乃 - 漢字私註
説文解字
曳詞之難也。象气之出難。凡𠄎之屬皆从𠄎。
- 五・乃部
古文乃。
籒文乃。
説文解字注
曳䛐之難也。『玉篇』䛐作離、非也。上當有者字。曳有矯拂之意。曳其言而轉之。若而、若乃皆是也。乃則其曳之難者也。『春秋・宣八年』日中而克葬。『定十五年』日下昃乃克葬。『公羊傳〔宣八年〕』曰、而者何。難也。乃者何。難也。曷爲或言而、或言乃。乃難乎而也。《何注》言乃者內而湥。言而者外而淺。按乃然而汝若、一語之轉。故乃又訓汝也。象气之出難也。气出不能直遂。象形。奴亥切。一部。凡𠄎之屬皆从𠄎。
古文乃。
籒文乃。三之以見其意。
康煕字典
- 部・劃數
- 丿部(一劃)
- 古文
- 𠄎
- 𠧤
- 𢏩
- 𢎧
『唐韻』奴亥切『集韻』『韻會』『正韻』囊亥切、𠀤柰上聲。語辭。『莊子・逍遙遊』而後乃今培風。
又承上起下之辭。『爾雅・序疏』若乃者、因上起下語。
又繼事之辭。『書・堯典』乃命羲和。
又辭之難也。『公羊傳・宣八年』而者何、難也。乃者何、難也。曷爲或言而、或言乃、乃難乎而也。
又辭之緩也。『周禮・秋官・小司𡨥』乃致事。《註》乃、緩辭。
又語已辭。『韓愈・鬭雞聮句』一噴一醒然、再接再礪乃。《註》用費誓礪乃鋒刃語也。又『王禕詩』兹焉舍我去、契闊將無乃。
又爾汝之稱。『書・大禹謨』惟乃之休。《註》乃、猶汝也。
又某也。『禮・雜記』祝稱卜葬虞子孫曰哀、夫曰乃。《註》乃某卜葬其妻某氏。
又彼也。『莊子・大宗師』孟孫氏人哭亦哭、是自其所以乃。
又『唐書・南蠻傳』昔有人見二羊𨷖海岸、彊者則見、弱者入山、時人謂之來乃。來乃者、勝勢也。
又地名。『元史・地理志』新添葛蠻安撫司、都鎮馬乃等處。
又果名。『桂海虞衡志』特乃子、狀似榧、而圓長端正。
又『玉篇』或作廼。『詩・大雅』廼慰廼止、廼左廼右。『前漢・項籍傳』必欲烹廼公。
又『正韻』依亥切、哀上聲。『字彙』款乃、棹船相應聲。黃山谷曰、款乃、湖中節歌聲。『正字通』款乃、本作欸乃。今行船搖櫓、戛軋聲似之。『柳宗元詩』欸乃一聲山水綠。『元結・湖南欸乃曲』讀如矮靄是也。『劉蛻・湖中歌』靄廼。『劉言史・瀟湘詩』曖廼皆欸乃之譌。○按欸、亞改切、應也。後人因柳集註有云、一本作襖靄。遂直音欸爲襖、乃爲靄、不知彼註自謂別本作襖靄、非謂欸乃當音襖靄也。【正韻】上聲解韻乃音靄、引柳詩、欸乃讀如襖靄。而上聲巧韻襖部不收款。去聲泰韻、乃音愛、亦引柳詩、欸乃讀如懊愛。而去聲效韻奧部不收款。至若旱韻、收款音窾、絕不註明有襖懊二音、此可證款不音襖懊、而欸之譌作款明矣。又乃有靄音、無愛音。【正韻】增音愛、非。又【字彙】【正字通】旣明辨款不音襖、欸譌作款、而【字彙】欠部款音襖、棹船相應聲。【正字通】櫓聲、自相矛盾、尤非。
- 部・劃數
- 亅部(零劃)
『玉篇』古文乃字。註詳丿部一畫。
- 部・劃數
- 亅部五劃
『字彙補』籀文乃字。
又大也。
- 部・劃數
- 卜部六劃
『字彙補』古文乃字。註詳丿部一畫。
- 部・劃數
- 弓部(零劃)
『正字通』【說文】乃本作𠄎、【集韻】作𢎗、蓋沿篆文而譌。【字彙】旣云與弓不同、形又與弓無異、又以不同弓者誤入弓部、𠀤非。
- 部・劃數
- 弓部・二劃
『說文長箋』古文乃字。註詳丿部一畫。
- 部・劃數
- 弓部・七劃
『字彙補』古文乃字。註詳丿部一畫。
音訓
- 音
- (1) ダイ(漢) ナイ(呉) 〈『廣韻・上聲・海・乃』奴亥切〉[nǎi]{naai5}
- (2) 〈『正韻』依亥切、哀上聲〉{oi2}
- 訓
- すなはち。なんぢ。
- (國訓) の
欸乃は船の櫓を漕ぐときの音、また舟唄のことで、音(2)に讀むといふ。現代官話にはこの音の使ひ分けはないらしく、日本語でもダイの音を用ゐる模樣。
解字
白川
象形。恐らく弓の弦を外した形。
『説文解字』に詞を曳くことの難きなり
