奚 - 漢字私註

説文解字

奚
大腹也。从𦃟省聲。𦃟、籒文系字。胡雞切。
亣部

説文解字注

奚
大腹也。《豕部》豯下曰、豚生三月、腹豯豯皃。古奚豯通用。『周禮〔夏官〕職方氏』豯養。杜子春讀豯爲奚。許《艸部〔藪字條〕》作奚養。从大、𦃟省聲。胡雞切。十六部。𦃟、籒文系。見《十二篇》系下。

康煕字典

部・劃數
大部・七劃

『廣韻』胡雞切『集韻』『韻會』『正韻』弦雞切、𠀤音兮。隷役也。『周禮・天官』酒人奚三百人。《註》奚、猶今官婢。通作㜎傒。『唐書・李賀傳』賀小奚奴背古錦囊、遇所得詩、投囊中。

又地名。『春秋・桓十七年』及齊師戰于奚。《註》魯地。

又山名。大奚山、在廣州、距佛堂門海三百里、潮汐相通、見『南粵志』。

又驒奚、駿馬名。『前漢・匈奴傳』騊駼驒奚。《註》驒、音顚、生七日而超其母。

又羊奚、草名。『本草綱目』羊奚比乎石筍子。

又疑問辭。『論語』子奚不爲政。『孟子』奚不去也。

又姓。夏車正奚仲、北魏奚牧。

『說文』奚、大腹也、从大、𦃟省聲。『正字通』【說文】專說大腹、非是。

音訓

ケイ(漢) 〈『廣韻・上平聲・齊・奚』胡雞切〉[xī]{hai4}
しもべ。なに。なんぞ。

解字

白川

象形。卜文の字形は、頭上に髮を結ひ上げた女子の形に象る。金文にもその圖象化した字がある。結髮の形は羌族のそれに近く、辮髮を示すものと思はれる。羌族は卜辭に捕獲の對象として見え、また大量に犧牲とされた。殷墓に見える數千の斷首葬も羌族と考へられ、家内奴隸としても多く使役されたのであらう。

周禮・天官・序官・酒人』に奚三百人、また同じく『漿人奚百有五十人など、多數の奚が用ゐられてをり、奚の名が殘されてゐる。

『説文解字』に大腹なり。大に從ひ、𦃟の省聲なり。𦃟は籀文、系の字なり。とするが、奚を大腹の義に用ゐた例はない。

卜辭や『周禮』によつて、羌系女奴の名が殘されてゐることを知り得る。

藤堂

(手)と(紐)と(人)の會意。繩を附けて使役する奴隸のこと。轉じて召使のこと。またその音を借りて、、胡、害などとともに「なに」「なぜ」を意味する疑問詞に當てる。

落合

會意。甲骨文はの頭部に紐()が附けられ、それを手()で摑む形。紐で繫がれた奴隸を表してゐる。異體字では人の部分がや後ろ手に縛られた形などでも表現され、また手の形は爪のほか𦥑が用ゐられてゐる。そのほか人の頭部をで表現した字形や、手の形を省いたものなどもある。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 奴隸。主に祭祀犧牲として記されてゐる。《合集》19771乙丑卜王、侑三奚于父乙、三月、延雨。
  2. 祭祀名。犧牲として奴隸を捧げることであらう。《合集》19765癸丑卜、奚祖乙、卯…。
  3. 地名またはその長。第一期(武丁代)には貞人(賓組)としても見える。また殷金文の圖象記號にも見える。《合補》1265令奚從宋家…。

後代には爪と大を用ゐた字形が繼承された。

上古音がに近く、爪と幺の部分は系の初文の省聲かも知れない。

漢字多功能字庫

甲骨文はと𡗞に從ふ。𡗞は髮を編んだ罪を帶びる奴隸に象る。𡗞の大の形はあるいはに作り、あるいはに作り、あるいは人の上に頭部を描く。戰國文字はあるいはを假借して奚となす。系と奚の二字は同音。

【補註】按ずるに上述の𡗞は、『康煕字典』に獸跡也。邑名。とする𡗞字とは別。

奚は手で奴隸の編んだ髪を牽くさまに象り、本義は奚奴(しもべ)、罪隸(罪人の家族を奴隸とするもの)。『説文解字』の大腹也。の釋は、按ずるに古文字の構形や本義とは合致しない。

甲骨文での用義は次のとほり。

金文での用義は次のとほり。

傳世文獻では奚を多く假借して疑問代名詞となす。『小爾雅』奚、何也。

ほかに奚を雞と通假する。『淮南子・主術』天下之物莫凶於雞毒。を『群書治要』、『意林』は引いて「雞」を「奚」に作る。

屬性

U+595A
JIS: 1-52-88

關聯字

奚に從ふ字を漢字私註部別一覽・大部・奚枝に蒐める。