後 - 漢字私註
説文解字
遲也。从彳、幺、夊者、後也。
- 二・彳部
古文後从辵。
説文解字注
遲也。从彳、幺、夊。幺夊者後也。
- 註に
各本奪二字、今補。幺者小也。小而行遲。後可知矣。故从幺夊會意。胡口切。四部。
といふ。 古文後从辵。
康煕字典
- 部・劃數
- 彳部六劃
- 古文
- 𨒥
- 𢔏
『唐韻』『正韻』胡口切『集韻』『韻會』很口切、𠀤音厚。『說文』遲也。从彳幺夂者、後也。『徐鍇曰』幺、猶𦌾躓之也。『玉篇』前後也。『廣韻』先後也。『詩・小雅』不自我先、不自我後。
又後嗣也。『禮・哀公問』子也者、親之後也。『書・蔡仲之命』垂憲乃後。『左傳・桓二年』臧孫達其有後于魯乎。
又『集韻』亦姓。
又『韻會』然後、語辭。
又『廣韻』胡遘切『集韻』下遘切『韻會』『正韻』胡茂切、𠀤厚去聲。『增韻』此後於人、不敢先而後之、先此而後彼之後也。『老子・道德經』自後者、人先之。『論語』事君敬其事、而後其食。
又『詩・大雅』予曰有先後。《傳》相導前後曰先後。
又『廣雅』娣姒、先後也。『前漢・郊祀志』神君者、長陵女子、以乳死、見神於先後宛若。《註》兄弟妻相謂曰先後、古謂之娣。
今關中俗呼爲先後、吳楚呼爲妯娌。
又叶後五切、胡上聲。『揚雄・趙充國圖畫頌』在漢中興、充國作武。赳赳桓桓、亦紹厥後。
- 部・劃數
- 彳部・八劃
『字彙補』古文後字。註詳六畫。
- 部・劃數
- 辵部・六劃
『廣韻』古文後字。註詳彳部六畫。
音訓
- 音
- コウ(漢) 〈『廣韻・上聲・厚・厚』胡口切〉
- ゴ(慣)
- 訓
- のち。あと。うしろ。しりへ。のちにする。おくれる。
解字
白川
『説文解字』に遲きなり
と訓じ、段注に幺は幼小、小足のゆゑに步行に遲れる意とする。
金文の字形は幺の下に夊をつけ、また各の字形を加へるものがある。各は祝詞を奏して神靈が降格する意であるから、この字も進退に關する呪儀を示すものであらう。幺は御の古い字形にも含まれるもので、御の初文には幺を拜する形に作るものがある。後は、あるいは敵の後退を祈る呪儀を示す字であらう。
藤堂
幺(わづか)と夂(足を引き摺る; 補註: 夊の誤りか?)と彳(ゆく)の會意。足を引いて僅かしか進めず、あとに遲れるさまを表す。のち、后(うしろ、尻の穴)と通じて用ゐられる。
落合
絲束の形の午と足の形を下に向けた夂から成る。現用字の旁に當たり、午は同源字の幺の形になつてゐる。會意説と形聲説があるが、午(あるいは幺)と後は字義、字音(上古音)ともに共通點がなく、いづれが正しいのか不明。「遲く進む」意とする説もあるが、夂は前進ではなく後退を象徵してゐる。
甲骨文には既に進行を象徵する彳を加へた繁體があり、これは旁を亦聲符とする形聲字。
甲骨文では、時間的な先後を表し、「のちに」と訓ずる。對義語は先。
- 《屯南》4397
嶽燎、後酒。
- 《殷墟花園莊東地甲骨》427
己卯卜、庚辰、[⿱乇口]妣庚、改牢、後改牝一。用。
古文には辵に從ふ字形も見えるが、篆文以降には繼承されてゐない。
漢字多功能字庫
後字は繩に脚を取られ、遲れて前進できないこと。本義は落後、後ろ。
甲骨文は幺と夂に從ふ。夂は足の形に象り、幺は繩を結ぶさまに象り、字は足が繩で縛られると解き、遲れて前に向かへないの意(林義光)。後に形符の彳を加へ、往來の意を示す。
一説に幺を聲符とする(劉釗、何琳儀)。金文や戰國竹簡では彳をあるいは改めて辵に從ひ、『説文解字』の古文に同じ。また夂の下に口を飾りに加へるものがある。《上博竹書四・曹沫之陳》簡30字形を參照のこと。
甲骨文では先後の後に用ゐる。《屯南》2358後王射兕。
金文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、行動が遲れることを表す。杕氏壺
[网戈]獵母(毋)𨒥(後)。
- 先後の後に用ゐる。小臣單觶
王後坂(返)克商。
- 後人の後が見え、子孫後代を指す。乍册夨令𣪕
婦子後人永寶。
- 後嗣の語が有り、子孫後代を指す。中山王方壺
柢柢翼翼、卲(昭)告後嗣。
- 後人、後嗣をまた簡單に後と稱す。師望鼎
王用弗忘聖人之後。
- 終結の義を有す。黃子豆
黃子乍(作)甫(夫)人行器、則永祜福、霝(令)冬(終)霝(令)後。
銘文の終、後は同義で重ねられてゐる。 - 人名に用ゐる。白克壺
用乍(作)朕穆考後仲尊壺。
戰國竹簡では多く後代の人を指す。
- 《清華簡一・皇門》簡7
至于氒(厥)後嗣立王、廼弗肯用先王之明刑。
は、彼の後人を王に立てたが、先王の明刑を用ゐることに肯んぜず、の意。 - 《上博竹書二・容成氏》簡12
堯又(有)子九人、不㠯(以)亓(其)子為後。
屬性
- 後
- U+5F8C
- JIS: 1-24-69
- 當用漢字・常用漢字
- 𢔏
- U+2250F
- 𨒥
- U+284A5
關聯字
後聲の字
- 䵈
其の他
- 后
- 后を後の簡体字として用ゐる。