奡 - 漢字私註
説文解字
嫚也。从𦣻从夰、夰亦聲。『虞書〔益稷〕』曰、若丹朱奡。讀若傲。『論語〔憲問〕』奡湯舟。五到切。
- 十・夰部
説文解字注
嫚也。嫚者、侮傷也。傲者、倨也。奡與傲音義皆同。引伸爲排奡、多力皃。从𦣻从。傲者昂頭。故从首。亦聲。古到切。二部。『虞書』曰、若丹朱奡。『皋陶謨』文。〔註1〕朱當作絑。讀若傲。『論語』奡湯舟。『憲問篇』文。依《宋本》及『集韵』、『類篇』作湯。今作盪。非。湯卽盪陣字。盪陣音湯。
- 註1: 今文尚書『皋陶謨』を僞古文尚書は『皋陶謨』と『益稷』に分かつ。
康煕字典
- 部・劃數
- 大部・九劃
『廣韻』五到切『集韻』『正韻』魚到切『韻會』疑到切、𠀤音嫯。『說文』慢也。與傲通。
又矯健貌。『韓愈・薦士詩』橫空盤硬語、妥貼力排奡。
又人名。寒浞子、多力、能陸地行舟。『論語』奡盪舟。
音訓
- 音
- ガウ(漢、呉) 〈『廣韻・去聲・号・傲』五到切〉[ào]{ngou6}
- 訓
- おごる。あなどる。
解字
白川
象形。𦣻は大きな頭。下部はその手足を垂れてゐる形。
『説文解字』に嫚るなり
とあり、傲と聲義が近い。
『書・皋陶謨』に丹朱(堯の子)、奡る
と見える。
敖は長髮の架屍を毆つて、敵に傲る呪儀を示す字。奡もそのやうな呪儀と關係のある字であらう。その手足を垂れる形は、死屍を祭梟(首祭)とするものであらうかと思はれる。
藤堂
頁(頭)と夰(大きい人)の會意。身體や頭の大きい、嚴つい人を表す。
漢字多功能字庫
『説文解字』は小篆が𦣻と夰に從ひ夰亦聲とする。戰國竹簡では𦣻と矢に從ひ、矢は大の訛變で、奡は本來は𦣻と大に從ふ。𦣻は人の頭部に象り、傲慢な人が頭を上げることを表す(段玉裁)。俗語では傲慢な人を形容して兩眼望天と言ひ、粵語では「眼角高」、「眼睛長在頭頂上」と言ふ。大は立つ人の正面の形に象り、全字で人が頭を上げて立つさまに象る。本義は傲慢。奡と傲は音義が同じ。『説文解字』奡、嫚也。(後略)
《段注》嫚者,侮㑥也。傲者、倨也。奡與傲音義皆同。引伸爲排奡。多力皃。傲者昂頭、故从首。
張舜徽『說文解字約注』奡之言昂也、謂昂首闊步也。昂首故从𦣻。闊步故从夰。昂、古作卬。本書《匕部》「卬、望也。」今俗形容倨傲之人、曰兩眼望天即此意。
戰國竹簡では傲慢を表す。《上博竹書五・三德》簡11母(毋)奡貧、母(毋)笑型(刑)。
貧しい人を莫迦にしたり受刑者を笑ひ者にしたりしてはならない、の意。
奡はまた古代傳説における非常な力持ちで、夏代の寒浞の子(補註: あるいは澆に作る)。陸地にあつて船を引つ張り航行することが出來たといふ。『論語・憲問』羿善射、奡盪舟、俱不得其死然。
羿は矢を射ることを得意とし、奡は水戰を得意としたが、いづれもいい死に方が出來なかつた、の意。奡は後に民衆(特に漁民)から崇拜、敬慕される聖者となり、平安福祐を祈求される。
奡が力持ちの名であることから、後に矯健有力(強く丈夫で力がある)、豪宕(氣持ちが大きく、細事に拘らず、思ふまま振る舞ふこと。豪放。)闊大(廣く大きい)などの義を表すやうになり、多く詩文の風格を形容する。
- 唐・韓愈〈薦士〉
橫空盤硬語、妥貼力排奡。
強い言葉が頭を巡り、文意は妥當で力強い、の意。 - 清・王士禛『漁洋詩話』卷上
季木天才排奡、目空一世。
季木は才能に溢れ、豪放不羈(性格豪放で束縛を受けない)、何も眼中にない(傲慢なることの形容)、の意。
また通假して囂となし、叫び聲、大聲で叫び騷ぐことを表す。
- 『漢書・司馬相如傳』
糾蓼叫奡
絡み合ひ騷ぐの意。《顏師古注》引張揖曰叫奡、相呼也。
王先謙補注奡為囂之借字。囂音嗸、奡、囂同音通假。叫奡、即叫囂、張訓「相呼」是也。
屬性
- 奡
- U+5961
- JIS X 0212: 24-91