微 - 漢字私註
説文解字
彳部微字條
隱行也。从彳𢼸聲。『春秋傳』曰、白公其徒微之。
- 二・彳部
人部𢼸字條
妙也。从人从攴、豈省聲。
- 註に
臣鉉等案、豈字从𢼸省。𢼸不應从豈省。蓋傳寫之誤,疑从耑省。耑、物初生之题尚𢼸也。
といふ。 - 八・人部
説文解字注
眇也。眇各本作妙。今正。凡古言𢼸眇者、卽今之微妙字。眇者、小也。引伸爲凡細之偁。微者、隠行也。微行而𢼸廢矣。『玉篇』有𠌝字、引『書〔舜典〕』虞舜側𠌝。亦𢼸之俗體也。从人从攴豈省聲。鉉等曰、豈字从𢼸省。𢼸不應从豈省。疑从耑省。耑、物初生之題尙𢼸也。無非切。十五部。
康煕字典
- 部・劃數
- 彳部十劃
『唐韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤無非切、音薇。『爾雅・釋詁』幽微也。『易・繫辭』知微知彰。『書・大禹謨』道心惟微。
又『廣韻』微、妙也。『禮・禮運』德產之致也精微。
又『說文』隱行也。『史記・秦始皇紀』微行咸陽。
又『廣韻』細也。『孟子』乃孔子、則欲以微罪行。
又『玉篇』不明也。『詩・小雅』彼月而微、此日而微。
又『韻會』衰也。『詩・小雅』式微式微。《箋》微乎微者也。『史記・杞世家』杞小微。
又『韻會』賤也。『尚書序』虞舜側微。
又『爾雅・釋詁』匿微也。《註》微謂逃藏也。『左傳・哀十六年』白公奔山而縊、其徒微之。《註》微、匿也。
又『爾雅・釋詁』蔽、微也。『晉語』公子重耳過曹、曹共公聞其駢脅、諜其將浴、設微薄而觀之。《註》微、蔽也。
又殺也。『禮・檀弓』禮有微情者。《疏》微、殺也、言賢者喪親、必致滅性、故制使三日而食、哭踊有數、以殺其內情。
又伺察也。『前漢・郭解傳』使人微知賊處。《註》微、伺問之也。
又『爾雅・釋訓』骭瘍爲微。《註》骭、脚脛。瘍、瘡也。『詩・小雅』旣微且尰。
又『韻會』非也。『詩・邶風』微我無酒。
又『韻會』無也。『禮・檀弓』齊餓者、不食嗟來之食。曾子曰、微與。《註》微、猶無也。
又國名。『書・牧誓』微盧彭濮。《傳》微在巴蜀。
又『爾雅・釋山』未及上翠微。《疏》未及頂上、在旁陂陀之處、山氣靑縹色、故曰翠微也。
又紫微、太微、少微、𠀤星名。『晉書・天文志』紫微垣十五星在北斗。北一曰紫微、天帝之座也、天子之常居也。太微、天子庭也。五帝之座也、十二諸侯府也。少微、在太微西、士大夫之位也、明大而黃、則賢士舉也。
又三微。『後漢・章帝紀』春秋於春每月書王者、重三正、愼三微也。《註》三微者、三正之始、萬物皆微、物色不同、故王者取法焉。十一月、時陽氣始施於黃泉之下、色皆赤、赤者陽氣、故周爲天正、色尚赤。十二月、萬物始牙而色白、白者隂氣、故殷爲地正、色尚白。十三月、萬物莩甲而出、其色皆黑、人得加功展業、故夏爲人正、色尚黑。
又姓。『左傳・哀八年』微虎。《註》魯大夫。又微生、複姓。『論語』微生高。
廣韻
妙也、細也、少也。『說文』曰、隱行也。無非切。八。
『說文』曰、妙也。
異體字
落合、漢字多功能字庫が初文とする。
音訓・用義
微
- 音
- ビ(漢) ミ(呉) 〈『廣韻・上平聲・微・微』無非切〉[wēi]{mei4}
- 訓
- かすか。ほのか。わづか。ひそか(微行)。こまかい(微細)。すくない(微少)。ない。いやしい。
𢼸
- 音
- ビ(漢) ミ(呉) 〈『廣韻・上平聲・微・微』無非切〉[wēi]
藤堂は、こつそり見る、窺ふの意とし、『墨子・號令』 令吏卒𢼸得
(吏卒をして𢼸ひ得しむ)を引く。中國哲學書電子化計劃の版は𢼸を覹に作る。
解字
白川
𢼸
𡵂と攴の會意。𡵂は長髮の人の形で巫女。攴はこれを毆つ形。
『説文解字』に妙なり
と微妙の意とし、人に從ひ、攴に從ふ。豈の省聲なり。
とするが、豈とは關係がない。
𡵂の上部は巫女の端坐する姿である耑、長髮の長老を毆つ共感呪術である徵の從ふところと似てゐる。ゆゑに𢼸は長髮の巫女を毆つ形。敵方の巫女や呪術者を捕らへてこれを毆ち、共感呪術的にその呪力を微くすることを微、懲らしめることを徵といふ。
微
