孚 - 漢字私註
説文解字
卵孚也。从爪从子。一曰信也。芳無切。
- 三・爪部
古文孚从𡥀。𡥀、古文𠈃。
説文解字注
卵卽孚也。@cmnt(卽字依玄應書補。『通俗文』卵化曰孚。音方赴反。『廣雅』孚、生也。謂子出於卵也。『方言〔三〕』鷄卵伏而未孚。於此可得孚之解矣。卵因伏而孚。學者因卽呼伏爲孚。凡伏卵曰抱。房奧反亦曰蓲。央富反。从爪子。鍇曰、鳥袌恒以爪反覆其卵也。按反覆其卵者、恐煦嫗之不均。芳無切。古音在三部。一曰信也。此卽卵卽孚引伸之義也。鷄卵之必爲鷄。𪁨卵之必爲𪁨。人言之認如是矣。
古文孚。从𣎼。𣎼、古文𠈃。𠈃亦聲。古音孚𠈃同在三部。
康煕字典
- 部・劃數
- 子部・四劃
- 古文
- 𤓽
『唐韻』『集韻』『韻會』『正韻』𠀤芳無切、音敷。『說文』卵孚也。一曰信也。《徐鍇曰》鳥之乳卵、皆如其期、不失信也。『詩・大雅』成王之孚。《註》成王者之信於天下也。『書・呂𠛬』獄成而孚。又『禮・聘義』孚尹旁達、信也。《馬氏曰》玉之爲物、孚尹於中、而旁達於外、所以爲信。
又『集韻』玉采也。
又孚甲。『禮・月令・鄭註』其日甲乙、萬物皆解孚甲、自抽軋而出。
又中孚、易卦名。
又去聲。『集韻』芳遇切、音赴。育也。『揚子・方言』雞伏卵而未孚。或作孵。
又叶芳尤切、音浮。『詩・大雅』儀𠛬文王、萬邦作孚。叶上臭。臭平聲。○按『集韻』訓玉采、音方尤切。孚亦有浮音、則又非但叶音矣。
- 部・劃數
- 爪部・五劃
『說文』古文孚字。註詳子部四畫。
音訓
- 音
- フ(漢、呉) 〈『廣韻・上平聲・虞・敷』芳無切〉[fú]{fu1}
- 訓
- かへる。かへす。はぐくむ。まこと。
解字
白川
『説文解字』に卵卽ち孚るなり
(段注本)とし、爪を鳥の爪、卵の孚化する意とし、一に曰く、信なり。
と孚信の義を加へる。《段注》に、鷄卵が必ず鷄となる意であるとするが、孚信の義は假借。
金文に孚を俘獲の意に用ゐて「貝を孚る」「金を孚る」のやうに用ゐる。《師詢𣪘》に孚いに天命を受けらる
とは「尃いに」の意。また《者減鐘》に龢(和)ならしめ、孚ならしめ
と孚信の意に用ゐる。
『書・高宗肜日』天既孚命
(天既に命を孚にす)を《魏石經》に命を付にす
に作り、説文解字甲字條木の孚甲(若芽)を戴くの象
の孚甲を『史記・律書』に「符甲」に作る。
孚、尃、付、符の字の間に通用の關係がある。
藤堂
爪(手)と子の會意。幼い子を手で大切に庇ふさまを示す。外から包んで大切に育てること。
落合
會意。甲骨文は、子を手(又、爪)で捕らへる樣子で、人を捕虜にすることを表してゐる。意符として進行を象徵する彳を加へた異體などもある。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 人を捕らへること。《合集》137・驗辭
五日戊申、方亦征、孚人十又六人。
- 捕らへたもの。捕虜や奪つた家畜が祭祀犧牲に供されてゐる。《屯南》1078
甲辰卜、⿱隹示孚馬、自大乙。
金文では轉じて鹵獲の意で使はれてをり、また人を捕らへる意では篆文で人を加へた繁文(俘)が作られた。
漢字多功能字庫
孚は俘の初文。甲骨文は又と子に從ふ。あるいは又ではなく爪に從ふ。又も爪も手の形に象り、子は子供に象る。孚字は子供を捕らへる形に象る。古代、戰勝者は往々にして敵方の成年男子を殺し、俘虜としたのは婦女や子供のみであつた(裘錫圭)。
卜辭や金文では捕らへることを表す。金文ではまた敷と通じ、公布、陳述、天下に布告することを表す。師詢簋丕顯文武孚(敷)受天命
。また人名に用ゐる。
後に信用の義に借用する。
- 『周易・繫詞』
勿失其孚
。 - 『詩經・大雅・下武』
成王之孚
。
孚と寽は同じく取るの義を有し、また形が近く、混同しやすい。
このほか、古籍では孚と音の近い附を通用する。『集韻・虞韻』孚、『說文』卵孚也。古作附。
『説文解字』の説は既に古義を失してゐる。
屬性
- 孚
- U+5B5A
- JIS: 1-53-53
- 𤓽
- U+244FD
關聯字
孚に從ふ字を漢字私註部別一覽・子部・孚枝に蒐める。