或 - 漢字私註

説文解字

或

邦也。从、以守。一、地也。于逼切。臣鉉等曰、今俗作胡國切、以爲疑或不定之意。

十二戈部
域

或又从臣鉉等曰、今無復或音。

別條に揭出。

説文解字注

或

邦也。《邑部》曰、邦者、國也。葢或國在周時爲古今字。古文衹有或字。旣乃復製國字。以凡人各有所守。皆得謂之或。各守其守、不能不相疑。故孔子曰、或之者、疑之也。而封建日廣。以爲凡人所守之或字未足盡之。乃又加囗而爲國。又加心爲惑。以爲疑惑當別於或。此孶乳寖多之理也。旣有國字。則國訓邦、而或但訓有。漢人多以有釋或。毛公之傳『詩・商頌』也。曰域、有也。傳『大雅』也。曰囿、所以域養禽獸也。域卽或。『攷工記・梓人・注』或、有也。『小雅・天保・箋』、鄭『論語・注』皆云、或之言有也。高誘注『淮南』屢言或、有也。『毛詩』九有、『韓詩』作九域。緯書作九囿。葢有、古音如以。或、古音同域。相爲平入。

从囗。羽非切。戈㠯守其一。从三字會意。于逼切。『廣韵』分域切雨逼、或切胡國、非也。一部。一、逗、地也。解从一之意。

域

或或从土。旣从口从一矣。又从土。是爲後起之俗字。

康煕字典

部・劃數
戈部・四劃
古文
𢈿

『集韻』越逼切、音閾。音2『說文』邦也。从口从戈、以守一。一、地也。通作

又『廣韻』胡國切『集韻』『韻會』『正韻』穫北切、𠀤音惑。音1疑也。凡或人或曰皆闕疑之辭。『易・乾卦』或躍在淵。『朱子・本義』疑而未定之辭。

又與惑通。怪也。『孟子〔告子上〕』無或乎王之不智也。

○按六書有假借、或本是邦或字、借爲疑或字、後人加土爲域、加心爲惑。而於或字、止作或人或曰之用、幷其本義而忘之矣。

部・劃數
广部・八劃

『玉篇』古文字。註詳戈部四畫。

音訓義

ワク(呉) コク(漢)⦅一⦆
ヨク(漢) ヰキ(呉)⦅二⦆
ある⦅一⦆
あるいは⦅一⦆
官話
huò⦅一⦆
粤語
waak6⦅一⦆

⦅一⦆

反切
廣韻・入聲・德・或』胡國切
集韻・入聲下・德第二十五・或』穫北切
『五音集韻・入聲卷第十五・德第七・匣一或』胡國切
聲母
匣(喉音・全濁)
等呼
官話
huò
粤語
waak6
日本語音
ワク(呉)
コク(漢)
ある
あるいは
不定の指示詞。或る人、或る物、或る日、或る所。
有る。『易・繫辭下未之或知也。(未だ之知る或らざるなり。)
ある場合には。又は。若しくは。或いは甲、或いは乙。
もしかすると。
惑と通じ、疑ふ、惑ふ、怪しむ。
『廣韻』: 不定也、疑也。胡國切。五。
『集韻』: 穫北切。疑辭。文七。
  • 【補註】參照資料には: 檴北切。疑亂。文七。とあるが、『類篇』に據り修正した。
『康煕字典』上揭

⦅二⦆

反切
集韻・入聲下職第二十四』越逼切
『五音集韻・入聲卷第十五・職第六・喻四域』雨逼切
聲母
喻(喉音・次濁)
等呼
日本語音
ヨク(漢)
ヰキ(呉)
に通ず。
『集韻』或域䧕𢨊㽣: 越逼切。『說文』邦也。从口从弋、以守一、一名也。或从土、从𨸏。古作𢨊㽣。文二十八。
『康煕字典』上揭
補註
音は白川、KO字源に據り、呉音漢音の別は域に同じく示した。

