斯 - 漢字私註
説文解字
析也。从斤其聲。『詩〔陳風・墓門〕』曰、斧以斯之。息移切。
- 十四・斤部
説文解字注
析也。以曡韵爲訓。『〔詩〕陳風〔墓門〕』曰、墓門有棘、斧以斯之。《傳》曰、斯、析也。叚借訓爲此。亦曡韵也。『〔詩・召南〕殷其靁・傳』曰、斯、此也。从斤其聲。其聲未聞。斯字自三百篇及『唐韵』在支部無誤。而其聲在之部。𣃔非聲也。息移切。十六部。『詩』曰、斧㠯斯之。
康煕字典
- 部・劃數
- 斤部・八劃
- 古文
- 𣂕
『廣韻』息移切『集韻』『韻會』相支切、𠀤音私。『說文』析也。『爾雅・釋言』斯、離也。《註》齊𨻰曰斯。『詩・𨻰風』墓門有棘、斧以斯之。《箋》維斧可以開析之。『呂覽・報更篇』趙宣孟見桑下餓人、與之脯一朐、曰斯食之。《註》斯、析也。
又『爾雅・釋詁』斯、此也。『易・解卦』朋至斯孚。『詩・召南』何斯違期。
又『詩・小雅』鹿斯之奔。《疏》此鹿斯與𩦡斯柳斯、斯皆辭也。
又『禮・玉藻』二爵而言言斯。《註》斯、猶耳也。《疏》耳是助句之辭。
又卽也。『書・金縢』大木斯拔。
又賤也。『後漢・左雄傳』郞官部吏、職斯祿薄。《註》斯、賤也。
又『正字通』雞斯、馬名。商王拘西伯於羑里。太公得犬戎雞斯之乗、以獻。
又波斯、國名。
又姓。『吳志・賀齊傳』剡縣史斯從。
又與鮮同。『詩・小雅』有兔斯首。《箋》斯、白也。今俗語斯白之斯作鮮。齊魯之閒聲近斯。
又與纚同。『禮・問喪』雞斯。《註》當爲筓、纚聲之誤也。
又『集韻』山宜切、音釃。義同。
又『集韻』斯義切、音賜。『詩・大雅』王赫斯怒。《箋》斯、盡也。『釋文』鄭音賜。
又『韻補』叶新於切。『蔡邕・短人賦』熱地蝗兮蘆卽且、蒲中蛹兮蠶蠕須、視短人兮形若斯。
『集韻』或作撕、亦作廝。
- 部・劃數
- 斤部・四劃
『玉篇』古文斯字。註詳八畫。
音訓
- 音
- シ(漢、呉) 〈『廣韻・上平聲・支・斯』息移切〉[sī]{si1}
- 訓
- さく。これ。この。ここに。すなはち。しろい。
解字
白川
『説文解字』に析くなり
とし、其聲とするが、聲が合はず、また其は箕の初文であるから、斤を加ふべきものではない。恐らく丌(机)の上にものを置き、これを析く意であらう。
『詩・陳風・墓門』墓門有棘、斧以斯之。
(墓門に棘有り、斧を以て之を斯く)、また『列子・黃帝』不知斯齊國幾千萬里
(齊國を斯るること幾千萬里なるかを知らず)のやうに用ゐる。
指示代名詞としては、ものを強く特定する意があり、『論語』に「斯文」「斯の人」「斯の民」のやうにいふ。
「斯須」(しばらく)は連語、「すなはち」のやうに副詞にも用ゐる。
藤堂
其(箕。穀物のごみなどを選り分ける四角い網籠。)と斤(斧)の會意で、刃物で箕をばらばらに裂くことを示す。
『爾雅・釋言』に斯とは離なり
とあり、また『廣雅・釋詁』に斯とは裂なり
とある。
漢字多功能字庫
金文は斤に從ひ其聲。斤は斧に象る。本義は斧を用ゐて切り裂くこと。『説文解字』斯、析也。(中略)『詩』曰、斧以斯之。
析、破木也。
斯は木を伐採すること、薪を割ること、荊を披き棘を斬る(困難を克服し前進する)ことを表す。『詩・陳風・墓門』墓門有棘、斧以斯之。
城門に(通行人を阻害する)荊棘があり、斧を用ゐて切り落とす、の意(馬持盈)。
斯の本義は切り裂くこと。故に裂き開く意を有す。後に斯を虛詞に借用し、意符の手を加へて撕字を作り、撕裂(引き裂く)の義を表す。張舜徽『說文解字約注』今語猶稱裂物為斯、俗作撕。
