夗 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
轉臥也。謂轉身臥也。『詩』曰、展轉反側。凡夗聲宛聲字、皆取委曲意。
从夕卪。會意。臥有卪也。釋从卪之意。卪節古今字。於阮切。十四部。
康煕字典
- 部・劃數
- 夕部二劃
『廣韻』『集韻』𠀤於阮切、音苑。〔音1〕臥轉貌。
- 部・劃數
- 夕部二劃
『正字通』同夗。【字彙】作古文外字、失考。
音訓義
- 音
- ヱン(漢) ヲン(呉)⦅一⦆
- ヱン(漢)(呉)⦅二⦆
- 官話
- yuàn⦅一⦆
- wǎn⦅二⦆
- wān⦅三⦆
- yuān⦅四⦆
- 粤語
- jyun2⦅一⦆
- jyun3⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・上聲・阮・婉』於阮切
- 『集韻・上上・阮・宛』委遠切
- 『五音集韻・上聲卷第八・阮第七・影三婉』於阮切
- 聲母
- 影(喉音・全清)
- 開合
- 合
- 等呼
- 三
- 推定中古音
- ʔʏʌn
- 官話
- yuàn
- 粤語
- jyun2
- jyun3
- 日本語音
- ヱン(漢)
- ヲン(呉)
- 義
- 轉がり臥す。身體を橫たへ曲げるさま。
- 釋
- 『廣韻』
夗: 臥轉皃。
- 『集韻』
夗: 『說文』轉臥也。
- 『康煕字典』上揭。
- 補註
- 官話yuànを本音に當てるのは藤堂に據る。
- 粤語資料はjyun2を「通宛」、jyun3を「委曲貌」とする。
⦅二⦆
- 反切
- 『集韻・上聲下・𤣗第二十八・宛』烏勉切
- 『五音集韻・上聲卷第八・獮第十一・影四宛』烏勉切
- 聲母
- 影(喉音・全清)
- 開合
- 合
- 等呼
- 『韻鏡』は外轉第二十四合に影母上聲三等とする。
- 『五音集韻』は四等とする。
- 官話
- wǎn
- 日本語音
- ヱン(漢)(呉)
- 義
- 夗專とは、雙六の賽のこと(『方言・第五』)。
- 釋
- 『集韻』
夗: 『方言』夗𣓧、簙也。
- 『康煕字典』上揭。
- 補註
- 官話wǎnを本音に當てるのは藤堂に據る。
⦅三⦆
- 官話
- wān
- 義
- 蜿と通ず。夗延は蜿蜒に同じ。蛇がうねうね行くさま、うねうねと續くさま。
⦅四⦆
- 官話
- yuān
- 義
- 鴛に同じ。
解字
白川
象形。人が坐して、その膝のふくよかな形。
『說文』に轉臥するなり
とし、夕と卩(節)に從ふ字とするが、夕は坐する人の膝のふくよかな形。轉臥の象ではない。
藤堂
會意。二人が身體をしなやかに曲げて、丸く屈んださま。宛の原字。
落合
甲骨文では單獨での使用例がない。宛は宀と夗に從ひ、夗は人が頭を垂れる形。
漢字多功能字庫
構形初義不明。徐在國は甲骨文を肉と乃に從ふが、意圖不明とする。季旭昇は肉に從ひ、動物がまさに死なんとして寢轉がり橫たはる形に象るとする。按ずるに甲骨文、金文とも動物の形に象らず、肉と人に從つてゐるやうに見える。あるいは口を增すが、無意義の羨符(羨は餘剩の意)。
【補註】漢字多功能字庫の擧げる夗の甲骨文のひとつは、漢字多功能字庫が眢とする甲骨文の旁にも見える。落合はその字を亡失字とし、夗に當たる旁を夂の變形とする。いづれを採るべきか判斷不能。
甲骨文では北方の風名に用ゐる(陳邦懷、劉釗)。金文では㘱盨に迺乍(作)余一人夗。
と見えるが、釋義に定論がない。怨と讀み、怨恨を表す(徐在國)とも、故と讀み、災害を表す(馬承源)とも、咎と讀む(《殷周金文集成修訂增補本》)ともいふ。また人名に用ゐる。
季旭昇
釋義
夗は宛轉なり。
釋形
夗の古文字は肉に從ひ、疑ふらくは動物が將に死なんとして轉がり臥せる形に象る。『毛詩・唐風・山有樞』宛其死矣、他人是愉。
作例2-3は舊く眢と釋するが、陳劍は右旁の夗を義符、左旁を聲符の睫の象形表意字、全字で讀みて兼となす。
作例13はあるいは卪聲に從ふ。『金文編』は盌と釋し、その從ふところの夗と今の隸楷は比較的近く、夗の右旁は分離し、譌變して卪の形となつてゐる。
屬性
- 夗
- U+5917
- 夘
- U+5918
- JIS: 1-50-41
關聯字
夗に從ふ字を漢字私註部別一覽・夗部に蒐める。