とし、气の出だし難きに象る
とするが、そのやうなことを象形的に表現しうるものではない。
弓弦を外して弛めた形のままであるから、そのままの狀態をいふ。すなはち因仍が字の原義。それを語氣の上に移して、副詞的な語として用ゐる。それは緩急の辭にも、難易の辭にも用ゐる。すべて狀況によつてその用義が定まるので、順接としては「すなはち」、逆接としては「しかるに」、時に移しては「さきに」の意となる。
二人稱の名詞には、本來その字がなく、近似の音によつて、女、汝、爾、乃、戎、若などの音系の字を用ゐ、このうち女、爾、乃は金文にも見え、乃は多くその所有格に用ゐる。
乃を承接の辭に用ゐることも、既に金文に見えてゐる。
「もし」といふ假定の用法は、『孟子・公孫丑上』乃所願、則學孔子也。
(乃ち願ふ所は、則ち孔子を學ばん)のやうな例があり、これも若、如と音近く、假借してその義に用ゐるものであらう。
藤堂
指示。耳朶のやうにぐにやりと曲がつたさまを示す。
またさつぱりと割り切れない氣持ちを表す。
接續詞に轉用され、迺とも書く。
則、即も同訓だが、間を入れず、甲ならば乙であるといふ關係を表し、乃とは異なる。
落合
弓の略體あるいは斤の略體とされる。甲骨文には原義での用例がないため、字源を特定するのは難しい。
甲骨文では、助辭として用ゐ、すなはちと訓ずる。時間的に連續することを意味して用ゐられる。因みに迺は時間的な前後を表す語。《殷墟花園莊東地甲骨》458[⿰子矢]乃先舂妻、迺入炋。用。
後代には接續詞的に使はれた。
漢字多功能字庫
乃字の形を釋する説は甚だ多く、未だ定論がない。林義光は曳引の形に象るとする。陳獨秀、郭沬若は、人の側立し、乳房が突出するさまに象り、奶の初文とする。朱芳圃は繩の初文とする。王蘊智、郝士宏は繩索を放り出すさまに象るとする。按ずるに甲骨文に扔字があり、手に繩索を持ち放り出す形に象り、繩索を放り出すさまといふ説が比較的理に適つてゐる。『廣雅』扔、引也。
繩索は牽引に用ゐ、扔には引導(引率する、案内する、導く、指導する)の意がある。『老子・第三十八章』上禮為之而莫之應、則攘臂而扔之。
扔は後にまた捨て去る、抛棄する意に用ゐる。富察敦崇『燕京歲時記・荷花燈』荷花燈、荷花燈、今日點了明日扔。
乃字は後に虛詞に借用する。『説文解字』は、乃は語氣、話を口に出すのが困難な樣子を表すとする。
乃の甲骨文、金文の用義は次のとほり。
- 語氣の助詞に用ゐる。般殷鼎
乃擇吉金。
- 物主の代詞に用ゐ、「なんぢの」に相當し、定語(修飾語)となし、周法高はこれを「汝之」の合音とする。大盂鼎
令女(汝)盂井(型)乃嗣且(祖)南公
は、汝に汝の祖父の南公に見習ふやう命ずるの意。 - 金文では二人稱の代詞に用ゐ、「なんぢ」に相當し、主語となす。克罍
王曰、大(太)保、隹(唯)乃明乃心、享于乃辟。
はおほよそ、周王は太保に對して、汝は汝の心を明智とし、汝の君主に仕へるべし、と述べた、の意。一つ目の乃は二人稱代詞で主語、二つ目の乃は物主代詞で定語。 - 副詞に用ゐ、相承あるいは相因の關係を表し、迺に同じ。噩侯鼎
噩侯馭方內(納)壺于王、乃祼之。
は、噩侯馭方は周王の酒壺を受け、祼禮を進める、の意。 - 限定するところあることを表し、才(やつと)に相當する。新郪虎符
會王符、乃敢行之。
は、王の符を合はせてはじめて、之を行ふことができる、の意。
屬性
- 乃
- U+4E43
- JIS: 1-39-21
- 人名用漢字
- 𠄎
- U+2010E
- 𠄕
- U+20115
- 𠧤
- U+209E4
- 𢎗
- U+22397
- 𢎧
- U+223A7
- 𢏩
- U+223E9
関聯字
乃に從ふ字を漢字私註部別一覽・乃部に蒐める。