しかし斯の本義は斧で切り裂くことで、撕は多く手で引き裂くことを表す。『通俗編・雜字・斯』按今皆以手析物為「斯」、『集韻』或从手作「撕」。
王念孫『廣雅疏證』今俗語猶呼手裂為斯。
金文では奴僕を表す。禹鼎斯馭二百、徒千。
「斯馭」は兵車に服役する人を指し、車を御す僕人が二百人、步兵が千人。斯の僕役の義は後世には厮を用ゐて表す。『史記・蘇秦傳』厮徒十萬
。
金文ではまた助詞に用ゐ、句中の襯字で、義は無い。
- 叔尸鐘
女(汝)考壽萬年、永保其身、卑(俾)百斯男、而埶(蓺)斯字。
汝の長壽萬年(を願ひ)、永遠に自己を保養し、百男(の多くの子孫)をして、生育繁殖(子がまた子を生み、孫がまた孫を生むことの形容)に從事せしむ、の意。『詩・大雅・思齊』大姒嗣徽音、則百斯男。
太姒は優れた名聲を受け繼ぐ、百男の多きを有する、の意。 - 師訇簋
訇其萬囟(斯)年子子孫孫永寶
の訇は人名。訇の萬年、子孫が永遠に大事にすること(を望む)の意。
戰國竹簡でもまた助詞に用ゐる。
- 《清華簡一・皇門》簡4
是人斯惠王共(恭)明祀、敷明刑。
人々は周成王に協助して恭しく大きな祭祀を行ひ、明確な法令を敷く、の意。 - 《郭店簡・六德》簡42
生民斯必又(有)夫婦、父子、君臣。
人民には夫婦、父子、君臣がある、の意。
また指示代詞に用ゐ、此に相當する。『論語・子罕』有美玉於斯。
は「有美玉於此」のことで、ここに一塊の美しい玉があるの意。『說文解字約注』湖湘間重讀斯、則音近茲矣。凡用「斯」為語辭者、乃「只」之假借。用「斯」為「是」者、乃「此」之假借。
「斯文」について。
- 最初、この種の禮樂文化、典章制度を表した。『論語・子罕』
天之將喪斯文也、後死者不得與於斯文也。
斯は此を表し、文は文化、禮樂制度を指す。天がもしこの種の文化を消滅せんとするなら、我はこの種の文化を把握しない、の意(楊伯峻)。 - 後には「斯文」は特に文學を指す。南朝梁・鍾嶸『詩品・序』
曹公父子篤好斯文。
曹操父子は十分に文學を愛好したの意。 - また文人雅士を指す。『魏書』
而芳一代碩儒、斯文攸屬、討論之日、必應考古、深有明證。
一代の大儒、文人雅士が集會し、討論するとき、必ず經を引き古に據り、證據を明確にする、の意。 - また文雅を表し、多く口語に用ゐる。元・關漢卿『五侯宴』第三折
一生村魯、不尚斯文。
一生粗野で、文雅に憧れない、の意。
金文では斯はまた人名に用ゐる。戰國晚期・元年丞相斯戈元年、丞相斯造。
斯は李斯のことで、秦の丞相に任じた。全句で、元年に丞相李斯が鑄造する、の意(這把戈)。
斯は現在稀に見る姓氏で、上海、浙江、雲南、四川、湖北、遼寧、山西、陝西、新疆などの地に分布する。漢族、彝族いづれもこの姓を有す。『通志・氏族略』斯氏、『姓苑』云、吴人、『吴志』「剡縣史斯從」、望出東陽與勃海、『南齊書』「東陽郡有斯氏。」
斯姓は吳地人、『吳志・賀齊傳』は剡縣に斯從といふ史官がゐたと記す。斯姓の族人は東陽や勃海に出自し、『南齊書』には東陽郡に斯姓があることを記す。三國の呉に斯敦がゐた。
斯は飜譯語(中譯外文)によく見える字。ギリシアの神々の王の「宙斯」(ゼウス)、17世紀のオランダの哲學者の「斯賓諾莎」(スピノザ)など。
屬性
- 斯
- U+65AF
- JIS: 1-27-59
- 人名用漢字
- 𣂕
- U+23095