
。「望乘」は商王武丁の時の軍事の統率者。
金文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、乘坐を表す。麥尊
王乘于舟
。 - 量詞に用ゐ、馬車の單位を表す。多友鼎
孚(俘)戎車百乘
は百輛の戰車を俘獲することをいふ。 - 數詞に用ゐ、四を表す。虢季子白盤
王睗(賜)乘馬
は王が四頭の馬を賞賜するの意。『詩・大雅・崧高』路車乘馬、我圖爾居。
毛亨傳乘馬、四馬也。
戰國竹簡では量詞に用ゐ、戰車を數へる單位。
- 《清華簡二・繫年》簡60
兵車百乘
。 - 《清華簡二・繫年》簡137
率車千乘
。 - 《上博竹書五・鮑叔牙與隰朋之諫》簡6
萬乘之邦
。一車四馬を「一乘」とし、「萬乘」は兵車一萬輛を指す。戰國の諸侯國の小さいものを「千乘」と稱し、大きいものを「萬乘」と稱する。
屬性
- 乘
- U+4E58
- JIS: 1-48-11
- 人名用漢字
- 𠅞
- U+2015E
- 𠓸
- U+204F8
- 椉
- U+6909
- JIS X 0212: 36-22
- 乗
- U+4E57
- JIS: 1-30-72
- 當用漢字・常用漢字