聞 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
康煕字典
- 部・劃數
- 耳部・八劃
- 古文
- 𦕁
- 䎽
- 䎹
- 𦖫
- 𥹢
『唐韻』『集韻』𠀤無分切、音文。〔音1〕『說文』知聞也。『書・堯典』帝曰、兪、予聞如何。『禮・少儀』聞始見君子者。《疏》謂作記之人、不敢自專制其儀、而傳聞舊說、故云。
又『禮・玉藻』凡於尊者、有獻而弗敢以聞。『前漢・武帝紀』舉吏民能假貸貧民者以聞。
又姓。『正字通』宋咸平進士聞見。明尚書聞淵。又聞人、複姓。『後漢・靈帝紀』太僕沛國聞人襲爲太尉。《註》姓聞人、名襲、【風俗通】曰、少正卯、魯之聞人、其後氏焉。
又獸名。『山海經』杳山有獸焉、其狀如彘、黃身白頭白尾、名曰聞𧲂、見則天下大風。
又『廣韻』亡運切『集韻』『韻會』『正韻』文運切、𠀤音問。〔音2〕『韻會』聲所至也。『詩・小雅』聲聞于天。『書・呂𠛬』𠛬發聞惟腥。『釋文』聞、音問、又如字。
又『廣韻』名達。『書・微子之命』爾惟踐修厥猷、舊有令聞。『詩・大雅〔卷阿〕』令聞令望。《朱註》令聞、善譽也。
又通作問。『前漢・匡衡傳』淑問揚乎疆外。
又『韻補』叶無沿切、音近眠。『楚辭・九章』孤臣唫而抆淚兮、放子出而不還。孰能思而不隱兮、昭彭咸之所聞。還音旋。
- 部・劃數
- 耳部四劃
『廣韻』聞古作𦕁。註詳八畫。
- 部・劃數
- 耳部七劃
『玉篇』古文聞字。『虞世南・孔子廟堂𥓓』怡然動色、似䎹簫韶之響。『正字通』从釆。釆、古辨字。聲入耳能辨之也。別作𥹢、非。餘詳八畫。
- 部・劃數
- 耳部・八劃
『唐韻』古文聞字。註詳本畫。
又『集韻』書盈切、音聲。無形而響。
- 部・劃數
- 耳部・九劃
- 部・劃數
- 米部六劃
異體字
簡体字。
音訓義
- 音
- ブン(漢) モン(呉)⦅一⦆
- ブン(漢) モン(呉)⦅二⦆
- 訓
- きく⦅一⦆
- きこえる⦅一⦆
- きこえ⦅二⦆
- ほまれ⦅二⦆
- 官話
- wén⦅一⦆⦅二⦆
- wèn⦅二⦆
- 粤語
- man4⦅一⦆
- man6⦅二⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・上平聲・文・文』無分切
- 『集韻・平聲二・文第二十・文』無分切
- 『五音集韻・中平聲卷第三・文第三・微三文』無分切
- 聲母
- 微(輕唇音・次濁)
- 等呼
- 三
- 推定中古音
- mʏə̆n
- 官話
- wén
- 粤語
- man4
- 日本語音
- ブン(漢)
- モン(呉)
- 訓
- きく
- きこえる
- 義
- きく。聲音を耳に感じる。
- 聞こえる。耳に屆く。
- 聞かせる。傳へる。申し上げる。上聞。奏聞。
- 聞き知る。聞き知つた智識、事情、消息。見聞。新聞。傳聞。
- にほひを嗅ぐ。聞香。
- 釋
- 『廣韻』
聞: 『說文』曰「知聲也」。又音問。 𦖫: 古文。
- 『集韻』
聞䎽𦖫𥹢: 『說文』知聞也。古作䎽𦖫𥹢。
- 『康煕字典』上揭。
⦅二⦆
- 反切
- 『廣韻・去聲・問・問』亡運切
- 『集韻・去上・問・問』文運切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・問第三・微三問』亡運切
- 聲母
- 微(輕唇音・次濁)
- 等呼
- 三
- 推定中古音
- mʏə̆n
- 官話
- wén
- wèn
- 粤語
- man6
- 日本語音
- ブン(漢)
- モン(呉)
- 訓
- きこえ
- ほまれ
- 義
- 譽れ。名聲。
- 釋
- 『廣韻』
聞: 名達『詩〔大雅・卷阿〕』曰「令聞令望」。
- 『集韻』
聞䎹: 聲所至也。古作䎹。
- 『康煕字典』上揭。
- 補註
- 藤堂はwènを示し、今はwénと讀むとする。