解字

白川

の會意。囗は城郭の象。これを戈を以て守る意で、國の初文。國は或に更に囗を加へた形。金文に或を國の意に用ゐる。

『説文解字』に邦なり。囗に從ひ、戈に從ひ、以て一を守る。一は地なり。とし、を重文として擧げる。は境界の意。

、國はもと一字。或がのち域と國とに分化したと見てよい。

或はまたとも聲義が通用し、有が一般的にある意であるのに對して、或は限定的な有であるため、「あるいは」の意となり、不特定の意となる。『論語・爲政或謂孔子(或るひと、孔子に謂ふ)は不特定の人、『詩・豳風・鴟鴞或敢侮予(敢へて予を侮ること或らんや)は有の限定的用法。

惑と通用し、『孟子・告子上』王の不智なるをうたがふこと無かれ(上揭)とあり、疑惑の意に用ゐる。

藤堂

と囗印の地區の會意。また囗を四方から線で區切つて圍んだ形を含む。ある領域を區切り、それを武器で守ることを示し、や國の原字。

但し一般にはに當て、或る者、或る場合などの意に用ゐる。

落合

西周代に初出。基本的な形は、都市を表す方形と杙の象形の、及び領域の範圍を表す指示記號の短線を四本あるいは二本加へたもの。弋は、領域の境界に標識として打つた杙と思はれるが、上古音では或と同部と推定され、聲符または亦聲の可能性もある。

西周後期に出現する異體字には、弋と指示記號の線を重ねて武器の一種のにしたものがあるが、誤字といふよりは、「武器で守られた地域」と解釋したものであらう。

國は、或に領域を示す囗を加へた繁文。周代には國土全體ではなく首都とその周邊を指して用ゐられることが多かつた。

西周代には意符としてを加へた繁文(補註: 隸定形は䧕)も見え、東周代までは繼承されたが、それ以降には殘つてゐない。(補註: 字書に見える䧕には言及無し。)

殷〜西周代の金文の圖象記號(漢字多功能字庫汉典が載せる或作父癸方鼎(西周早期;集成2133)の形)が見え、これが或の初文であるかもしれない。なほ、殷代に出現すると戈に從ふ形(漢字多功能字庫が載せるCHANT:2396の形)を或の初文とする説もあるが、これは馘の初文(漢字多功能字庫・聝字條の載せる甲骨文(殷虛文字乙編:三七八七、同:二九四八)の形)のうち眉をに替へたもので、別字。

或に意符としてを加へたも同源の繁文で、篆文に初出。𡌳の形も見られる。今の字音は離れてゐるが、上古音はいづれも匣紐職部。

西周代には音を借りて「また(再度)」の意味での助字の用法が見られる。後代には「あるいは」として使はれてをり、西周代の用法からの轉換であらう。

漢字多功能字庫

甲骨文は柲(柄)を納める「管銎斧」あるいは「柲帽」の形に象る。武器の一種(李學勤、謝明文)。商代晩期の金文と甲骨文は同じ。後に柲の形と輪形が分離した。謝明文は、輪形(員の初文)は或の聲符となつたとする。輪形の周圍にはあるいは飾筆を加へ、柲の形は變形しての形となり、『説文解字』の小篆のもととなつた。後の人は變形した字體を根據に、疆域、國家の類の假借を或の本義あるいは派生義とし、附會して一個の會意字とした。

【補註】 漢字多功能字庫が或とする甲骨文について、落合は《合集》21522などの形はとして、CHANT:2396の形は馘として擧げる。

甲骨文、金文では多く人名、國名あるいは族名に用ゐる。

また假借して副詞とし、再、又と訓ずる。

また區域、疆域を表す。

黃金貴は西周金文の或はすべてと讀むと指摘する。大西克也は一步進んで春秋金文から郭店楚簡、楚帛書に至るまでの資料中の或、䧕、⿱宀或などはすべてと讀み、地域、領域を表すが、國家を表さないとする。《上博竹書一・緇衣》簡7亖(四)或(域)川(順)之。《郭店簡・緇衣》簡12作四方[川心](順)之。四或と四方はいづれも天下を指す。

屬性

U+6216
JIS: 1-16-31
人名用漢字
𢈿
U+2223F

關聯字

或に從ふ字を漢字私註部別一覽・戈部・或枝に蒐める。