形聲。聲符は𢼸。𢼸は媚蠱をなす巫女を毆つて、敵の呪能を弱め、失はせる共感呪術的な方法をいふ。それは速やかに傳達させるために道路で行はれ、また隠微のうちに行はれた。本義は、敵の呪的な力を減殺することをいふ。
媚女を戈にかけて殺すことを蔑といひ、蔑もまた「蔑くする」こと、「蔑んずる」ことをいふ。微、蔑は相似た呪的な行爲をいふ字。
藤堂
微は彳(ゆく)と音符𢼸の會意兼形聲。𢼸は、一線の上下に細い絲端の垂れたさま(補註: 『説文解字』の註と同じく耑に從ふと解するものか)と攴(動詞の印)の會意で、絲端のやうに目立たないやうにすること。微は目立たないやうに忍び步きすること。
落合
甲骨文は、長髮の人物の象形(補註: 𡵂に當たる)で、恐らく老人を表す。異體字に、老に手の形の又を加へ、老人を支へる樣子を表した會意字がある。また、足の形の止を加へた異體字もあり、ここから老人がゆつくり進むことが原義と考へられる。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 地名またはその長。地方領主であるが、殷王に敵對する記述も見られる。《殷墟花園莊東地甲骨》208
戊卜貞、微亡至艱。
- 祭祀名。《合集》766
甲申卜亘貞、侑、微。
字體は金文で又を攴に誤つて𢼸に作り、更に古文で進むことを象徵する彳を加へて微に作る。甲骨文にも又を攴に誤つた例が見える。
殷代の微は周代の宋(初代は微子)と関聯があると推定される。
漢字多功能字庫
微字の甲骨文は、人に從ひ、𡵂に作り、頭に裝飾物を載せた人を象り、華麗の意を示す。𡵂と美は一字から分化したもので、いづれも頭に飾りを載せた人を象り、美は正面の人の形、𡵂は側面の人の形である(何琳儀)。微小の義は假借による。金文は攴を加へて𢼸に作り、戰國文字で彳を加へて微字となる。彳は道路の形に象り、『説文解字』は、彳を加へた微について、隱れて出掛けることを表すとする。
【補註】落合の擧げる𡵂に當たる甲骨文を、漢字多功能字庫は髟字條に擧げ、微字條には𢼸、微に當たる形の字のみ擧げる。しかし、上の解説は、落合の擧げるものと同樣の字について述べてゐるやうに思へる。
一説に𡵂の上部は長髮に象り、人の髮は細微であるので、微小の義を得たとする。高鴻縉は、攴を加へた𢼸は、手に物を持ち髮を斷ち、髮は細小であるから、これを斷つと更に微である、とする。張日昇、陳初生は、攴を加へて髮を梳く人を象り、髮を梳けば美しくなるので、美妙の意を有し、媺の初文である、とする。戰國竹簡に美麗の美を多く媺に作る。
甲骨文では、地名、國名、人名に用ゐる。
金文での用義は次のとほり。
- 讀んで美となす。召卣
髮𢼸(美)
は、毛髮の美麗なるをいふ。 - 國名に用ゐる。史牆盤
青幽高且(祖),才(在)𢼸(微)霝處。
は、史牆の高祖はもともと微國にゐたことを記す。 - 人名に用ゐる。
戰國竹簡での用義は次のとほり。
- 微小を表す。《睡虎地秦簡.為吏之道》簡5壹
微密韱(纖)察
は、微小な祕密のことをすべて細緻に明察する、の意。 - 隱微を表す。民微は民隱で、民衆の苦痛の意。《郭店簡・六德》簡38
君子不帝(啻)明乎民𢼸(微)而已
は、君子はただ民衆の疾苦を理解するだけではない、の意(劉釗)。 - 讀んで美となす。
- 《上博竹書五・季庚子問於孔子》簡13-14
𢼸(美)言
。 - 《上博竹書五・季庚子問於孔子》簡19
民之播𢼸(美)弃亞(惡)如歸
は、人民は美名を廣く傳へ、惡業を棄てること、まるで家に歸るやうである、の意。
- 《上博竹書五・季庚子問於孔子》簡13-14
漢帛書では微細を表す。
- 《馬王堆帛書.老子甲本》第85行
柔弱微細
。 - 《馬王堆帛書・老子甲本》第115-116行
視之而弗見、名之曰微。聽之而弗聞、名之曰希。
(補註: 『老子・第十四章』視之不見、名曰夷。聽之不聞、名曰希。搏之不得、名曰微。
に相當。)
屬性
- 微
- U+5FAE
- JIS: 1-40-89
- 當用漢字・常用漢字
- 𢼸
- U+22F38
- 𡵂
- U+21D42
関聯字
微に從ふ字
- 徵
微聲の字
- 薇
- 䉠
- 幑
- 覹
- 黴
- 溦
- 徽