以 - 漢字私註
説文解字
用也。从反巳。賈侍中說、巳、意巳實也。象形。
- 十四・巳部
康煕字典
- 部・劃數
- 人部三劃
- 古文
- 㠯
『韻會』『正韻』𠀤養里切、怡上聲。爲也。『論語』視其所以。
又因也。『詩・邶風』何其久也、必有以也。『左傳・昭十三年』我之不共、魯故之以。《註》以魯故也。『列子・周穆王篇』宋人執而問其以。
又用也。『論語』不使大臣怨乎不以。又『左傳・僖二十六年』凡師能左右之曰以。『易・師卦』能以衆正。又『詩・周頌』侯彊侯以。《註》彊民有餘力來助者、以閒民轉移執事者。
又同已。『孟子』無以、則王乎。又古以與聲相通。『禮・燕禮』君曰、以我安。《註》猶與也。『魏書・李順傳』此年行師、當克以不。『韓愈・剝啄行』凡今之人、急名以官。《註》韓文與多作以。
又『集韻』與似同。『易・明夷』箕子以之。鄭氏、荀氏皆作似。
- 部・劃數
- 己部二劃
『廣韻』古文以字。註詳人部三畫。
音訓
- 音
- イ(漢、呉) 〈『廣韻・上聲・止・以』羊己切〉[yǐ]{ji5}
- 訓
- もちゐる。もつて。おもふ。ひきゐる。ゆゑ。より(以上、以下)。
解字
白川
象形。㠯の形に象る。
のち字形は厶、㠯、以に分かれた。
藤堂
㠯は曲がつた棒(耜や梃子に用ゐる)を描いた象形字で、耜の原字。
以は、手の形(又)または人と音符㠯の會意兼形聲。手で道具を用ゐて仕事をするの意を示す。何かを用ゐて工作をやるの意を含む。「〜を」「〜で」「〜でもつて」などの意を示す前置詞となつた。
落合
象形。甲骨文は人が物を攜へた形、あるいはその略體(㠯に相當)。
物を持つことから、率ゐる、齎すの意を表す。
略體を耜の象形とする説もあるが、この形は耜を含め具體的な物を指して使はれてゐない。從つて、耜の旁の㠯は聲符であらう。
繁體を氏と隸定する説もあるが、氏の字源は屈んだ人の手を強調した形で、昏に含まれる。甲骨文には氏は單獨の字としては見えない。
甲骨文での用義は次のとほり。
- ひきゐる。人や集團を引率する。《合集》6257
貞、勿呼以宰。
- もたらす。物を持つて來る。貢納する。捕虜を連れて來る。神が祟りや祐助を齎す。《屯南》9
己酉貞、⿳匕凶十以牛、其用自上甲⿰氵肉、大示叀牛。
- もつて。そこで。接續の助辭。《合集》3100
…子美見、以歳于丁。
- 祭祀名。犧牲を引き連れることであらう。《甲骨綴合集》9
癸酉貞、射插以羌、自上甲、乙亥。
篆文まで繁略兩系が繼承されたが、隸書以降は崩した形になつてをり、(以字を)繁體の系統とする説と略體の系統とする説がある。
略體の系統の同源字に厶がある。
漢字多功能字庫
甲骨文の以は人が手に物を提げ攜へる形に象る。また、人を省いて、提げ攜へる物の形の㠯に簡化することがある。初義は、持ち攜へること、率ゐること(張世超、季旭昇)。また厶と隸定することがある。台は本來口に從ひ㠯聲の字で、楷書では㠯を厶の形につくる。
金文では㠯を多用する。楚簡もまた同じ。
牧簋の㠯は人の形を加へて甲骨文を承け、それが現用の以の形の根據となつた。
後世では以を多用し㠯を用ゐない。
甲骨文での用義は以下のとほり。
- 率ゐることを表す。《合集》10
王往以眾黍于囧。
は、商王が群衆を率ゐて行くことをいふ。 - 送ることを表す。《合集》14454
追弗其以牛。
金文での用義は以下の如し。
- 用ゐることを表す。沇兒鎛
㠯匽㠯喜。
子璋鐘㠯匽㠯喜。
- 率ゐることを表す。白懋父簋
白懋父㠯殷八𠂤(師)征東夷
。 - 方位詞と連用して範圍、限界を示す。杜虎符
用兵五十人㠯上。
以は古書の常用字である。用義は以下のとほり。
- 使用することを表す。『玉篇・人部』
以、用也。
- 『孟子・告子下』
是故禹以四海為壑、今吾子以鄰國為壑。
- 『楚辭・九章・涉江』
忠不必用兮、賢不必以。
王逸注以、亦用也。
- 『孟子・告子下』
- 率ゐることを表す。
- 『左傳・僖公四年』
四年春、齊侯以諸侯之師侵蔡。
- 『國語・周語』
(富辰)乃以其屬死之。
韋昭注帥其徒屬、以死狄師。
- 『左傳・僖公四年』
- 「〜によつて」の意。
- 『韓非子・五蠹』
富國以農、距敵恃卒。
- 『論衡・卜筮』
天與人同道、欲知天、以人事。
- 『韓非子・五蠹』
- 思ふことを表す。
- 『左傳・昭公二十五年』
果自言、公以告臧孫、臧孫以難。
- 『墨子・公輸』
臣以三事王吏之攻宋也、為與此同類。
- 『左傳・昭公二十五年』
- 原因、緣故を表す。(補註: ゆゑ)
- 『詩・邶風・旄丘』
何其久也。必有以也。
- 『列子・周穆王』
華子既悟、迺大怒、黜妻罰子、操戈逐儒生。宋人執而問其以。
- 『詩・邶風・旄丘』
- 有ることを表す。
- 『管子・治國』
今也倉廩虛而民無積、農夫以䰞子者、上無術以均之也。
- 『戰國策・楚策四』
今楚國雖小、絕長續短、猶以數千里、豈特百里哉。
- 『管子・治國』
- 介詞として、賴る道具、方法、手段などを示す。
- 『周易・繫辭上』
方以類聚、物以群分。
- 『韓非子・難一』
以子之矛陷子之楯、何如。
- 『周易・繫辭上』
- また動作の時間、場所などを示す。
- 『論衡・偶會』
夫物以春生夏長、秋而熟老、適自枯死、陰氣適盛、與之會遇。
- 『論衡・偶會』
- 連詞として、竝列關係を表す。
- 『周易・鼎』
得妾以其子、無咎。
王引之『經傳釋詞』言得妾與其子也。
- 『周易・鼎』
- また轉換、變化を示す。
- 『淮南子・氾論』
堯無百戶之郭、舜無植錐之地、以有天下。
- 『淮南子・氾論』
- 副詞として、程度が深いことを表す。
- 『孟子・滕文公下』
三月無君則弔、不以急乎。
- 『孟子・滕文公下』
- また範圍を表し、惟、只に相當する。
- 『戰國策・齊策四』
君家所寡有者、以義耳。
- 『戰國策・齊策四』
屬性
- 以
- U+4EE5
- JIS: 1-16-42
- 當用漢字・常用漢字
- 㠯
- U+382F
- JIS: 2-8-79
関聯字
㠯に從ふ字を漢字私註部別一覽・㠯部に蒐める。