上 - 漢字私註

説文解字

: 高也。此古文上、指事也。凡丄之屬皆从丄。時掌切。; 一・丄部
: 篆文丄。

説文解字注

: 高也。此古文丄。古文上作𠄞。故帝下㫄下示下皆云从古文上。可以證古文本作𠄞。篆作丄。各本誤以丄爲古文。則不得不改篆文之上爲。而用上爲部首。使下文从𠄞之字皆無所統。示次於𠄞之恉亦晦矣。今正丄爲𠄞、爲丄。觀者勿疑怪可也。凡『說文』一書。以小篆爲質。必先舉小篆。後言古文作某。此獨先舉古文後言小篆作某。變例也。以其屬皆从古文上、不从小篆上。故出變例而別白言之。

𢫾事也。凡𢫾事之文絕少。故顯白言之。不於一下言之者、一之爲𢫾事不待言也。象形者實有其物。日月是也。𢫾事者不泥其物而言其事。丄丅是也。天地爲形。天在上、地在下。地在上、天在下。則皆爲事。

凡𠄞之屬皆从𠄞。時掌時亮二切。古音第十部。」」
: 篆文上。謂李斯小篆也。今各本篆作。後人所改。

康煕字典

部・劃數: 一部・二劃
古文: 丄; 𠄞

『廣韻』『集韻』『韻會』『正韻』𡘋時亮切、音尙。在上之上、對下之稱。崇也、尊也。『易・乾・文言』本乎天者親上。

又『廣韻』君也。太上極尊之稱。『蔡邕・獨斷』上者、尊位所在。但言上、不敢言尊號。

又上日。『書・舜典』正月上日。《註》孔氏曰、上日、朔日也。葉氏曰、上旬之日。曾氏曰、如上戊、上辛、上丁之類。

又姓。漢上雄、明上觀、上志。又上官、複姓。

又『唐韻』時掌切『集韻』『韻會』『正韻』是掌切、𡘋商上聲。登也、升也、自下而上也。『易・需卦』雲上于天。『禮・曲禮』拾級聚足、連步以上。

又進也。『前漢・東方朔傳』朔上三千奏牘。

又與尙通。『詩・魏風』上愼旃哉。『前漢・賈誼傳』上親、上齒、上賢、上貴。又『匡衡傳』治天下者審所上。

又『韻補』叶辰羊切、音常。『楚辭・九懷』臨淵兮汪洋、顧林兮忽荒。修予兮袿衣、騎霓兮南上。

又叶時刃切、音愼。『王微觀海詩』照本苟不昧、在末理知瑩。忽乗摶角勢、超騰送崖上。

又叶矢忍切、音審。『郭璞・遊仙詩』翹首望太淸、朝雲無增景。雖欲思陵化、龍津未易上。

『說文』上、高也。指事。時掌切。○按字有動靜音、諸韻皆以上聲、是掌切、爲升上之上、屬動、去聲、時亮切、爲本在物上之上、屬靜。今詳『說文』上聲上字、高也、是指物而言、則本在物上之上亦作上聲矣。依諸韻分動靜音爲是。後倣此。

部・劃數: 一部(一劃)

『集韻』上、古作丄。註詳二畫。

部・劃數: 二部(零劃)

『說文』古文上字。『六書本義』橫一以指其體、上短者指其物、物在體之上曰上、在下曰下。餘詳一部二畫。

音訓義

音: ジャウ(呉) シャウ(漢)｟一｠; ジャウ(呉) シャウ(漢)｟二｠
訓: うへ｟一｠; かみ｟一｠; ほとり｟一｠; たふとぶ｟一｠; こひねがふ｟一｠; あがる｟二｠; あげる｟二｠; のぼる｟二｠; すすめる｟二｠; たてまつる｟二｠
官話: shàng｟一｠｟二｠; shǎng｟二｠
粤語: soeng6｟一｠; soeng5｟二｠

｟一｠

反切: 『廣韻・去聲・漾・尚』時亮切; 『集韻・去聲下・漾第四十一・尚』時亮切; 『五音集韻・去聲卷第十二・漾第一・禪・三尚』時亮切
聲母: 禪(正齒音・全濁)
等呼: 三
官話: shàng
粤語: soeng6
日本語音: シャウ(漢); ジャウ(呉)
訓: うへ; かみ; ほとり; たふとぶ; こひねがふ
義: 位置の高い方。; 高い。尊い。; 君主を指す。今上、上意など。; 側ら、ほとり、邊り。; 尙と通じ、尊ぶ、庶幾ふ、加へる。

｟二｠

反切: 『廣韻・上聲・養・上』時掌切; 『集韻・上聲下・養第三十六・丄』是掌切; 『五音集韻・上聲卷第九・養第一・禪・三上』時掌切
聲母: 禪(正齒音・全濁)
等呼: 三
官話: shǎng; shàng
粤語: soeng5
日本語音: シャウ(漢); ジャウ(呉)
訓: あがる; あげる; のぼる; すすめる; たてまつる
義: 高い方に移動する、移動させる。; 上位者に物を進める。進上、獻上、奏上など。; 上聲は四聲の一。
補註: 現代官話は上聲をshǎng shēngと讀む外はshàngと讀む。; 藤堂は(恐らく官話に準じて)「上聲」を上聲に讀む外は去聲に讀むとする。; 本文書に示す音義の使ひ分けは、KO字源、『康煕字典』に據る。

