嘉 - 漢字私註
説文解字
説文解字注
美也。見『〔爾雅〕釋詁』。『又』曰、嘉、善也。『周禮〔春官〕』以嘉禮親萬民。鄭曰、嘉、善也。所以因人心所善者而爲之制。按《誩部》曰、譱、吉也。《羊部〔美字條〕》曰、美與善同意。經有借假爲嘉者。如『大雅』『周頌』毛傳皆曰、假、嘉也、是也。有借賀爲嘉者。『〔儀禮〕覲禮』古文余一人嘉之、今文嘉作賀是也。
从壴。壴者、陳樂也。故嘉从壴。加聲。古牙切。十七部。
康煕字典
- 部・劃數
- 口部十一劃
『唐韻』古牙切『集韻』『韻會』『正韻』居牙切、𠀤音加。『爾雅・釋詁』嘉、美也。『書・大禹謨』嘉乃丕績。『易・乾卦』亨者、嘉之會也。『周禮・春官・大宗伯』以嘉禮親萬民。《註》嘉、善也。『左傳・襄四年』鹿鳴君所以嘉寡君也、敢不拜嘉。『楚語』百嘉備舍。
又『周禮・秋官・大司宼』以嘉石、平罷民。《註》嘉石、文石也、樹之外朝、欲使罷民思其文理以攺悔。
又『前漢・律歷志』準繩嘉量。《註》張晏曰、準水平、量知多少、故曰嘉。
又『爾雅・釋詁』樂也。『禮・禮運』交獻以嘉魂魄。《註》嘉、樂也。
又或作假。『詩・大雅』假樂君子。《註》假、嘉也。『禮・中庸』作嘉。
又『史記・秦始皇紀』更名臘曰嘉平。
又縣名。『前漢・地理志』河內郡、獲嘉縣。
又『韻會』州名。漢屬犍爲郡、周置嘉州、宋攺嘉興府。
又姓。『左傳』周大夫嘉父。
又『韻會』魚名、嘉魚、出丙穴。
又『集韻』或作佳。詳佳字註。
又『集韻』亥駕切『正韻』胡駕切、𠀤音暇。『集韻』美也。或作假。
又叶居何切『詩・豳風』其新孔嘉、其舊如之何。又『小雅』物其多矣、維其嘉矣。『後漢・趙岐傳』漢有逸人、姓趙名嘉、有志無時、命也奈何。
音訓義
- 音
- カ(漢) ケ(呉)⦅一⦆
- カ(推)⦅二⦆
- 訓
- よい。よみする。⦅一⦆
- 官話
- jiā⦅一⦆
- 粤語
- gaa1⦅一⦆
⦅一⦆
- 反切
- 『廣韻・下平聲・麻・嘉』古牙切
- 『集韻・平聲三・麻第九・嘉』居牙切
- 『五音集韻・中平聲卷第四・麻第十七・見・二嘉』古牙切
- 聲母
- 見(牙音・全清)
- 等呼
- 二
- 官話
- jiā
- 粤語
- gaa1
- 日本語音
- カ(漢)
- ケ(呉)
- 訓
- よい
- よみする
- 義
- よい。美しい。
- 襃める。讚美する。
- 樂しむ。
⦅二⦆
- 反切
- 『集韻・去聲下・禡第四十・暇』亥駕切
- 『五音集韻・去聲卷第十一・禡第十七・匣・二暇』胡駕切
- 聲母
- 匣(喉音・全濁)
- 等呼
- 二
- 日本語音
- カ(推)
- 義
美也。或作假。
(『集韻』)
解字
白川
壴(鼓)と加の會意。加は力(耜)に祝禱の器(口)を加へ、耜を祓ひ清める儀禮。それに鼓聲を加へて秋の蟲害を祓ひ、穀物の增收を祈る。その禮を嘉といふ。
『説文解字』に美なり
とするが、もと農耕儀禮をいふ字であつた。
同じく丹、靑を加へて力(耜)を清めることを靜といひ、その清められた農具で收穫したものを「靜嘉」といふ。『詩・ 大雅・既醉』に籩豆靜嘉
の句がある。
のち嘉禮一般をいふ語となつた。
藤堂
壴(御馳走)と音符加の會意兼形聲。加は架(物を上に載せる)の意を含む。嘉は御馳走をたつぷりと上に盛るさま。善(膳の原字で、御馳走のこと)がよいの意となつたのと同樣に、廣く、結構である、目出度いの意に轉ずる。
落合
甲骨文は女と力の會意。少數ながら女に替へて子や卩に從ふ異體もある。
甲骨文での用義は次のとほり。
- 男兒を出産すること。甲骨文では力は出産の意に用ゐられ、嘉は特に男兒を出産することを表す。主語は女性であることが多いが、配偶の男性名を記すこともある。《合集》14002・驗辭
三旬又一日甲寅、娩、不嘉。惟女。
- 儀禮の名。《殷墟花園莊東地甲骨》480
甲戌卜子、呼⿰束令嘉婦好、用。在斷。
字形は金文で女が聲符の喜に置換され、嘉の字體になつた。後代には壴が意符、加が聲符と看做され、發音も加と同じになつたが、當初は喜と同音か近い發音だつたのであらう。
漢字多功能字庫
甲骨文は力と豆と來に從ふ。金文は爪と口を加へ、加を聲符とする。陳漢平は、來(麥)が豆の中にあるさまに象り、食器の中に麥や禾の類の食物が盛られてゐるさまを表し、本義は食物の美味であるとする。甲骨文、金文では來をあるいは木につくる。侯馬盟書では構形が多く變はり、あるいは爪を省く形、あるいは豆を省く形につくる。戰國文字の嘉はあるいは豆を省く。《清華簡一・皇門》簡2を參照のこと。
【補註】 漢字多功能字庫が嘉の甲骨文として擧げる字を白川『字通』も同じく擧げるが、落合は尌(樹)として擧げる。是非判斷不能。
甲骨文では地名に用ゐる。
- 《合集》36838
才(在)嘉。
- 《合集》37434
今日步于嘉、亡(無)災。
また、甲骨文に女と力に從ふ字があり、妿の初文とされる。甲骨文の妿の初文は多く嘉と讀み、あるいは娩と連用し、借りて分娩が順調か否かを卜問する。
- 《合集》6948
婦好娩[女力](嘉)。
婦好は商王武丁の妻で、娩嘉は分娩が順調なることを指す。 - 一説に嘉は男を生むことを指し、不嘉は女を生むことを指すといふ。《合集》14002正(上揭)。
金文での用義は次のとほり。
- 美好(美しいこと、素晴らしいこと)を表す。洹子孟姜壺
齊侯拜嘉命
、嘉命は美好な生命のこと。楊樹達齊侯有所請而天子許之、且有所授、故謂之嘉命。
- 動詞に用ゐ、贊美することを表す。中山王鼎
寡人庸其德嘉其力。
- 金文に「嘉賓」の語があり、貴い客を表す。嘉賓鐘
用樂嘉賓。
戰國竹簡での用義は次のとほり。
- 美好を表す。《清華簡一・耆夜》簡6
嘉爵速飲、後爵乃從。
は、酒を勸める辭で、速くこの美酒を飲み下し、その後また一杯續ける、の意。「嘉爵」は『禮記・士冠禮』祭此嘉爵、承天之祜。
に見える。 - 動詞に用ゐ、嘉許を表す。《清華簡一・保訓》簡7
帝堯嘉之。
屬性
- 嘉
- U+5609
- JIS: 1-18-37
- 人名用漢字