聞 - 漢字私註

説文解字

聞

知聞也。从聲。無分切。

十二耳部

古文从昏。

説文解字注

聞

知聲也。往曰、來曰聞。『大學』曰、心不在焉、聽而不聞。引申之爲令聞廣譽。

从耳門聲。無分切。十二部。

古文从昏。昏聲。

康煕字典

部・劃數
耳部・八劃
古文
𦕁
𦖫
𥹢

『唐韻』『集韻』𠀤無分切、音文。音1『說文』知聞也。『書・堯典』帝曰、兪、予聞如何。『禮・少儀』聞始見君子者。《疏》謂作記之人、不敢自專制其儀、而傳聞舊說、故云。

又『禮・玉藻』凡於尊者、有獻而弗敢以聞。『前漢・武帝紀』舉吏民能假貸貧民者以聞。

又姓。『正字通』宋咸平進士聞見。明尚書聞淵。又聞人、複姓。『後漢・靈帝紀』太僕沛國聞人襲爲太尉。《註》姓聞人、名襲、【風俗通】曰、少正卯、魯之聞人、其後氏焉。

又獸名。『山海經』杳山有獸焉、其狀如彘、黃身白頭白尾、名曰聞𧲂、見則天下大風。

又『廣韻』亡運切『集韻』『韻會』『正韻』文運切、𠀤音問。音2『韻會』聲所至也。『詩・小雅』聲聞于天。『書・呂𠛬』𠛬發聞惟腥。『釋文』聞、音問、又如字。

又『廣韻』名達。『書・微子之命』爾惟踐修厥猷、舊有令聞。『詩・大雅〔卷阿〕』令聞令望。《朱註》令聞、善譽也。

又通作。『前漢・匡衡傳』淑問揚乎疆外。

又『韻補』叶無沿切、音近眠。『楚辭・九章』孤臣唫而抆淚兮、放子出而不還。孰能思而不隱兮、昭彭咸之所聞。還音旋。

部・劃數
耳部四劃

『廣韻』古作𦕁。註詳八畫。

部・劃數
耳部七劃

『玉篇』古文字。『虞世南・孔子廟堂𥓓』怡然動色、似䎹簫韶之響。『正字通』从釆。釆、古辨字。聲入耳能辨之也。別作𥹢、非。餘詳八畫。

部・劃數
耳部・八劃

『唐韻』古文字。註詳本畫。

又『集韻』書盈切、音聲。無形而響。

部・劃數
耳部・九劃

『廣韻』古文字。註詳八畫。亦作

部・劃數
米部六劃

『集韻』古作𥹢。註詳耳部八畫。○按『正字通』作。互詳耳部七畫註。

異體字

簡体字。

音訓義

ブン(漢) モン(呉)⦅一⦆
ブン(漢) モン(呉)⦅二⦆
きく⦅一⦆
きこえる⦅一⦆
きこえ⦅二⦆
ほまれ⦅二⦆
官話
wén⦅一⦆⦅二⦆
wèn⦅二⦆
粤語
man4⦅一⦆
man6⦅二⦆

⦅一⦆

反切
廣韻・上平聲』無分切
集韻・平聲二文第二十』無分切
『五音集韻・中平聲卷第三・文第三・微三文』無分切
聲母
微(輕唇音・次濁)
等呼
推定中古音
mʏə̆n
官話
wén
粤語
man4
日本語音
ブン(漢)
モン(呉)
きく
きこえる
きく。聲音を耳に感じる。
聞こえる。耳に屆く。
聞かせる。傳へる。申し上げる。上聞。奏聞。
聞き知る。聞き知つた智識、事情、消息。見聞。新聞。傳聞。
にほひを嗅ぐ。聞香。
『廣韻』: 『說文』曰「知聲也」。又音問。 𦖫: 古文。
『集韻』聞䎽𦖫𥹢: 『說文』知聞也。古作䎽𦖫𥹢。
『康煕字典』上揭

⦅二⦆

反切
『廣韻・去聲・問・問』亡運切
『集韻・去上・問・問』文運切
『五音集韻・去聲卷第十一・問第三・微三問』亡運切
聲母
微(輕唇音・次濁)
等呼
推定中古音
mʏə̆n
官話
wén
wèn
粤語
man6
日本語音
ブン(漢)
モン(呉)
きこえ
ほまれ
譽れ。名聲。
『廣韻』: 名達『詩〔大雅・卷阿〕』曰「令聞令望」。
『集韻』聞䎹: 聲所至也。古作䎹。
『康煕字典』上揭
補註
藤堂はwènを示し、今はwénと讀むとする。
古今文字集成はwénを示す。
漢典はwénを示す箇所、wènを示す箇所がある。
教育部異體字字典はwènを示す。

解字

古い字形はあるいはの頭部にを顯示する形で、と同樣の構造。

現用字(聞)は、耳に從ひ聲の形聲字。

白川

形聲。聲符は

卜文に見える字の初形は象形。挺立する人の側身形の上に、大きな耳をしるす形で、の初文が、挺立する人の側身形の上に、大きな目をしるすのと同じ構造法。その望み、聞くものは、神の啓示するところを求める意。また卜文の聞字に、口のあたりに手を近附けてゐる形のものがあり、これは「以聞」(天子に奏上すること)をいふ形であらう。のち昏聲の字となる。