- 古今文字集成はwénを示す。
- 漢典はwénを示す箇所、wènを示す箇所がある。
- 教育部異體字字典はwènを示す。
解字
古い字形は人あるいは卩の頭部に耳を顯示する形で、見と同樣の構造。
現用字(聞)は、耳に從ひ門聲の形聲字。
白川
形聲。聲符は門。
卜文に見える字の初形は象形。挺立する人の側身形の上に、大きな耳をしるす形で、望の初文が、挺立する人の側身形の上に、大きな目をしるすのと同じ構造法。その望み、聞くものは、神の啓示するところを求める意。また卜文の聞字に、口のあたりに手を近附けてゐる形のものがあり、これは「以聞」(天子に奏上すること)をいふ形であらう。のち昏聲の字となる。
『說文』に門聲の字を正字、昏、昬に從ふ字を重文とし、聲を知るなり
(小徐本)と聞知の意とする。
聽、聖の初形は、卜文の聞の初形に、祝詞の器の形である口を加へたもので、みな神の聲を聞く意。
周初の金文の《大盂鼎》に、我聞くに、殷の、命(天命)を墜せるは
の聞を䎽の形につくる。その昏は、金文の婚、勳、𨌲の從ふところと同じく爵の形を含む。神意を聞くときに、そのやうな儀禮があつたのかも知れない。⿰耳昬(補註: 𦖫の左右逆)はその形を存するものであらう。
聞は戰國期に至つて見える後起の字。門は聲符であるが、闇、問が廟門において「神の音づれ(訪れ)」を聞く意であることから言へば、廟門において神の聲を聞く意を以て、門に從ふものであるかも知れない。
藤堂
耳と音符門の會意兼形聲。門は、閉ぢて中を隱す門を描いた象形字で、中が良く分からない意を含む。聞は、よく分からないこと、隔たつたことが、耳に入ること。
落合
甲骨文は會意字。耳と卩、丮、人などから成り、耳で聞いてゐる人を表した字。小點を加へた字形もあり、恐らく小點は音聲を表す。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 聞く。聞かせる。報告がある場合にも用ゐられる。《合集》11485・驗辭
三日乙酉、夕、月有食、聞。八月。
- 祭祀名。《合集補編》3799
貞、烄聞、有從雨。
- 人名。第一期(武丁代)。聞子とも呼ばれる。
幾つかの字形が後代に繼承され、東周代にも耳を省略したものや小點を米に替へたもの(補註: 𥹢に似た形)などが見られるが、初文(會意字)の系統は秦代以降には殘つてゐない。
初文の系統に代へて、東周代には形聲字が作られてをり、耳を意符、昏を聲符とするもの(補註: 䎽、𦖫の系統)、耳を意符、門を聲符とするものがあり、聞は後者を承ける。昏の上古音は曉紐文部と推定されてをり、(聞(明紐文部)とは)聲母が異なつてゐる。恐らく形の近いものから聲符を選んだため、やや發音が異なつたのであらう。
漢字多功能字庫
甲骨文は人が手で口を覆ひ、耳を聳たせて聽く形に象り、聽聞の意と解く(于省吾)。手の部分や耳に二點を加へる形があり、一説には耳に入る音を表すといふ(張世超等)。金文の耳の形は人の形から離れ、二點は變化して小あるいは尔となり、人の脚の下に止の形を加へる。後にはまた女の形となる。戰國期に形聲字が出現し、あるいは耳に從ひ昏聲で、『說文』古文と相合ふ。あるいは耳に從ひ門聲で、秦系文字に屬し、踏襲されて今に至る。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 知聞を表す。《合集》2422
匕(妣)己聞。
商王の先妣が聽くか否か貞問してゐる。 - 引伸して消息を表す。《合集》6077
𢀛方亡聞。
は𢀛方の消息がないことをいふ。
金文での用義は次のとほり。
- 本義に用ゐ、聽聞を表す。
- 盂鼎
我聞殷述(墜)令(命)
。 - 中山王鼎
寡人聞之
。
- 盂鼎