解字

古くは𠄞の形。橫劃の上に短い橫劃を描いて上方を示す。後に縱劃を加へる。

白川

指示。掌上に指示點を加へて、掌上の意を示す。

卜文の字形は掌を上に向け、上に點を加へ、下は掌を以て覆ひ覈かくす形で、下に點を加へる。

天子の意に用ゐるときは、清音で讀む。

藤堂

指示。ものが下敷きの上に載つてゐることを示す。上、上にのるの意を示す。下字の反對の形。

落合

指示。指示記號の線と點を組み合はせた字で、基準となる線より上に點があることから「うへ」の意を表す。

甲骨文での用義は次のとほり。

うへ。かみ。上の方向。高い所。《合集》27815王立于上。
上流。地名に附して「上𣬕」のやうに表示する用法もある。《屯南》505示其從、上涉。
上示の略。

上下: 祖先神の總稱。上示と下示の意であらう。下上、下上徹示ともいふ。《合集》36511自上下于⿰⿱貝示又示、余受有祐、不⿱𦭝口、⿻屮戈。
上子: 祭祀對象。大子と同じく長子の意か。《合集》14257貞、上子授我祐。
上示: 遠い先王の總稱。上と稱されることもある。《合集》32616求其上、自祖乙。
上甲: 神話上の殷の始祖。字形は甲を圍つた形に上を重ねてをり、嚴密には「上匚甲」または「匚甲」の合文であるが、文獻では「上甲」と稱されてをり、それに從つて表記するのが一般的である。《英藏》788戊子卜貞、禦年于上甲。 (補註: 落合は、上甲微より前、契から七代(『史記・殷本紀』による。Wikipedia:jaは八代を擧げる。)を殷滅亡後に加上されたとする。)
上戊: 祖先名。先王ではない。
上絲: 地名またはその長。
上帝: 神名。甲骨文では單に帝と稱されることが殆ど。

古文で線と點を繫ぐ縱劃が加へられた。甲骨文にも縱劃を加へた字形が一片に見えるが、獨立して出現してをり、異體字か別字かは不明。

漢字多功能字庫

甲骨文は短い劃を一條の弧線の上に置き、上の意を表す。刻むのに不便なため、後に多く弧線を橫劃に改める。按ずるに、甲骨文や早期金文は𠄞につくるが、下や數字の二と區分するために、春秋晩期に縱劃を加へて上につくるやうになつた。中山王壺では上字に聲符の尚を加へる。また戰國文字に多く上字の下部に短い橫劃を飾筆に加へるものがあり、鄂君啟舟節には、加へて辵に從ひ、行動と關係あることを表す字が見える。

甲骨文での用義は次のとほり。

「上帝」の語がある。《合集》16703上帝。また、上と下は相對し、それぞれ上帝と地祇を表すことができる。《合集》6204正下上弗若(諾)、不我其受(授)㞢(祐)は、地祇と上帝はどちらも引き受けず、我に庇佑を授けない、の意。
「上甲」の語があり、殷の九代目の先公のこと。(補註: 始祖の契を初代として九代目の上甲微を指す。) 《合集》6384告土方于上甲は、土方を伐つため上甲に向かひ告祭を行ふことをいふ。
「上示」の語があり、商代の先王を集めた廟主(廟の木主、祖靈の依り代)の稱(徐中舒)。

金文での用義は次のとほり。

上と下は相對し、方位の語とし、多く天上を指す。㝬鐘先王其嚴才(在)上は、先王は恭しく天上にあるといふ。
「上下」は天上地下の神を指す(白川静)。
- 蔡侯盤上下陟否は、天上地下の神の嘉賞と貶抑を指す。
- 『論語・述而』にまた上下神祇と見える。
「上帝」の語が見える。史墻盤上帝降懿德、大甹(屏)は、上帝が懿德(立派な德行)と大いなる助けを降ろす、といふ。
「㠯(以)上」の語があり、より多いことを表す。新郪虎符用兵五千人㠯(以)上、必會王符乃敢行之。
國名「上鄀」(春秋の諸侯國)、地名「上洛」(西周の地名)、「上樂」(戰國魏の地)、「上郡」(秦の地)などに用ゐる。
そば、ほとりの意に用ゐる。
- 啟尊在洀水上。
- 『論語・子罕』子在川上曰、「逝者如斯夫。不分晝夜。」
楚系文字に上に辵を意符に加へる字があり、低きより高きに到るの意。鄂君啟舟節[辵上]江は、江水を溯ることをいふ。

傳世文獻では、君主や目上の者の意を派生する。『廣雅・釋詁』上、君也。『禮記・王制』尊君親上。孔穎達疏親上、謂在下親愛長上。

屬性

上: U+4E0A; JIS: 1-30-69; 當用漢字・常用漢字
丄: U+4E04; JIS X 0212: 16-2
𠄞: U+2011E

関聯字

上に從ふ字を漢字私註部別一覽・上部に蒐める。