『說文』に門聲の字を正字、昏、昬に從ふ字を重文とし、聲を知るなり(小徐本)と聞知の意とする。

の初形は、卜文の聞の初形に、祝詞の器の形であるを加へたもので、みな神の聲を聞く意。

周初の金文の《大盂鼎》に、我聞くに、殷の、命(天命)を墜せるはの聞を䎽の形につくる。その昏は、金文の婚、勳、𨌲の從ふところと同じく爵の形を含む。神意を聞くときに、そのやうな儀禮があつたのかも知れない。⿰耳昬(補註: 𦖫の左右逆)はその形を存するものであらう。

聞は戰國期に至つて見える後起の字。門は聲符であるが、闇、が廟門において「神の音づれ(訪れ)」を聞く意であることから言へば、廟門において神の聲を聞く意を以て、門に從ふものであるかも知れない。

藤堂

と音符の會意兼形聲。門は、閉ぢて中を隱す門を描いた象形字で、中が良く分からない意を含む。聞は、よく分からないこと、隔たつたことが、耳に入ること。

落合

甲骨文は會意字。などから成り、耳で聞いてゐる人を表した字。小點を加へた字形もあり、恐らく小點は音聲を表す。

甲骨文での用義は次のとほり。

  1. 聞く。聞かせる。報告がある場合にも用ゐられる。《合集》11485・驗辭三日乙酉、夕、月有食、聞。八月。
  2. 祭祀名。《合集補編》3799貞、烄聞、有從雨。
  3. 人名。第一期(武丁代)。聞子とも呼ばれる。

幾つかの字形が後代に繼承され、東周代にも耳を省略したものや小點を米に替へたもの(補註: 𥹢に似た形)などが見られるが、初文(會意字)の系統は秦代以降には殘つてゐない。

初文の系統に代へて、東周代には形聲字が作られてをり、耳を意符、昏を聲符とするもの(補註: 䎽、𦖫の系統)、耳を意符、を聲符とするものがあり、聞は後者を承ける。昏の上古音は曉紐文部と推定されてをり、(聞(明紐文部)とは)聲母が異なつてゐる。恐らく形の近いものから聲符を選んだため、やや發音が異なつたのであらう。

漢字多功能字庫

甲骨文は人が手で口を覆ひ、耳を聳たせて聽く形に象り、聽聞の意と解く(于省吾)。手の部分やに二點を加へる形があり、一説には耳に入る音を表すといふ(張世超等)。金文の耳の形は人の形から離れ、二點は變化してあるいは尔となり、人の脚の下にの形を加へる。後にはまたの形となる。戰國期に形聲字が出現し、あるいは耳に從ひ昏聲で、『說文』古文と相合ふ。あるいは耳に從ひ聲で、秦系文字に屬し、踏襲されて今に至る。

甲骨文での用義は次のとほり。

金文での用義は次のとほり。

金文では朝問、聘問を表す。陳侯因𬁼錞朝聞(問)者(諸)侯

文獻では聞を本義に用ゐる例はとても多い。

消息、見聞を表す。

また聞かれること、つまり有名であることを表す。

傳播、傳揚(廣く傳へる、廣く傳はる)を表す。

嗅ぐことを表す。

季旭昇

釋義

聞く、聲を知る。『毛詩・小雅・鶴鳴鶴鳴于九皋、聲聞于野。魚潛在淵、或在于渚。戰國文字で䎽をあるいは用ゐてとなし、聞をあるいは用ゐてとなす。

釋形

甲骨文は(あるいは立ちあるいは坐る)とに從ひ、耳で聽聞するの意と解く。金文は耳形が分離し、人形の頭部にまた飾筆を加へる。手で風を招き、聲の意をより明らかとする作例もある。

戰國古文はあるいは耳に從ひ昏聲に改め、あるいは耳に従ひ聲に改める。

徐超

《新甲骨文編(增訂本)》に收錄される28個の字形は基本的に同じで、みな人が坐り耳を聳て手で口に當てるさまに象り、口のところにあるいは二點を加へ、人が口で言ふことを耳で聽く、あるいは口で説き能く耳で聞く、といふことであらう。

金文の西周早期の字形は、甲骨文の構形大意をなほ存する。

後世には變化してに從ひ昏聲の字となり、隸定して𦖞あるいは䎽に作る。昏は字形が譌變した後に聲化したもの。

聞の本義は聽到(聞く、聞こえる)、聽說、あるいは自己の口述が人をして聞こえしめ、知らしめること、引伸して聞達、名望などの義となる。

卜辭ではあるいは本義に用ゐる。

銘文ではあるいは聽到、聞名(有名)などの義に用ゐ、あるいは聲音の傳播を指す。あるいは昏、婚、と通ず。

提示: 古代漢語においては、は一般的に外界の音を耳で能動的に感じることを意味し、聞は外界の音が耳に傳はることを意味する。故に聽は引伸して治理の義となり、まさにが能動的に見ること、また引伸して治事の義となるのと同樣であり、聞やにはこの種の意義は無い。聞の嗅ぐの義は、その後に生じたもので、その(變化の)經過は受動的な接受から能動的な「嗅ぐ」への過程である。

楚簡帛の字形は多く、譌變が比較的大きい。秦簡牘では聲符を改め(補註: 聞)、これを使ひ續けて今に至る。

屬性

U+805E
JIS: 1-42-25
當用漢字・常用漢字
𦕁
U+26541
U+43B9
U+43BD
𦖫
U+265AB
𥹢
U+25E62
JIS: 2-83-87
U+95FB