- 音や評判が廣く傳はることを表す。
- 䣄王子鐘
其音悠悠、聞于四方。
- 王孫誥鐘
肅折壯武、聞于四國。
- 䣄王子鐘
- 讀みて問となす。問と聞は同源で、聞くことを欲すればすなはち問ひ、既に問へばすなはち聞く。王念孫は
聞即問字也、言不問、則所知之事少也
と言ふ。
金文では朝問、聘問を表す。陳侯因𬁼錞朝聞(問)者(諸)侯
。
- 假借して昏庸(愚昧、暗愚)の昏となす。毛公鼎
余非庸又聞(昏)、女(汝)母(毋)敢妄(荒)寍(寧)。
- 假借して婚となす。善夫克盨
隹(唯)用獻于師尹、倗(朋)友、聞(婚)遘(媾)。
「婚媾」は姻親(姻戚)の義。
文獻では聞を本義に用ゐる例はとても多い。
- 『尚書・君奭』
我聞在昔成湯既受命、時則有若伊尹、格于皇天。
- 《上博竹書五.君子為禮》簡3
[虍壬](吾)新(親)𦖞(聞)言於夫子。
消息、見聞を表す。
- 『論語・季氏』
友直、友諒、友多聞。
- 《上博竹書一・緇衣》簡19
古(故)君子多𦖞(聞)、齊而守之。
今本『禮記・緇衣』作故君子多聞、質而守之
。
また聞かれること、つまり有名であることを表す。
- 《郭店簡・語叢四》簡24
唯(雖)㦷(勇)力聞於邦不女(如)材。
- 『史記・五帝本紀』
舜年二十以孝聞。
傳播、傳揚(廣く傳へる、廣く傳はる)を表す。
- 『詩・小雅・鶴鳴』
鶴鳴于九皋、聲聞于天。
毛傳言身隱而名著也。
- 『管子・牧民』
不明鬼神則陋民不悟、不祗山川則威令不聞。
嗅ぐことを表す。
- 『韓非子・十過』
共王駕而自往、入其幄中、聞酒臭而還。
- 『論衡・四諱』
故鼻聞臭、口食腐、心損口惡、霍亂嘔吐。
季旭昇
釋義
聞く、聲を知る。『毛詩・小雅・鶴鳴』鶴鳴于九皋、聲聞于野。魚潛在淵、或在于渚。
戰國文字で䎽をあるいは用ゐて問となし、聞をあるいは用ゐて門となす。
釋形
甲骨文は人(あるいは立ちあるいは坐る)と耳に從ひ、耳で聽聞するの意と解く。金文は耳形が分離し、人形の頭部にまた飾筆を加へる。手で風を招き、聲の意をより明らかとする作例もある。
戰國古文はあるいは耳に從ひ昏聲に改め、あるいは耳に従ひ門聲に改める。
徐超
《新甲骨文編(增訂本)》に收錄される28個の字形は基本的に同じで、みな人が坐り耳を聳て手で口に當てるさまに象り、口のところにあるいは二點を加へ、人が口で言ふことを耳で聽く、あるいは口で説き能く耳で聞く、といふことであらう。
金文の西周早期の字形は、甲骨文の構形大意をなほ存する。
後世には變化して耳に從ひ昏聲の字となり、隸定して𦖞あるいは䎽に作る。昏は字形が譌變した後に聲化したもの。
聞の本義は聽到(聞く、聞こえる)、聽說、あるいは自己の口述が人をして聞こえしめ、知らしめること、引伸して聞達、名望などの義となる。
卜辭ではあるいは本義に用ゐる。
銘文ではあるいは聽到、聞名(有名)などの義に用ゐ、あるいは聲音の傳播を指す。あるいは昏、婚、問と通ず。
提示: 古代漢語においては、聽は一般的に外界の音を耳で能動的に感じることを意味し、聞は外界の音が耳に傳はることを意味する。故に聽は引伸して治理の義となり、まさに視が能動的に見ること、また引伸して治事の義となるのと同樣であり、聞や見にはこの種の意義は無い。聞の嗅ぐの義は、その後に生じたもので、その(變化の)經過は受動的な接受から能動的な「嗅ぐ」への過程である。
楚簡帛の字形は多く、譌變が比較的大きい。秦簡牘では聲符を改め(補註: 聞)、これを使ひ續けて今に至る。
屬性
- 聞
- U+805E
- JIS: 1-42-25
- 當用漢字・常用漢字
- 𦕁
- U+26541
- 䎹
- U+43B9
- 䎽
- U+43BD
- 𦖫
- U+265AB
- 𥹢
- U+25E62
- JIS: 2-83-87
- 闻
- U+95FB