戠 - 漢字私註
説文解字
闕。从戈从音。
- 十二・戈部
康煕字典
- 部・劃數
- 戈部九劃
『廣韻』之翼切『集韻』質力切、𠀤音職。義闕。
又『集韻』式吏切、音試。黏土也。
又昌志切、音熾。義同。本作埴。亦省作戠。
音訓
- 音
- (1) ショク(漢) 〈『廣韻・入聲・職・職』之翼切〉
- (2) シ(漢) 〈『集韻』式吏切、音試〉〈昌志切、音熾〉
- 訓
- (2) はに: 黏土。埴に通ず。
解字
白川
𢦏と緌飾の形の會意。𢦏の下に呪飾をつけてゐる。
『説文解字』に戈と音との會意とし、字義には闕
とあつて、不明とする。
金文に「戠衣」「戠玄衣」とあつて、戠は織の初文。赤い織文のあるものの意であらう。
埴と同聲。埴は「はに」。赤色の土器をいふ。
藤堂
會意。原字は戈(棒杭)とY型の杭から成り、目印の杭を表す。のち、戈と音の會意に變はり、言葉で目印をつけることを表す。
落合
細い鑿の象形である丵と武器の象形の戈の會意。丵を裝飾と見る説が多いが、甲骨文ではこの字が祭祀名として使はれてをり、戈は犧牲を殺す道具、丵は犧牲を解體する道具であらう。異體字には、丵に口を加へて言の異體と同形にしたものや、廾を用ゐたものなどがある。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 祭祀名。戠日ともいふ。
- 地名またはその長。第一期(武丁代)には領主が子戠とも稱されてをり、また死後の祭祀も見られる。
- 色を示す形容詞。假借の用法であり、この場合は赤色を意味する熾の初文とされる。
- 賜與物。詳細不明。あるいは色や織の意かも知れない。
- 日有戠
- 戠が食に通じて日蝕(日有食)の意とする説と、色に通じて太陽の異常な色と看做す説がある。
- 月有戠
- 月蝕(月有食)の意とする説と、月の異常な色と看做す説がある。
異體字のうち言に從ふものが後代に繼承され、金文で言を同源字の音に置換した。
漢字多功能字庫
甲骨文は戈と逆三角形に從ふ。逆三角形は樴の象形初文。樴は杙で、下端の鋭く尖つた木杭を象り、弋字の下部の形と同じで、戠字では聲符となす。本義は木杭。
甲骨文や金文ではまた口を加へ、逆三角形の兩旁に飾筆の點を加へる。『爾雅・釋宮』樴謂之杙。
郭璞注橜也。
邵晉涵『爾雅正義』は古謂之橜、又謂之樴、又謂之杙。其狀不一、或衺而銳、或大而長、其用至廣。
と説く。(參・陳劍)
甲骨文での用義は次のとほり。
- 祭名に用ゐる。
- 牲畜の毛色を表す。
- 過去には、讀んで蝕あるいは食となし、「日有戠」は日蝕を表すとされる。陳劍は日蝕を表すものではなく、讀んで異となし、自然界の異常現象を表すとする。
- 讀んで待となし、等待(待つ、待ち望む)を表す(裘錫圭)。
金文での用義は次のとほり。
- 識と讀み、知識を表す。何尊
爾有唯小子,亡(無)戠(識)。
- 通じて織となし、「織衣」は「繒衣」のこと(補註: 絹織物の衣のことか)で、衣服を表す。豆閉簋
易(賜)女(汝)戠衣。
屬性
- 戠
- U+6220
- JIS X 0212: 31-11
関聯字
戠聲の字
- 識
- 樴
- 幟
- 熾
- 職
- 織